第2話 会社の後輩小悪魔彼女は聞き上手

「元気元気って、絶対嘘です。家でも会社でもずーっと先輩と一緒にいるんですから、どれだけ些細な変化であっても私が気付かないはずがありません」


「そう簡単に彼女の眼は欺けませんよ?」


「先輩のことなら何でも分かるんですから」

//耳元で囁くように


「え? じゃあ先輩が好きな動物が分かるか?」


「先輩から好きな動物の話なんて聞いたこと……」


「ペンギンでしょ?」

//イタズラするように


「なんで分かるんだって、だって先輩と一緒に動画見ようと思ってYoutube開いたらいっつもおすすめ欄にペンギンの動画が出てくるんですもん」


「ちなみに私が寝静まった後に、こっそりペンギンの動画見てるのも知ってますからね。動画見ながらニチャニチャしてるのも把握済みです」


「毎晩毎晩飽きもせずペンギンの動画ばっかり見て、どんだけペンギン好きなんですか」


「もう私ペンギンに嫉妬してますもんね」


「正直私よりペンギンの方が好きなんじゃないですか?」


「それはないって、あまりにも信憑性に欠けますけど、まあ許してあげます」


「どうですか? 1発で正解を言い当てられた感想は」


「ふふんっ。だから言ったでしょ? 私先輩のことなら何でも分かる――」


「っと危ない危ない、今先輩私にクイズ出して話題をすり替えようとしたでしょ!」


「どうしたってもう逃げられないんですから観念してください」


「待ぁてぇルパァァァァン状態です」


「それ逃げられてないか? って、そういわれてみれば確かに――」


「ってちょっと!? またはぐらかそうとしたでしょ!?」


「先輩はペンギンのお散歩動画を毎晩ニチャニチャしながら見る必要があるくらい悩みを抱えてるんですから」


「はぐらかそうとしないで、限界を迎える前に私にぜーんぶ話しちゃってください。会社で何かあったんですよね?」


「……え、鈴木課長のミスのせいで先輩が取引先に怒られたんですか?」


「それ、1番気持ちのやり場が見当たらないやつじゃないですか……」


「その感じだともう分かりきったことではあるんですけど、一応の一応確認させてもらっていいですか?」


「先輩は悪くないんですよね?」


「……ですよね。かと言って自分のせいじゃないーって周りに言うこともできないですし、それなのに周りからは自分のミスみたいに見られちゃいますし、最悪ですねそれ……」


「それで、鈴木課長はなんて言ってるんですか?」


「うわっ、予想はしてましたけどやっぱりダンマリ決め込んで先輩のせいにしてるんですね……」


「自分のミスを認めないだけならまだしも、そのミスを部下になすりつけるなんて最低の上司じゃないですか。私腹がたってきました。一発ぶん殴ってやらなと気が済みません」


「おまえが腹立つ必要ないだろって、私の大切で大事で大好きな先輩にミスをなすりつけるなんて腹立つ必要しかないです!」


「上司なら『部下のミスは俺のミスだ』って言うくらい大きな器がないとダメでしょ普通。あー本当に腹立ちますねそれ」


「……大丈夫ですよ。みんなが先輩のミスだーって思ってても、私だけは先輩がクソが付く程真面目でミスしない人だって知ってますから」

//演技以来 頭を撫でる

//SE 頭を撫でる音


「恥ずかしいだろやめろって、私のことおんぶするのは恥ずかしがってないんですから頭撫でられるくらいではずかしがらないでください」


「それに夜はもっと恥ずかしいこと、たくさんしてますしね」

//耳元で囁くように


「ふふ。先輩の気持ちをほぐそうとしただけじゃないですか〜。怒らないでくださいよ〜」


「先輩私と一緒に暮らし始める前に、会社に遅刻しそうになったことあったじゃないですか」


「あーゆー時はもう体調不良とか言って会社を休んでおけばいいのに、正直に寝坊したって連絡してましたもんね」


「『正直ものは馬鹿を見る』なんて言葉もありますけど、正直に行動した分絶対にいつかいいことが返ってきますよ」


「それに私は、そんな馬鹿正直な先輩が大好きです」

//耳元で囁くように


「……それにしても本当に最低な上司ですね。私一気に鈴木課長のことが嫌いになりました」


「前々から鈴木課長の悪評は同期とかからも私の耳に届いてましたけど、本当にそんなことする人だったんですね……」


「これから先輩と喋る時だけは鈴木課長のこと、ヅラ課長って呼んでやります」


「ふふふー。そうでしょそうでしょー。私は冷酷無慈悲な女なんです」


「あれで上手く騙せてると思ったら大間違いですからね」


「で、それだけじゃないんでしょ?」


「だからなんで分かるんだよって、さっきも言ったじゃないですか。私は先輩の彼女だから、なんでも分かっちゃうんです」


「彼女の目を欺くならカメレオンくらい上手く同化してくれないと無理な話です」


「だからほら、もう全部吐き出しちゃいましょうよ。後輩の私に相談するのがダサいとか思わずに」


「……え、来月の休暇申請を取り消しされた?」


「それって私と一緒に北海道旅行に行こうと思ってた日の有給ですよね?」


「いやもうそれ完璧にパワハラじゃないですか! だって有給は残ってたんでしょ?」 

//怒るように


「有給が残ってるのに部下が申請してきた休暇を却下するなんて最悪ですね本当に……」

//呆れるように


「重要な案件でもあったんですか?」


「何もないって、何もないならもう完全にただの嫌がらせってことですよね……」


「同期の子たちもみんな自分の部署の上司にはたくさん文句言ってますけど、これが会社の体質ってやつなんですかねぇ」


「労働基準監督署案件ですよそれ」


「流石に鈴木課長に直談判しに行くわけにはいきませんけど、そういう事情があるならもちろん私も有給キャンセルしておきますね」


「あんなに楽しみにしてたのにって、確かに楽しみにしてましたけど先輩がいないのに休んでも意味ないでしょ?」


「それともあれですか? 俺がいなくても一人で旅行行ってこいとかってライオンみたいに我が子を谷に突き落とすタイプなんですか?」


「違うなら文句言わずに大人しく私が有給取り消すのに賛成しててください」


「彼氏が落ち込んでいる時は、それに寄り添うのが彼女ってもんなんですから」


「だからもし私が先輩みたいに隠れて落ち込んでたら、すぐに見つけて私のこと、助けてくださいね?」


「よしっ! 私の足の怪我が治ったらパーッと美味しいお寿司でも食べに行きましょう! 回転してないタイプのお寿司屋さん! もちろん先輩のおごりで!」


「って冗談ですよ。そんな時くらい私におごらせてください。いつもおごってくれてるんですから」


「……」


「……え、先輩なんで急に黙り込むんですか?」

//顔を覗き込む


「えっ!? な、な、なんで泣いてるんですか!?」

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