第20話 [無生物テイマー、尋問する]
スキルを大量に身につけ、ニヤのスキルがきちんと使えるとわかった翌日の昼下がり、俺たちの耳にこんな情報が入ってきた。
山賊の一人が捕らえられた。
そいつは山賊の中でも料理の担当を担う『
だが一向に口を割らず、騎士たちは困っている、と。
「それで? なんで俺を呼んだんだエリサ」
「変な力持ってるあなたならなんとか口を割らせられるって思ったからよ!」
「尋問官なんてしたことないんだが……」
牢獄で働く看守が待機する場でエリサと話し合っていた。少しじめついた空間で、必然と気分が下がってキノコが生えてきそうな場所だ。
いきなり呼び出されては山賊を尋問してこいと。俺をなんでもできるスーパー超人だと勘違いしているみたいだな。
「まぁやるだけやるが……。期待はすんなよ」
「任せたわよ!」
看守さんに連れられ、件の山賊メンバーの一員がいる場所へと案内される。
部屋に入るとそこには、手を縛られ椅子に座らされている男の姿があった。ギロリと俺を睨み、あきれた様子のため息を吐く。
「はぁ……。どんな奴だろうと吐くわけないのに」
「お前が山賊の一員なのか?」
「あぁ、その通り。調理担当しているぞ」
「料理系の役職持ちなのか?」
「そうだ」
「じゃあボスたちの根城はどこだ?」
「言わない」
「チッ」
流れで言ってくれることを願ったが、そこまで馬鹿で間抜けな脳みそすっからかん野郎じゃなかったようだな。
思わず舌打ちが出てしまったが、話を戻そう。
「お前は山賊の中でも下っ端だと聞いたが、恨みとかはないのか」
「無いね。ボスはカリスマで超カッコいいんだよ。俺にはボスが生きて、料理さえあればいいんだ」
「……ふーん。ボスと並ぶくらい料理が大事なのか」
「もちろん。料理を作れれば俺はいつだって人生の絶頂地点さ」
んー……いけるかもな。
そう思った俺は早々に尋問を辞め、この部屋を出た。
「あ、アレン? もしかしてもう終わったの!?」
「終わったが、後でもう一回来る。ちょっと待っててくれ」
「え? はぁ、わかったわ」
少し用意をしよう。
あいつを絶望の底に突き落とす用意を、だ。
###
「なんだよ……またアンタかよ」
「そう喜ぶなよ」
とある準備を済ませた後、再び山賊の一人と同じ部屋に入っていた。だが先程とは違い、俺は少し砕けた演技をして男に語りかけている。
「まぁ安心しろ、今は尋問じゃあない。お前に料理をしてもらいたいんだよ」
「はぁ? なんでまた」
手を目の前に突き出し、指の隙間から男を見つめる。
「『剛に入っては郷に従え』、とは少し違うような気がするが、相手のことをより詳しく知ることでお前たちについてよく知れると思ってな」
「へぇ、変わってんなアンタ」
「それほどでも。さて、料理器具と具材を持ってきた。これで料理をしてくれないか」
収納袋から大量の料理器具と具材を取り出し、机に広げる。男は口が少し緩んでソワソワし出している。
それを見て俺も、少しほくそ笑む。
「料理は好きだが、手をどうにかしてもらわないとな」
「看守さん、もし暴れたらすぐ鎮圧できるので拘束を外してくれませんか?」
「まぁ……エリサ様のご友人ならば……」
看守に拘束を外してもらうと早速包丁を手に持つ。俺たちに襲いかかる様子はなく、純粋に料理を楽しもうとしていた。
しかし、ピタリと男の動きが止まる。汗が滝のように流れ出し、困惑の声が漏れ出ていた。
「え、ぁ、れ……? な、な、んで……」
「おやおやぁ? 山賊グループの中でも調理担当、その上料理がだ〜い好きのあなたならすんなり作り始めると思ってたんですがねぇ? ――何か、問題でも?」
肩にポンと手を置き、口を三日月のような形にして男に視線を送る。
「おま、お前……何を、した……ッ!!!」
△ △ △
《獲得役職》
・調理師
《獲得スキル》
【料理器具使い】【鮮度鑑定】【効率化】
▽ ▽ ▽
そう、役職をテイムをした。
料理なんて役職がなくたってできる。だが、役職を持った人間ならスキル頼りになるのは必然だ。そっちの方が美味いのを作れるから。
だから、スキル無しの料理の仕方がわからない。
「何を、何をしたァアアーーッッ!!!」
「【鋼糸吐き】」
「ヴッ!」
包丁で襲いかかってきた男を鋼糸で拘束する。冷たい地べたに這い蹲る男をしゃがんで見下し、耳に自白剤を注ぎ込む。
「今回お前が捕まったのはまぐれなんだろ? 人海戦術でもなんでもしたら仲間も時間の問題。このままだとお前は、大好きな料理もできず、大好きなボスも失うことになるぞ」
「も、もどせ……もどしてくれよぉ!!」
「五月蝿い、黙れ。お前は二択を選ぶしかねぇんだよ。
このまま二つを失うか、一つを得るか。選べ、お前の選択次第でこの先の人生の位置は決まる。どん底か、どん底よりちょっと上か」
涙をボロボロと流し、ただでさえ湿度が高いこの空間をもっと多湿にしている。対極的に俺は感情的にならず、なんの慈悲も持たずに問い詰める。
嗚咽し、目を泳がし、悩んでいる。
「は、吐けば……元に、もどしてくれる、のか……?」
「さぁ? だが、吐かなきゃ100%戻んねぇことはわかるだろ」
「う、ゔぅ……!! 俺は……俺はァア!!!」
男は、持てる情報全てを吐いた。
こいつは殺人や強姦を王都で十数件しているクソ野郎らしい。何かを奪うお前が、何も奪われないと思うな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます