思想的社会主義
憂い凧
一章 思想的で
一話 哀れな人間
昔から変な思想を持って生きてきた。
その思想というのは個性とすることも出来ない。不気味な思想だった。
最初は、蛸の刺身を食べようとした時だった。刺身を食べるのは初めてで、蛸を食べようと手を指し伸ばそうとした時、何故か食べる気になれなかった。
嫌いな食べ物は食べてから決まるものか見て決まるものか。それは置いといて、こういうことを生理的に無理というのだろう。
俺は蛸を食べることは出来なかった。
それからも、たこ焼きやたこ飯は食べることは出来なかった。親からは食わず嫌いだと言われていたから、そうなんだと自覚した。
しかし、嫌いだけでは済まない行為を俺はした。
スーパーの刺身が売っているコーナーに近づくと大抵、魚を切っているところが見られる。マグロやサーモン、タイなど様々だ。
しかし、俺はひとつ、見てられないものがあった。蛸だ。蛸が切られると思った瞬間、俺は走り出して、関係者以外立ち入り禁止のドアを開け、職人の手を止めた。
職人があっけらかんとしている時には、俺は蛸を手に持って逃げようとしていた。
そんなことが許されるわけでなく、母親に捕まり、謝らせられた。
なぜ、そのような行動を取ったか聞かれたが、俺はあの蛸が自分のように感じたと正直に話したのだ。
精神的にも肉体的にも、蛸とリンクしているようであった。自分では、分からない。こんな思想があることが怖い。
俺は中学終わりの春休みにて、一人で海に行っていた。落ちつけて、なんだか心地よい。前世が蛸でもおかしくは無い。
「綺麗…。」
海を見ていると、地面が少し揺れた気がした。俺はすぐさま立って、海から離れようとする。
すると、目の前に黒い煙が出てきて、そこから変な音が聞こえる。びちゃびちゃと、水気の多い音がする。
「面白い人間よ。」
声が重なっているのか分からないが、何とも聞きづらい声だった。
「化…化け物?」
目の前に現れたのは、フードを被った立っている蛸であった。よくエイリアンの形はクラゲが立っているように表されるが、そのように蛸が立っているのだ。
「我は化け物では無い。しかし、人間界で言うと我は''神''に当たる。」
神、信じきれない動揺に、汗がダラっと垂れる。対して、涼しくもないこの気温はさっきまでの気温とは何か違うものを感じる。
「神?で、でも、何の神なんですか?」
俺は慌てて、その神と名乗る化け物に問う。心臓の鼓動が早くなり、焦りを感じる。
「我は''ハスター''。お前が思う、その蛸としての認識は少し間違ってはいるが、共通部分はあるに越したことはない。」
「つまり、蛸の神ってことですか。」
俺は少し納得をする。なぜ、ここに蛸の神が現れたのか理解出来そうであったからだ。
「気づいてはいるが、お前の思想はこの世界に存在するどの人間よりも気持ちが悪い。」
「…それは自覚してますよ。」
「この世界の歴史には様々な思想が生まれてきた。その中では、皆に叩かれても、唱える者もいた。」
神が近づいてくる。その迫力は遠くで見るより桁違いであり、自分の身長を疑った。
「だからこそ、この世界にはそういう思想が必要だ。」
フードの影から見れる、おぞましい雰囲気は喉を乾きさせるほどの威圧を放っている。
「何しにここに来たのですか。」
俺はびっくりするほど冷静に神に言った。
「我はお前に力を与えに来た。」
「力…。」
神に力を与えられる。こんなの何かあるに決まってる。というか、ないとおかしいレベルだ。
「代償があるんですか?」
力を貰うにはそれなりの対価が必要だ。それは絶対であり、条件でもある。
「…その思想が代償になる。今まで、その思想でどれほどの不幸が訪れたか忘れたか?」
それはご最もだ。俺はこの思想のせいで何度も後悔してきた。後悔する人生はもううんざりだ。だからこその代償か。
「納得がいった気がする。今までの人生はこのためにあったのかってぐらいの衝撃を受けた。」
「思想はどれほどのものか誰にも分からない。分からないものこそ巨大で、膨大で、永遠である。」
神は海の方を向いてそう言った。すると、神の姿が一瞬にして消え、激しい嘔吐感を覚えた。
「おえええ!」
不快感が常に続き、目眩が重なる。息を吸っているのに酸素が頭や肺に回らず、もはや、肺は無くなっているようだ。
「うっ、あっ、はぁ。」
気分が悪い。それどころではない。いや、考えている暇もない。走馬灯のようなものが頭に駆け巡る。走馬灯はこの人生の中で起きた出来事を振り返ることを言う。その出来事の中で助かる解決策を見つけるというためだ。しかし、こんなこと、現実で起きるわけない。走馬灯も一つの幻だ。
そして、目の前が暗くなっていった。
目が覚めた。淡い海の音が耳にすうっと入ってくる。
「終わった。」
今まで感じていた不快感はどこかに消えて、今はなぜか、解放的な気分である。疲れやストレスが生まれ変わったかのようになくなっている。あまつさえ、自分が嫌だった気持ちが無くなっているのだ。
「力…か。」
あれが本当に現実だったか分からないが、あの不快感は二度と忘れない。
考えもなしに春休みが過ぎていった。あの出来事の後からあの思想が弱まっていくのを感じていた。自分の一部がなくなっていくようで少し癇癪を起こす。
高校生活では、大人しくなれるだろう。きっと、いつしかの出来事がその一部を埋めるはずだ。
高校生活初日目、俺は起きた。とても天気のいい朝で、学校に行くには最適な環境だ。
「え?」
思わず、声に出す。自分の体から白い糸のようなものがたくさん、モヤモヤと出ていた。綺麗で、今にも切れてしまいそうな。
「…なんだこれ。」
ベットから起き上がり、鏡を見る。ボサボサな髪に平均的な体と顔の他に見えるのものは無い。つまり、この白い糸は自分にしか見えていない可能性がある。
階段を下がり、一階に行くと母親が台所で何かをしていた。
「朝ご飯、出来てるよ。」
俺がいることに気づいたのか、手を止めて、言ってくる。どうやら、本当に白い糸が見えてないみたいだ。
いちごジャムが塗っているパンに牛乳。今日よりいちごジャムが甘いと感じたことは無い。
「行ってきます。」
支度を済ませた俺は外に出る。高校生活では、何か得られるものがあるだろうか。そんな淡い期待を持ちながら、駅へと向かっていく。
とはいっても、二三駅過ぎたら降りるだけで遠い訳でもない。駅から降りて、少し歩いていると、目の前に可愛い髪型の女子生徒が歩いているのを発見する。
よく見れば、俺と同じ制服のようで、学校が同じなようだ。行く先は同じなので少し気まづさを感じる。
行く途中に、工事現場がある。赤い鉄骨が満点の空でゆらゆらとしている。何かで持ち運んでいるようだが、バランスは安定していない。相変わらず、白い糸は俺の体から出ているが、そのとき、白い糸が鉄骨の方へと伸びていった。
鉄骨まで行くと、鉄骨から白い糸が出てきて、次に鉄骨からその女子生徒へと伸びていく。白い糸は女子生徒からも出てきて、俺と同じような状況になった。
白い糸は俺と鉄骨と女子生徒を繋ぎ、何かを示唆しているようだった。でも、分からない。意図が掴めない。鉄骨はさっきよりもゆらゆら揺れだし、大いに落ちそうな様子が伺える。その下に女子生徒が向かっている。
なるほど、そういうことか。
俺は思いっきり走り出し、その女子生徒を押した。揺れていた鉄骨は急に降り出した雨の如く、降ってくる。それは俺に直撃し、壮大な痛さを実感する。
「えっ、嘘でしょ。」
本来であれば、鉄骨の下敷きになるのは目の前でびっくりしている女子生徒であった。しかし、俺が押したおかげかせいか、潰された虫のようにはならなかった。
意識が朦朧とする。頭の損傷が酷く、流血しているみたいだ。もう、終わっていく。
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長い話になると思います
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