kill and kiss
小槻みしろ/白崎ぼたん
第1話
あの時、私はきっと彼女にキスすべきだったのだ。
いつだって死にたがっている子だった。
彼女と会って、私は変わった。一人ではなくなった。
それでも、彼女はいってしまった。
いつも、机に仰向けに倒れるように寝ていた。あの時、何を見ていたのだろう。
死ねないなら何より強い絆を、死に負けない傷を君に与えてしまえばよかった。
あの時私はあなたにキスすべきだったのだ。
叫びたいほど、あなたといきたかったのだから。
彼女が好き、きっと一生好きだった、なのにどうして どうしてあの時言うことが出来なかった、のは、
私の16才の時が知っている。
私の少女が、ずっと大切に抱えて眠ってしまったそれを、当然のように手にしていたからだ。
◇
「ここでよろしいですか」
「ええ」
「どうしましたか」
「いいえ、少し、なつかしくって……ほんの少し見て回ってもいいですか」
「構いませんよ……冷えますね。ストーブをつけましょうか」
「いいえ、大丈夫です。少し、見るだけですから」
「そうですか、では……私はあすこにいますから、また声をかけてください」
「ええ、ありがとうございます」
おかまいなく、
そうですか、
ええ、
「ではまた、お呼びしてください」
私はあすこにいますから、
一礼、互いに目をあわせるだけの気のおけない会釈であった。用務員室を指差しゆびさし、そこへ向かい歩き始めた。初老の曲がった痩躯を一先ず見送ると、また、中へと目を向けた。
2-f
見上げると、クラスの標識すら変わっていない。取り残されたようにそこはあった。
その間にも、用務員の男性の遠ざかる足音を背越しにじっと感じる。、実際に感じていた音の長さより、初老の小さな背の用務員室に引っ込んだのは早いのであるが、むしろ聞くのは彼のそれ自体ではなく不思議な凍えた残響を、目の前の意識に投射しているのであった。
中へと歩みいる。スリッパ越しの足音を、寒風が凍らせ落としていく。音は甲高く、そして耳の遠くへ響いていく。
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