足を挫いた会社の後輩小悪魔系彼女をおんぶしたら、耳元がとにかくやばい
穂村大樹(ほむら だいじゅ)
第1話 会社の後輩小悪魔彼女は足をくじく
//SE 足音が近づいてくる
「あ、先輩。お疲れ様です。残業終わったんですね」
「え、私も残業だったのか?」
「いや、その、残業をしてたわけではないんですけど、帰るに帰れないというかなんというか……」
「な、なんで帰れないのかって、それはまあ色々と理由が--」
「誤魔化すなって言われても……」
「実は足を痛めちゃいまして」
「とりあえず会社の出口まで死に物狂いで歩いて来たはいいものの、足が痛くて動けなくて立ち尽くしてたところです」
「そ、その、多分そのうち動けるようになると思うので先輩は先に帰っててください」
「帰れるわけないだろって、だって先に帰ってもらわないといつ足の痛みが引いていくかも分からないし……」
「それなら先輩には先に帰ってもらって、ご飯の準備とかしててもらえるとありがたいなと思って。この足だと夜ご飯の準備もできなさそうなので--」
「ちょ、ちょっと先輩⁉︎ なんで急に私の前でかがむんですか⁉︎」
//SE かがむ音
「いや、おんぶに決まってるだろって、私おんぶしてほしいなんて頼んでないんですけど⁉︎」
「そ、それにここだと会社の人に見られちゃいますし……」
「いいから早く乗れって……もうっ。こうなるから足を痛めたこと言いたくなかったんですよ」
「先輩がそんなに優しくするから私先輩のこと好きになったんですからね」
//聞こえるか聞こえないかくらいの声で
「な、なんでもないです!」
「それじゃあ……お言葉に甘えて」
//SE おんぶされる音
「本当にすいません……。まさか窓に引っ付いてたカエルを眺めながら歩いてただけでバランスを崩して足を挫くとは思ってなくて……」
//SE ギュッとしがみつく音
//SE 聞き手が歩く音
「どんな理由だよそれって、私が訊きたいですよ本当にもう……」
「なんとか1人で帰るつもりだったんですけど、自分の部署から会社の出口まで歩いたときに想像を絶する痛みが襲ってきたので、もう帰る気力を失っちゃいました」
「まさか先輩におんぶしてもらって一緒に家に帰ることになるとは思ってませんでしたけど」
「はぁ……。自分が嫌になります」
//耳元で溜息をする
「なんで社会人にもなってこんな単純なミスばかりしちゃうんですかね。ミスしないようできるだけ気を付けてるつもりなんですけど……」
「自分のミスで自分が大変になるだけならいいんですけど、周りの人に迷惑かけちゃうんですよね……。今回も先輩に迷惑かかっちゃってますし」
「ミスくらい誰にでもあるって、そうかもしれませんが私の場合ミスの回数が多すぎて……」
「まあ今回に関してはただの不注意でミスでもなんでもありませんけど」
「先輩は優しいですね。こんな私を慰めてくれるなんて」
//耳元で囁くように
「……私、自分の職場の上司から『仕事ができない要領の悪い後輩』って言われてて、自分に自信がないんです」
「そんなことないですって反論してやりたいんですけど、実際ミスばっかりしてるので容量が悪いって言われても納得することしかできなくて……」
「え、それは私を教育できない上司が悪い?」
「ま、まあそういう考え方もあるとは思いますけど」
「……先輩より優しい人ってこの世にもういないんじゃないかって思うくらい優しいですね」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて少し気分が楽になりました」
「ま、まあ? 同じ会社のせいで? 先輩が他の女の子にまで優しくしてる姿が見えてしまうって言うのは? ちょっと嫌だったりもするんですけど?」
//嫉妬するように
「気を付けるって、別に気を付けてもわなくても大丈夫です。気をつけたら先輩のいいところが1つなくなっちゃうじゃないですか」
「私は誰にでも分け隔てなく優しくできる先輩が大好きなので、今のままの先輩でいてください」
「あ、でも優しくした結果先輩に好意を持つような女の子がいたらちゃんと言ってやってくださいね?」
「俺にはそれは大層可愛い彼女がいるから君の気持ちには応えられないって」
「ふふっ。まあ可愛いって部分は省いてもらって構いませんよ」
「あ、あの、その……。おんぶしてくれてありがとうございます。
「えっと、その、あの……」
「……」
//言いずらそうに
「重いですよね? 私」
「重くないって、そんなの絶対嘘です! だって私、グレートピレニーズくらい体重ありますし」
「なんだよそれって、あの大きくてモフモフで可愛いくてたまらないわんちゃんじゃないですか!」
「え、知らないんですか⁉︎ グレートピレニーズ知らないなんて人生の半分損してますよ……」
「な、なんで笑うんですか!? 可愛いじゃないですか、グレートピレニーズ!」
「可愛いかどうかが問題じゃない? ……まあそう言われてみればそうですけど」
「それに昨日夜中に先輩に隠れてカップラーメン食べちゃったんですよ」
「しかも同期と焼肉行った後ですよ?」
「え、重いのベクトルが違うしそれだけじゃそんなに体重は増えない?」
「あ、甘やかさないでください! 気を抜くとぶくぶく太っていっちゃいますよ!」
「健康にだけは気をつけろよって、彼女が太る心配より健康面の心配ですか……。本当に優しすぎて逆にちょっといじめられたくなりますよもう」
「本当に重くないから心配するなって、心配するに決まってるじゃないですか。もっと乙女の気持ちを理解してください」
「私は先輩に私のことずっと好きでいてほしいんですから。魅力がなくなったら終わりなんです」
「え、十分魅力的だし逆に軽すぎて心配になるくらいだからもっと食べた方がいい?」
「……それならしょうがないですね。先輩に心配かけるわけにも行きませんし、好きなだけ食べるようにします!♪」
「……嫌じゃなかったんですか? 私をおんぶして帰るの」
「嫌なわけないだろって、だっていくら私たちが付き合ってることは社内で隠していないとはいえ、同僚にも見られちゃいますし、今だってすれ違う人全員に見られてますし普通の人なら嫌がりますよ。恥ずかしくないんですか?」
「お前は恥ずかしいのかって、そりゃこれだけ見られてたらちょっとは……その……恥ずかしいです」
「俺みたいな地味でさえない男におんぶされたらそりゃ恥ずかしいよなって、どうしたらそんな卑屈な考え方になるんですか……」
「私が先輩に対してそんなこと思うわけないです。むしろコケコッコーってニワトリみたいに大きな声で、この人が私の彼氏ですーって叫びたいくらいなんですから」
「なんだよその動物例えシリーズって言われても、私が無類の動物好きなの知ってるでしょ?」
「とにかく、先輩はもっと自分に自信持ってください。先輩が魅力的だってことは私が保証します」
//SE 自身ありげに胸を叩く音
「はあー……。恥ずかしいとは言いましたけど、正直言うと足くじいてよかったなって思っちゃってる私もいるんですよね」
「だってこうして先輩に密着できるから」
//SE ギュッとしがみつく音
「あれー? 先輩なんか顔赤くないですかぁ?」
//イタズラするように
「え? 胸が当たってる? 何をいまさらそんなこと気にしてるんですかぁ」
//わざとらしく
「毎晩私のこと、襲ってるくせにっ」
//耳元で囁くように
「ふふっ。否定しないんですね」
「まっ、そりゃ否定できるわけないですよね。事実しか言ってないですし」
「毎晩襲われすぎて通報してやろうかって思っちゃうレベルですよ」
「まあ私も毎晩襲われたいなーって思っちゃってるんで、お互い様ですね」
「えっちぃのはアパートまで我慢してください」
//耳元で囁くように
「先輩、一つだけいいですか?」
「……」
「先輩元気ないでしょ」
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