kill and kiss

小槻みしろ/白崎ぼたん

第1話

 あの時、私はきっと彼女にキスすべきだったのだ。


 いつだって死にたがっている子だった。

 彼女と会って、私は変わった。一人ではなくなった。

 それでも、彼女はいってしまった。


 いつも、机に仰向けに倒れるように寝ていた。あの時、何を見ていたのだろう。


 死ねないなら何より強い絆を、死に負けない傷を君に与えてしまえばよかった。


 あの時私はあなたにキスすべきだったのだ。


 叫びたいほど、あなたといきたかったのだから。



 彼女が好き、きっと一生好きだった、なのにどうして どうしてあの時言うことが出来なかった、のは、


 私の16才の時が知っている。


 私の少女が、ずっと大切に抱えて眠ってしまったそれを、当然のように手にしていたからだ。



「ここでよろしいですか」

「ええ」

「どうしましたか」

「いいえ、少し、なつかしくって……ほんの少し見て回ってもいいですか」

「構いませんよ……冷えますね。ストーブをつけましょうか」

「いいえ、大丈夫です。少し、見るだけですから」

「そうですか、では……私はあすこにいますから、また声をかけてください」

「ええ、ありがとうございます」


 おかまいなく、


 そうですか、


 ええ、


「ではまた、お呼びしてください」


 私はあすこにいますから、

 一礼、互いに目をあわせるだけの気のおけない会釈であった。用務員室を指差しゆびさし、そこへ向かい歩き始めた。初老の曲がった痩躯を一先ず見送ると、また、中へと目を向けた。


 2-f


 見上げると、クラスの標識すら変わっていない。取り残されたようにそこはあった。

 その間にも、用務員の男性の遠ざかる足音を背越しにじっと感じる。、実際に感じていた音の長さより、初老の小さな背の用務員室に引っ込んだのは早いのであるが、むしろ聞くのは彼のそれ自体ではなく不思議な凍えた残響を、目の前の意識に投射しているのであった。

 中へと歩みいる。スリッパ越しの足音を、寒風が凍らせ落としていく。音は甲高く、そして耳の遠くへ響いていく。

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