第16話 [ガットら五人、破滅の道を進む]

 一方その頃、ガットらは……。


「はッ!!?」


 再び医療施設のベッドで目覚めていた。

 ゴブリンへの恐怖か心に刻み込まれており、周囲にいないか確認をしている。


「う……クソッ、クソがァ!!!!」


 布団をポスポスと叩いて埃を舞わせることしかできないガット。一緒にゴブリンにやられた四人も同室だが、意気消沈で止める気力もなかった。

 そんな中、つい先日に会ったナースが部屋に入ってきて険悪な顔で五人の顔を見比べてため息を吐いた。


「またあなたたちですね。ま、昨日よりは気分がいいだけ許しましょう。ゴブリンに負けた冒険者さん」

「ッ!! なんだとテメェ!!!!」

「うるさい」

「ゴフッ!」


 ナースの見事な爪先蹴りは拳を振りかざすガットの顎に直撃した。


「ゴブリンなら私でも勝てます。ゴブリン以下のあなた方に負けるとでも?」


 鬼の形相で睨むナースにたじろぐ五人。

 ナースの一挙手一投足に怯えている中、深いため息を吐いた後言葉を連ね始める。


「請求書の破棄、借金の滞納、設備の破壊、騒音、セクハラ、その他諸々……。院長もうんざりしていたので、手をあげる許可が出ました」

「ァ……ェ……?」

「そして金輪際、紅蓮の拳の治療は一切お断りさせていただくことにしました。……出て行け、街の病原体」


 五人はつまみ出され、路上に投げ出された。包帯ぐるぐる巻きで実に惨めな姿をしている彼らは、すっかり注目の的となっていた。


「あれって例の……」

「ゴブリンに負けた五人組みだってさ」

「ゴブリンに!? 雑魚すぎでしょww」

「前まで調子乗ってたのに今じゃこれかよ」

「ざまぁねぇな」

「もう生きて行けないだろww」

「こうもボロボロだとスッキリするわね」


 まるで世界から置いてきぼりにされたかのような感覚に陥った彼ら。発狂寸前になりながらギルドへと足を運んだ。


 しかし、そこでも味方は誰一人といなかった。周囲からの視線が嘲笑から憎悪へと変わっただけ。ギルドの恥さらしとして憎まれている。


「ギルドマスターがお呼びです」

「あ……ぁ……」


 不幸中の不幸。降り積もる最悪をただ受け入れる彼らだが、因果応報のことだった。


 恐る恐る部屋に入ると、怒りで体から湯気が出ているギルドマスターの姿があった。ガットを目に入れた途端、空気が張り詰めた。


「……座れ、お前ら」

「「「「「……はい」」」」」

「なぜ、俺が怒っているかわかるか」

「え、と……ゴブリンに、負けた、から……?」

「馬鹿か貴様らァア!! それだけだと思っているのかッ!! なぜ治療してもらったのにもかかわらず金を払わねぇ! おかげでこの俺がわざわざあんな医者の野郎のとこまで出向かなきゃいけなくなっただろうがボケナスがァア!!!!」

「ウグッ!」


 頭を鷲掴みにされ、机に叩きつけられる。アレンを虐めていた、あの時のように。


「金は払わず、ゴブリンにも負け、このギルドの最強というイメージが薄れていっているのだ!! 貴様らはクビだッ! このギルドから出て行けェエエ!!!」

「そ、そんな……! お、お願いしますギルマス! そこをなんとか……!」

「ケッ! ならば力を示せ。山賊が最近暴れているらしいからそいつらを殺して力を見せつけろ。できなければ死ね穀潰しが!!!!」


 怒声を存分に浴びせられ、生えてくるのは罪悪感と消失感。その感情はどんな除草剤でも消せそうになかった。

 五人は部屋から出て、どんよりとした気分で項垂れていた。


「この俺が……俺がァッ!!」

「なんでこんなことになっちゃったんですかね……」

「もう終わりだ……」

「こんなに苦しめなくてもいいだろうに……!」

「これからどうするん……」


 彼らが進める道はまだ多数ある。だが、彼らには二本の道しか見えていなかった。死ぬか、山賊を倒すか。

 もちろん、彼らの答えは決まっていた。それが無謀で、破滅が待っているとしても。


「山賊を……ぶっ殺しに行くぞ……!!!」


 三人集まれば文殊の知恵。しかし、無職五人が集まったところで、何もなし得ないことは、彼らは理解できなかった。

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