第3話 萌香&耕太
Episode10
シリオン企画の1階にある保育スペース。
そこには、3人の保育士がいる。
基本は、乳児の保育がほとんどだが先週から間宮課長夫妻の梨花と紫亜が通ってきている。
保育スペースにいる先生は、保育士資格のみを持つ1人と保育士資格と幼稚園教諭免許を持つ1人、そして元小学校教諭で保育資格を持つ1人がいる。
「「おはようございます」」
そう言って、間宮夫妻がやってくる。
宗吾は、両腕には梨花と紫亜が抱かれていた。
愛華の両腕には、今日の着替えや必要な物が提げられている。
「おはようございます。
梨花ちゃん、紫亜ちゃん。おはよう」
「「萌香先生、おはよう」」
茶髪の髪を後ろで結ぶ女性がやって来る。
彼女、西崎 萌香は元小学校教諭の女性である。
宗吾は、娘たちを下ろす。
「パパ、愛華ママ。いってらっしゃい」
「パパ、ママ。いってらっしゃい」
「「いってきます」」
愛華は、荷物を萌香に渡すと娘たちからの挨拶に見送られ宗吾と共に仕事に向かった。
萌香は、荷物を持って彼女たちの専用の棚に置いた。
「えっと、あとは今日から4歳児の子が来るんだったかな?」
彼女は、小さく呟いていた。
しばらくすると、1人の男性が少女と手を繋いでやって来る。
「おはようございます、今日からお世話になります。進藤です」
「あ、はい。進藤さんですね。えっと、4歳児ですね。
担当します。西崎 萌香です。よろしくお願いします」
そう2人は挨拶を交わす。
そして、お互いが顔を見合わせると「えっ」と言う声がどちらからも漏れる。
「えっと、呉羽の事宜しくお願いします」
「あ、はい。いってらっしゃい」
少女・・・呉羽を置いて男性は行ってしまった。
もう始業時間が迫っていた。
それは、彼も急ぐはずだろう。
萌香は、腰を下ろして足元にいる呉羽に話しかける。
「呉羽ちゃんだね、萌香先生だよ。よろしくね」
「・・・よろしく」
呉羽は、ぼそぼそと言う。
人見知りなのか内気なのかは今のところ分からない。
そこへ、梨花と紫亜がやってくる。
「私、梨花」「私、紫亜」
「「いっしょにあそぼ」」っと呉羽の手を取って奥へと向かった。
萌香は、「はぁ」と溜息を吐いた。
「そっか、結婚してるんだ」
そう呟いた。
萌香と彼・・・進藤 耕太は数日前に会っていた。
彼女が、体調不良で早退することになった日に救ってくれたのが耕太だった。
それをきっかけに萌香は一目惚れしたのだった。
それなのに、呉羽が現れたのだから気が気ではない。
今日は、1日しょんぼりとしていた。
「あれ?萌香ちゃん、どうしたの?」
そうして、話しかけてきたのは愛華だった。
「間宮さん、お帰りなさい。えっと・・・」
萌香は、そっと愛華の耳元で事情を話す。
「まぁまぁ」と嬉々とした声を上げていた。
「えっと、確か人事部だね」
やがて、奥からやってきた梨花と紫亜を連れて保育スペースを出て行く愛華。
保育スペースには、ぽつんと呉羽が残っている。
といっても、4歳以上ではと言うだけで他にもまだ預かっている子供たちはいる。
社長夫妻の娘である
時刻は、まだ定時過ぎ。
基本的には、定時退社を推奨している企業なので極端な残業はないだろう。
これは、弓弦や宗吾、愛華がブラック企業出身の為である。
もしも、残業が必要の場合は上司への申請が必要になる。
やがて、総務部の阿野 香澄と晴夏がやってくる。
「お疲れ様です、香澄さん。晴夏さん」
「いつもありがとうございます。あら、寝ちゃってるのね」
そう言ったのは、香澄だった。
壮真は、まだ乳児の為寝てる時間が主ではある。
彼女は、産休を取得していたが半年で復帰している。
両親の体調が思わしくなく仕事をしないといけなくなってしまったからである。
香澄は、持参していたベビーカーに壮真を載せる。
「晴夏さん、お先に失礼します」
「うん、香澄さん。また明日ね」
晴夏は、彼女を見送る。
「さてと、花楓は?あら?」
花楓は、呉羽のそばにいた。
「えっと、人事部の進藤さんから本日お預かりしている呉羽ちゃんです」
「ああ、この子が・・・萌香ちゃん」
「はい?」
萌香は、首を傾げる。
晴夏の歯切れがあまりにも悪いからだろう。
「耕太くんを助けて欲しいの」
「耕太くん?えっと、進藤さんのことですか?」
「うん、急に子供を養うことになって彼大変だろうから」
萌香は、よくわからないような表情をする。
実は、呉羽は耕太の娘ではない。
というよりも、彼は結婚も恋人もいない。
新卒で入社したばかりなのだが・・・。
「耕太くんね、きっと育児なんて慣れてないと思うの」
「あの・・・」
そんな話をしていると、耕太がやって来る。
「すみません、遅くなりました。
あ、副社長。お疲れ様です」
彼の横には、弓弦が立っていた。
どうやら、2人で話をしていたらしい。
「晴夏、ごめんね。遅くなっちゃった。
萌香さんもごめんね。遅くなって」
弓弦が、2人へと謝る。
そうしていると、子供たちが気づいたようでやってくる。
「呉羽、ごめんね。遅くなって」
「ううん、大丈夫」
耕太のズボンにしがみ付きながら言う呉羽。
「弓弦。いまね、萌香ちゃんに頼もうかと思ってね」
「ああ、確かに適任だけど・・・萌香さん、少しだけこの2人の事気に掛けてくれないから。いやなら全然断ってくれていいからね」
「あの・・・事情が読めなくて」
晴夏と弓弦が、顔を見合わせる。
彼は、首を傾げる。
そして、晴夏がはっと気づいた。
「あ!私、説明を省いちゃった」
「もう、晴夏。ダメじゃないか、それじゃあ萌香さんが困るでしょ」
彼女は、舌を出して笑った。
萌香は、苦笑いをする。
それから、詳しいことを話し始めるのだった。
実は、呉羽は弓弦の姉の娘である。
先日、その姉が急逝した。
脇見運転のトラックによる事故。
即死だった。
姉は、女手一つで呉羽を育てていた。
耕太の両親は、数年前に亡くなっており彼が呉羽を引き取ることになった。
だが、耕太は普段カップ麺やコンビニ飯、外食ばかり。
社宅には住んでいるが、家事がほとんどできない。
そんな彼の事を知っていた弓弦は晴夏に相談していた。
そして、片や萌香はと言うと・・・。
彼女もまた社宅に住んでいる。
両親は既にいない。
元々は、4月から小学校教諭として働くはずだった。
それがなぜ、シリオン企画の保育スペースにいるかと言うと3月初めに両親が自宅火災により他界。
姉が半ばに火災で負った火傷が原因で立て続けに亡くなり、4月1日から就労できなくなってしまった。
火災は、隣家の寝煙草が原因だった。
深夜だったこともあり延焼し、隣家6棟を巻き込む大火災となった。
そして、内定取り消しになった。
そんな時、晴夏に拾われたのだった。
萌香の姉が、晴夏の前職の同僚だった繋がりである。
2人は、どちらも新卒だったため同い年である。
歳が近いことと似た境遇な事から晴夏が話を振ったというわけである。
なお、萌香は栄養教諭の免許も保有している。
資格ジャンキーの為、大学時代はいろんな資格を取得していた。
「確か、今年の新卒入社はちょうど耕太と萌香さんだけでね。
社宅の部屋も確か近かったと思うんだ」
抱き抱えられた子供たちは、それぞれ眠ってしまっていた。
呉羽は、耕太の腕の中で。
花楓は、晴夏の腕の中でそれぞれである。
「えっと、西崎さん。良かったら、お願いしてもいいですか?」
「はい。進藤さん、私でよければ力になりますよ」
こうして、2人の共同生活が始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます