老耄の 背筋に消えぬ 清き芯

弱りきった肉体や白く減った髪。そのなかにも、質実な美意識がある人でした。貴方は毎朝美しかった。貴方が送り出してくれる声に振り向かなくなったことを、私は今さら後悔しています。


お母ちゃんの豆腐の切り方を貴方は矯正しなかった。お母ちゃんの葬式から暫くしたころに朝食を作りながら、私がお嫁に来た時に教わったのよ、と微笑みました。


どうして私は、貴方を愛せなかったのだろう。真っ当な反抗期を過ごさせてくれたということがどれだけ幸せなのか、本当は分かっていました。だからこそ、亡くなったときに自責の念に駆られるのが嫌で、嫌悪感を意識的に増幅させて行ったのです。もう家族が減るのは耐えられませんでした。これは、それ故の自己防衛です。何も言わなくていい、分かっています。ずっと、愚かなのは私だけでした。


貴方はあんなにも美しかったのですから、私は貴方と同じ血が混ざっていることに自信が無い。写真になってしまった貴方の抜け毛が絨毯に落ちているのを見つけては、私は堪らなくなるのです。

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