第45話 スタンピードその13 火竜一閃
銀の軌跡を二人の下へ届けんと、剣を振るう。
「
その隙に創時は『闘気剣』で攻撃を仕掛ける。
だが、その一閃は魔気の『鎧』を食い破るが、その下にある鎧を破るには足りない。
そんなこと分かっているとばかりに二人は動き続ける。
魔気の光線を避け、凶刃を防ぎ、隙を作る。
これまで共に戦線を一緒にしたことはない。
だが、互いが互いの背中を預け、己の為すことを行い続けるだけだ。
炎と氷の連撃が首無し騎士を襲う。
直撃が決定打になるかもしれないと考えているだろう首無し騎士はひたすらに二人の攻撃を直剣で防ぎ続けた。
「『焦炎』!」
「『吹雪』!」
炎と氷の相反する息吹が双方から放たれる。
首無し騎士は魔気を全開にして、防御を行う。
熱と冷気の
首無し騎士はその勢いに動きを止めて、防御に集中している。
だが、明らかに致命傷になりえない。
このまま続けても創時と藤崎の闘気が切れて負けるだろう。
だから、創時は決断する。
「藤崎さん、
「ああ、乗ろう!」
まだ何も話していないのにも関わらず、藤崎は
「一分、首無し騎士を相手に耐えてくれませんか。そうすれば俺が決めます」
「一分か……任せろ!」
全力を出していなかった首無し騎士相手でも敗北を期した藤崎が傷だらけの状態で全力の相手に挑む。
その中で一分を稼ぐ、並大抵のことではない。
そんな無茶な要望に文句ひとつ言わず、首無し騎士に肉薄した。
創時は『焦炎』や『感知』だけでなく『鎧』すら止め、ひたすらに己の中に集中する。
首無し騎士以外の魔物も創時を襲おうとするが、戦線に復帰したアリス他、その場にいた戦士たちがその邪魔をさせない。
残る全ての闘気を賭けて、奴を切り伏せる。
体内で錬成を続ける炎の
火はより大きな炎へ。そして、その炎は大火へ。
火はどんどんと形を変えていく。
明らかに圧力が大きくなっている創時を見て、危機感を覚えた首無し騎士は創時の下へ行こうとする。
「ここを通すわけにはいかない!」
だが、藤崎の氷の一閃がその足を止めさせた。
創時の言葉を信じ、この一分に全てをかける。
どれだけ闘気が放出されようが、全力で『鎧』を強化し、氷の勢いを強める。
これが己に課された役割だと、その役割を全うしようとする。
戦いを始めたときに比べてもその動きは速くなっている。
限界を超えて強化されている体が悲鳴を上げる。
内臓の傷が再び開き、口から血が零れ落ちた。
そんな体の悲鳴を無視して、全力で攻撃を加え続ける。
攻撃を加え、こちらに意識を向けなければ、首無し騎士はすぐさま創時の下に向かってしまう。
『鎧』すら発現してない創時に反応ができるはずがない。
「うおおおおお!」
血が混じった唾を吐きながら、雄叫びを上げる。
最初の頃は体内で秒数を数えていたが、すでに数える余裕はない。
全力を出さなければ、すぐに切り殺される。
藤崎の勢いに呼応するように首無し騎士の勢いも増していた。
時間稼ぎをするという考えではもはやその足を止めることはできない。
己自身の手で仇敵を打ち破らんとしなければ、どうしようもない。
銀の
『氷盾』で一瞬の時間を稼ぎ、剣を持つ腕を狙って、『闘気剣』を振るう。
魔気に防がれるが、その衝撃は首無し騎士の剣線を乱すには十分だ。
紙一重の回避をし、藤崎は連撃を続ける。
創時は肌でその奮闘を感じていた。
だが、手出しをできなかった。
ここで中途半端に出てしまえば、この時間が無駄になってしまう。
最大火力を出せる状況でなければ、前に出てはならない。
いくら藤崎が危険な目に遭っても、己のやるべきことに集中せねばならない。
全てを焼き尽くさんとする炎は形を変える。
そして、ついに――竜となる。
アリスと共に
世の中の全てを滅ぼさんとする暴力の化身が顕現した。
竜は創時の『闘気剣』を覆う。
それと同時に創時は目を開き、『鎧』を発現し直した。
これが創時の残る全て。
死の淵ギリギリの闘気の放出だ。
生きているのであれば、それで十分。
その攻撃を首無し騎士に届けることができるのだから。
最後の輝きと言わんばかりの攻勢に出ているが、それもどれだけ耐えられるか分からないだろう。
だが、間に合った。
「藤崎さん!」
その一言に藤崎は命かながら、首無し騎士の攻撃範囲から逃れる。
これからは創時の番だと決着の時を今か今かと待つ。
首無し騎士はすでに己の前からいなくなった藤崎など気にしている場合ではない。
それよりも明らかに危険な創時を見なければならない。
首無し騎士が創時の方を振り向くと、すでに目の前に創時が来ていた。
迎撃しようとするもすでに創時は攻撃体勢に入っている。
己を焼き殺さんとする火竜を見て、首無し騎士は恐怖に陥る。
すでに回避など間に合わない。
「『
必殺の一撃が首無し騎士へと吸い込まれた。
なんとか首無し騎士は己の直剣をその軌道上に置くことができた。
しかし、その竜の動きを止めることなどできない。
幾度も炎と氷という急激の温度変化に影響を及ぼされていたその剣の耐久力はすでに鉄屑同然だった。
パキンと情けない音を残しながら、二つに斬られた。
竜は勢いを止めることなく、首無し騎士の命を刈り取らんと進み続ける。
竜は魔気などいともたやすく消し飛ばし、その本体へと牙を向ける。
鎧もすぐに溶かし、内部にある朽ちた肉体へと迫った。
赤く染まった刀身はその強靭な肉体を食い破り、両断した。
その刹那、鳴り響く轟音はまるで竜の咆哮のようであった。
竜は不死者の肉体を燃やし尽くし、その勢いのまま天へ上った。
その戦場全体を覆うような瘴気が放たれ、周りにいた者に吸収される。
視界が晴れると、先ほどの現場には灰とその場に倒れていた創時の姿があった。
藤崎は痛む体に鞭を打ち、創時の腕を己の首に回し、持ちあげた。
力を失った肉体からはほのかに命の灯を感じる温かさがあった。
「ありがとう……」
安らかな顔をしている創時に囁きかけながら、英雄の
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