第43話 スタンピードその11 最後の戦い

 機構兵など多くの魔物を倒してきた創時そうじ大量発生スタンピード前に比べて格段に強くなっている。

 それでも鎧を纏う魔気を突破し、首無し騎士デュラハンに傷を与えるには生半可な攻撃では届かない。


 創時は牽制として『焦火』を放った。

 地を這いながら首無し騎士に迫る炎に追従するように創時は炎を『闘気剣』に纏わせ、肉薄する。


 首無し騎士は『焦火』をそのまま無防備に受け、次いで放たれた創時の一閃を直剣で防いだ。

 『焦火』の炎は魔気を食い破らんとしているが、その防御力から多少の魔気を散らす程度になってしまった。


「はあああ!」


 鈍色の刀身と白色の刀身が互いを削り合う、鍔迫り合いが行われる。膂力は互角。

 であれば、剣以外の技にて決着をつけようとするだろう。

 二人は同時に次の攻撃へと移った。


 創時は空いている左手から『闘気砲』の闘気を炎に変換した『火炎砲』を、首無し騎士は藤崎ふじさきに行ったように自身の目から魔気の光線を放った。

 火炎と闇の光線が拮抗する。

 直進しようとする光線を食い止めるように炎がその行き先を塞ぐ。


 再び膠着こうちゃくの時が続く。

 その拮抗に再び創時が動きを見せる。

 『闘気剣』の発現を止め、首無し騎士のふところへと潜り込む。


 急に力を加えるところがなくなった首無し騎士は思わず剣を振るってしまう。

 だが、すでにそこには創時はいない。

 体勢が変わったことで、魔気の放出先は創時から外れ、あらぬ方向へ飛んで行った。


 『闘気剣』を再度発現している時間はない。

 己の右拳に炎を纏わせる。

 その炎は『鎧』の闘気を燃料として更に激しく燃え上がらせた。


 『鎧』の闘気を最大限大きくし、身体能力を大幅に向上させる。

 乾坤一擲けんこんいってきの一撃は十分すぎる気迫と共に、首無し騎士の胴体へと叩き込まれた。


 振りぬかれた拳の勢いそのまま、首無し騎士は吹き飛び、近くにあったビルの壁へと激突した。

 こんなもので死ぬはずがないと分かっている創時はすぐさま次の行動に移る。

 左手で『火炎砲』を放ち、再度『闘気剣』を発動して駆け出す。


 首無し騎士の激突の衝撃と『火炎砲』の威力でビルが一棟崩壊した。

 その残骸はほぼすべて首無し騎士へと降り注いだ。


 轟音と共に砂煙が巻き上がる。

 創時はその砂煙の中を突き進み、ビルの残骸によって動きが制限されているだろう首無し騎士を狙う。


 しかし、そんな創時の予想は甘いと言わんばかりに首無し騎士のあたりで爆発が起きる。

 四方八方に吹き飛ぶビルの残骸を『盾』で防ぎながら、その距離を詰め続けた。


「化け物すぎるだろうが!」


 悪態をついていると、砂煙の中を的確に撃ち抜く、魔気の光線が飛んできた。

 高速で直線状に飛んでくるその一撃を体をじり回避し、体勢を低くしながら更に歩を進める。


 砂煙を吹き飛ばす勢いで首無し騎士が飛び込んでくる。

 それを『感知』で分かっていた創時はその太刀筋を見極め、軌道上に『盾』を設置する。

 一瞬の膠着の末、『盾』は破壊されるが、その隙を作れれば十分である。


 鎧の付け目である、肘の部分を狙い『闘気剣』を振るう。

 相手も素直に攻撃を受けるわけではない。

 魔気を最大限に放出し、創時の一撃を防ぐ。


 相手の防御を突破できないと悟った創時はすぐに『闘気剣』を戻し、炎を最大限に強めた状態で、回転切りを放った。

 その攻撃は首無し騎士の剣によって防がれる。


 再び鍔迫り合いになることを避けたい両者は地面を蹴り、にらみ合う。

 首無し騎士は先ほどの創時の一撃を受けて鎧が凹んでいる。

 多少のダメージを負っているはずだが、そんなそぶりは一切見せない。


 不気味なまでに赤く光る眼が創時の漆黒の双眸をじっと見つめる。

 この敵を取るに足らない者ではなく、自らの好敵手として認識した瞬間だった。

 創時は首無し騎士の顔がにやりと笑った気がした。


 そのような戦闘に関係のない思考を吹き飛ばすような衝撃がやってくる。


「おいおい、マジかよ……」


 首無し騎士を纏っていた闇の力はその輝きを強め、全てを飲み込まんとする迫力に包まれた。

 これからが全力だ――そう言わんばかりの態度だった。


「いいぜ……やってやるよ!」


 創時も負けじと『鎧』の闘気を最大限大きくし、『闘気剣』を包む炎の勢いを強める。

 漆黒の騎士と純白の炎の戦士の激闘はまだ続く。


     *  *  *


 創時の指示に従ったアリスは二人を背負い、後方に下がった。

 自衛隊にいた衛生班が二人の怪我を見るために、アリスから二人を奪い取った。


「藤崎二尉はまだ生きています! 早く治療を!」


 二人の状態を確認した自衛隊員はすぐに治療の指示を出す。

 無情にも男は死んでいたが、残る者の命を零さないようにできることを最大限行おうとする。


「私がやるから!」


 アリスは命の灯が消えてかけている藤崎の元に行き、治療を始める。


「おい! そこをどけ!」


 このようなときに態度を取り繕っている場合ではないのだろう、語気を強めた自衛隊員が藤崎のそばにいるアリスを引きはがそうとするが、その光景を見て、動きを止めた。


 アリスが手をかざしているところから闘気とは異なる光が放たれ、藤崎の体に空いていた穴を塞いでいた。


「な、何なんだ……」

「闘気の力よ。これでこの人は助かるけど……」


 そう言いながら、アリスは男に視線を向ける。

 すでに事切れた者に治療を施したところで何も効果をなさない。

 それが分かっているからこその悔しさだった。


 ほどなくして、藤崎が気を取り戻した。


「ここは……」


 まだ現状を理解できていないようで、辺りを見渡している。


「まだ動かないでください。治療が完全に終わっているわけじゃないんですから!」


 アリスはすぐに動こうとする藤崎を止めながら、治療を行う。

 その光景と自身の状態を見て、ようやく気を失う前のことを思い出した。


「あの首無し騎士はどうなった⁉」

「まだ何とか抑えられています。ですが、それもいつまで続くか……」


 アリスの治療だけでは信用できない、自衛隊員は藤崎の状態を確認しながら指をさす。

 その指の先では光と共に轟音が響き続いていた。


「一体、誰が……」

「あなたも知っていると思います。そして、あなたよりも強い人です」


 そのアリスの言葉にすぐに一人の男の顔が頭に浮かんだ。


「彼がこっちに来ているのか」

「はい、そうみたいです」


 藤崎は安心したように笑った。


「彼は本当に働きすぎだよ……自衛隊でもないのに、誰よりも人の命を大切にしている。けど……」


 そう言いながら、藤崎は立ち上がった。

 まだ治療は完全に終わっているわけではないため、アリスがそれを制止しようとするが、藤崎の動きは止まらない。


「たった一人の子供だけに日本の命運を託すのは許されない」


 治療は不十分とはいえ、すでに傷も塞がり、動きにも問題ない。

 多少の痛みはあるが、そんなの訓練で慣れっこだ。


 『闘気剣』を発現し、藤崎は再び戦場へと舞い戻った。

 目指すは創時と首無し騎士のもとへ。


 その進路を邪魔する死者どもを切り伏せながら、目的地へ向かう。

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