36.攻防、ソシテ覚醒
アレクセイ・ヴィットマン率いるベルフェ・セィタン連合国第四師団が王国軍もとい勇者セシル・アスモデに討たれてから数日後…
カイ達はキクルス領の南部にあるフリーデンより先…
キクルス領と元ブラウン領との国境線もとい境界線にあたる大橋の陣地に兵を集め、来るべき王国軍との決戦に備えていた。
「マシュー、せっかくここまで大きくして貰ったフリーデンの町だが、最悪の場合は無くすかもしれない」
「そん時は天命だ。町なんか新しく作ればいい。一人残らず逃げて見せてやるぞ」
マシューはそう言いながらドワーフらしい態度で豪快に笑っていたが、内心震えているのがカイにも分かっていた。
勇者という化け物には、セィタン公の
しかも、先日の
カイはそんなマシューを宥めるかのように背中をぽんぽん叩いて、お互い頑張ろうという気持ちで拳を作り、マシューもそれに合わせるかの様に拳を作って互いに拳をぶつけて、それぞれのポジションに向かっていった。
「”ミーシャ”。そっちはどうなんだ?」
「ティファとコレットと共に最終調整しています。しかし…」
ミリーが口を濁すように整備し続けてる戦車群に目線を合わせたが…
主力として出していた4号重戦車は先日の勇者であるセシル・アスモデにほとんど破壊されてしまい、機関砲がメインの2号軽戦車が数合わせで残ってるだけで、フリーデンに残っている在庫を合わせても圧倒的に少なかった。
幸い、試作列車砲は何両かは残っており、セィタン家から一部を除いて防衛戦に使ってもよいと許可がおり、2両ほど稼働させるように調整して残りを全部非戦闘員の住民を乗せてセィタン領へと向かわせた。
「無論、あの勇者という名の暴走兵器には全く歯が立たないんだろうな…」
「仕方ないわ…あれに対峙して生き残る確率なんて無いもの…」
「そうだな…”ミーシャ”。いや、ミリー」
「まだ公務中よ」
「…こんな馬鹿げた作戦につきあって、ごめんな」
カイの言葉に、ミリーはカイの頬をソッと手を当てて咎めた。
「そう言うことを言うものじゃないわ。私達は絶対に生き延びるのよ」
「ミリー…」
「絶対に…あんな男に負けちゃったら駄目よ…それこそ無駄になっちゃう…」
「そう…だな…改めてありがとう。ミリー」
「お礼を言うのは、この戦いが終わってからよ…今は集中しましょう」
ミリーの言葉にカイは静かに頷いて、お互いが担当してる持ち場へと戻っていった。
数時間後…
雨が降りしきる中、ついにその時が来た。
町中にけたたましいサイレンが鳴り響き、住民の代わりに兵士達が靴音を立てて町中を駆けめぐり、戦闘態勢に入った。
「王国軍、ブラウン領の橋を越えてきました!!」
「ご苦労。後のことは任せてくれ」
カイの言葉を聞いた伝令兵は敬礼をした後、虎の子である列車砲へと向かっていった。
見送った後のカイは既にティファが操縦席に乗り込んでる装甲車に改造したトラックに乗り込んで、ミリーとコレットのいる機銃座に付いた。
「重機関砲が一門と軽機関銃が一丁…アレクが見たら鼻で笑われるな」
「ごめんなさい…いざ、逃げられる乗り物がこれしかなかったので」
「十分だ。マシュー達もいつでも逃げられるように列車砲を切り離してキクルスの領主町へと発進できるようにして貰ってる」
カイはそう言って重機関銃の動作を確認し、ミリーとコレットが小銃の装填を終えたのを確認してからティファに合図を送った。
「ティファ、発進してくれ」
「了解しました。カイ様、発光信号を空に」
ティファがエンジンをかけたと同時にカイは拳銃型の発煙筒を空に向け、信号弾を発射した。
それと同時に、先導隊の軽戦車と重戦車が進み、その後にカイ達が乗る指揮車用トラックを歩兵が囲む形で出撃した。
フリーデンから1里ほど進撃したあたりで、セントーラ王国軍が率いる竜騎兵を含めた騎兵隊が迫ってくるのを確認した。
『全軍停止、奴らを掃射で迎撃せよ』
『了解』
魔導通信で繋げたカイの指令通り、戦車隊が全両停止し、副砲の機銃と共に主砲で威嚇射撃をした。
騎兵達は急激な戦車の停止からの砲撃にバランスを崩し、一部の馬は驚いてひっくり返って乗っていた騎士を落馬させるなどの被害を出した。
『戦車隊は砲撃しながら二手に分かれてから挟み撃ちする形で進撃せよ。歩兵達はここで陣地を組みながら前進し、列車砲部隊と共に砲撃準備を開始せよ』
『了解』
カイの指示通り、戦車隊は転げている騎兵隊を蹂躙しながら敵陣地に砲撃しながら二手に分かれて進撃し、歩兵達は野戦砲部隊を残しながら進撃し、残った野戦砲部隊は運ばれていた砲台を組立始めながら砲撃準備を行っていた。
「コレット、奴の出撃様子は?」
「念視をしていますが、未だあの男の気配である強大な青の塊は動きません」
「…セシルめ。様子見のつもりか?」
カイはそう言いながら、爆発を受けても生きていたセシルに苛立ちを覚えていた。
諜報員の情報では、右半身を大火傷を覆いながらも動きは健在であるが、まるでベルセルクに取り憑かれたかのように更に気性を荒くさせており、剣を構えれば野獣のように走り出して、聖剣で切りつけるという話であった。
その上、戦闘が終わればオークのように聖女を乱暴に抱き、気に入らない女であるなら暴行して殺すこともあったそうな。
「噂では、出奔した第二王女ティアナの代わりに来た第三王女フェイルジェインをいたぶって犯したと聞いた」
「それで精神に異常来しながらも従軍慰安してると聞きましたね。忌々しい…」
「コレット、まだその時じゃない。今は降りかかる火の粉を払わねば」
カイの言葉にコレットは頷き、再び索敵作業に戻った。
ミリーとティファもまた、同じように望遠鏡を覗きながら辺りを見渡し、兵士達の通信が来るまでの間は爆撃と銃声の音と悲鳴が木霊する戦場を監視していた。
その時であった。
対岸である約3里ほど先のブラウン領の方から土柱が上がり、唯一の通行所である橋を壊しながら進軍してくる光の玉が突っ込んできた。
「…!?カイ様!セシル・アスモデです!!」
「っ…!!本当に非常識だ…!!『総員!後退せよ!!』」
カイは急いで通信を繋いだが、二手に分かれたはずの戦車達は光の玉から出る光線を貫通してからは次々と中破させ、歩兵達を斬撃で切り刻みながらカイのいる方のトラックへと近付いてきた。
気づいたティファは危険回避をするために急発進させてUターンさせようとしたが、化け物と化したセシルはトラックの前に立ちふさがるように降り立った…
「見つケたゾォ!!かイ・キくルすゥぅゥぅゥぅゥゥ!!」
「セシル…!!貴様、その言葉は…!!」
「貴様だケは…貴様だけは殺すすすすすす!!!!」
飢えた狼のように涎を出しながら、筋肉むき出しの火傷だらけの右半身を見せたセシルは聖剣に勇者の魔力を注ぎ、トラックごとカイを切ろうとした。
しかし、カイもとっさの判断で重機関銃を掃射した上でミリーとコレットによる狙撃小銃の銃撃がセシルを襲った。
しかも、ミリーが無意識に魔力を込めた弾丸がセシルのむき出しになった目に直撃し、眼球が潰れたと同時に血を流し始めた。
「ギャギャッ!?きさまあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ティファ様!発進させて」
「了解!!」
セシルの怯んだ隙に、ティファはトラックを急発進させてセシルをはね飛ばし、そのまま後退する形で進み続けた。
はね飛ばされたセシルは立ち上がるも、先ほどの右目のダメージに加えてカイの機銃掃射に加えて生き残った兵士達の総攻撃も相まってひるみ続けていた。
だが、”どれも致命傷にならない”攻撃にセシルの怒りがどんどん溜まり続け、そして…
「ジャマヲ…スゥルナァナァナァナァアアアアアアアアア!!」
再び光の玉になる勢いで魔力を放出させて兵士を消し飛ばし、光の魔力を聖剣に圧縮させた。
そして…
「シネェェェェェェェェェェェ!!」
聖剣から放たれた光は細い一線となり、機銃座に立っていたカイの左胸を貫いた。
あまりにも一瞬の出来事だった…
「カイ…?」
幼少期から一緒にいた幼馴染が…
上から胸を穴あけられて血を流して落ちてくるのを…
スローモーションの走馬燈のようにかけ流れ…
赤く染まった座席に落ちてきたのを呆然と見つめるしかなかった…
「ヤッタ、やったぞ…諸悪の根元を倒したぞ!!」
だが…
”
”何処からか聞こえたのか分からない言葉”が響いたと同時に、ミリーから光の粒子が集まり始め、切ってしまったはずの髪の毛が一斉に伸び始めて青緑色に発光し始めた。
「ミリー…?」
「み、ミリーさん…?」
ティファとコレットは何が起こってるのか分からず、トラックを止めて血を流すカイを止血していた。
そんなカイを見たミリーは穴のあいたカイの体に手を当て、光を出したと同時に血が完全に止まり、静かに息を立てて眠るカイを確認した後に
「”神である主はこう言われた。『あなたは全きものの典型であった。知恵に満ち、美の極みであった。』”」
詠唱とも言えるような言葉を発するミリーは、血で染まった小銃を魔力で引き寄せて、弾込めの動作をし…
「”明けの明星、暁の子。どうしておまえは天から落ちたのか。国々を打ち破った者。どうしておまえは地に切り倒されたのか。おまえは心の中で言った。『私は天に上ろう。神の星々のはるか上に私の王座を上げ、北の果てにある会合の山で座に着こう。密雲の頂に上り、いと高き方のようになろう』だが、おまえは黄泉に落とされ、穴のそこに落とされる”」
続けた詠唱と共に、持っていた小銃が歪な大型の狙撃銃に変貌し、ミリーの背中から光の蝶のような6枚羽が生えてきた。
「”呪われた者ども。私から離れ、悪魔とその使いの為に用意された永遠の火に入れ。
銃口から青緑色に輝く光が収束開始され、未だ唖然として動けないセシルに銃身を向けたミリーは引き金に指を当て…
「”創生…
引き金が引かれたと同時に、凄まじい熱光線がミリーの銃から放たれ、セシルという化け物を包み込んだ。
”バ、バカナ…それは、ゆうしゃの…”
光線の熱量と衝撃波を受けたセシルは聖剣と勇者の加護によって耐えるも、あまりの衝撃についに体が支え切れられずに宙に浮き、そのままセントーラ城の方角まで飛ばされる勢いで消し飛んでいった…
「ついに、覚醒しちゃったわね」
「あの馬鹿勇者のせいだな」
サイドカー付きの大型バイク乗る二人の女性…
元エーベルシュタイン伯爵の娘ベアトリスと元シェーンハウゼン伯爵の娘アレクシアは双眼鏡で飛ばされて落下する
「あの愚者をあそこまで焼くなんて…これも主様の采配かしら?」
「それは分からんな。だが、私らはそんなのも含めて観察するしかない」
そういいながら、アレクシアは一つの端末を取り出し、指示されてる方角に顔を向けた。
「いくぞ、ベア。親機からの命令だ。憤怒の悪魔が動き出す」
「あら?そうなの…私の親機は未だに魂の選定をしているのに」
名残惜しそうにしてる二人は早々にバイクに乗り、エンジンを吹かせた。
「役者は揃い始めた。次は北が舞台だ」
「ええ、それまでは楽しみにしていましょう。オネエサマ」
二人がそう言い終えたと同時に、二人の瞳から青緑色に輝きだしながら笑っていた。
全ては新たな舞台へと進むために…
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