35.戦争か、それとも真実を目指すか…
翌日…
外が雨が降りしきる中、カイは自室に籠もって昨日の映像の事で悩んでいた…
「あれだけの技術の結晶を持ってしても、全く敵わなかった…」
回転翼もなく、火柱を上げる筒状の噴射口で高速に移動し、可変形する翼を持つ飛行機形態になる人型…
銃器の弾丸すら回避する運動性…
戦車や建物を破壊する爆発性の飛行物体に、炸榴する銃弾を発射する機関砲…
そして、兵器や人を問わずにありとあらゆる物を溶かし、蒸発させ、爆発させる熱光線を発射する主砲…
「馬鹿げてる…と言いたいが、魔導光学は仮説としてありえた。ただし、今の技術力では無理なはず…」
カイは悩みながら万年筆を机に置き、マシューから受け取った水晶を眺めていた。
「
恋人であるミリーと共に、二人で言ったあの言葉…
あの見た目が完全な人間そっくりの機械仕掛けの人形兵器を何も躊躇無くそう呟いたことに、カイは疑問を抱いていた。
本当の敵は、希代の勇者や魔王ではない?
それ以上の黒幕が今までの歴史を弄んできたのではないか?
自分達の運命も、その黒幕で行っていたのではないか?
「…ミリーと相談するしかないな」
カイはそう呟いた後、書いていた書類を引き出しに入れ、ミリーの所に向かった…
雨足が強い草原の中…
ミリーは野外射撃用に立てられたガレージにて、射撃訓練を行っていた。
「…同じ単発式でも、射撃する度に手動で薬莢を捨てないといけないボルトアクションよりも、自動で薬莢を排出して装填してくれる半自動…セミオートの銃は凄いわ」
引き金を軽く引く度、軽快な発砲音と共に発射される様をミリーは素直に評価した。
「しかし…あの映像に出てきた機械人形は、私が握っている銃よりも遙かに優れた自動装填…フルオートの銃による弾幕を避け、実弾どころか光魔法よりも速い攻撃すら避けた後に、銃火砲以上の実弾や筒状の爆弾を飛ばす兵器、そしてあの熱光線の光学砲…どう考えても今の私には無理だわ」
そう呟きながら、同時に引き金を引いたが…
余計なことを考えながら引いたせいで、機械自動で動き続ける人型標的にある急所の箇所から大きく逸れてしまった。
「くっ…20発中18発…」
「90%か…対したものじゃないか。ミリー」
ミリーの後ろから現れたカイはそう呟きながら、動きを止めた標的を双眼鏡で覗いてた。
「カイ。業務の方はもういいの?」
「おおかたの業務は父上やユリアーナ嬢達がやってくれてるので、こっちのやれる作業は縮小されたよ。今後はこっちの訓練にも参加してもいいとの事だ」
「そう…」
ミリ―はそう言いながら、排莢終えた小銃を机に置き、カイの方へと顔を向けた。
「ねぇ、カイ…」
「なんだ?ミリ―」
「…私達、どうするべきかな?」
ミリ―の疑問に、カイは何も言えずにいた。
自分もまた、同じ疑問を持っていたから…
「あの水晶の映像と含め、私は分からなくなったわ…」
「具体的には…?」
「あの機械人形みたいなのが突然現れて町を襲ってから、私の中で本当の敵は別にいるんじゃないだろうか…と、考える時はあるわ」
「…僕と同じ疑問を持っていたんだね」
そういいながらカイは傘を開き、ミリーを引き寄せて傘の中に入れた。
僅かに震える彼女に、カイはミリーの肩を優しく叩いた。
「…分からないのよ」
「僕も、あの勇者や王国が倒したら終わりだとは思わないよ…万が一を考えて、セィタン公…いや、真の敵と戦わねばならない…そんな可能性があるかもしれない…」
「本当に、私達は何をするべきか…」
ミリーがそう呟いた時、伝令兵を乗せた馬がカイ達の所に駆け付けて、急ぎ早にカイ達に近づいて跪いた。
「ベルゼ家領土内にて、勇者を引き連れたセントーラ王国軍が我が連合軍第四師団と大規模の戦闘が行われました!」
「なんだって…!?」
「アレクセイ・ヴィットマン少佐を含め、師団員の所在不明とのこと!ただ…王国軍もまた損害を受けてベルゼ家領土内に駐留してる模様…!」
「アレクが…」
伝令の情報を聞いたカイは、喪失と動揺の感情による衝撃で膝を地面につけた…
キクルス領から南の地…
荒れ果てた草原が広がるベルゼ公爵領土は、硝煙の匂いと燻り続ける戦火がまばらと広がっていた…
王国の紋章が入った半折れの軍旗が布地を燃やしながら地面に刺さり…
兵士達が愛用していた剣や弓が無惨な姿で地面に転がり…
無惨に破壊され、鉄塊となって燃え続ける戦車等の機械兵器…
そして、その間に残る人間の死体が所に散りばめられていた…
あたかも、戦いが終わった後に見えるかと思われた…
しかし…
「敵は全滅したんだろ!まだ進軍できないのか!?」
「お待ちください勇者様…!まだ敵の残存兵力が存在します…!それに、聖女様達や兵達が疲弊しきっております…!ここは一度休息を…」
セシル・アスモデは進軍ができない王国軍に苛立ちながら声を荒げ、軍の高官はセシルに対して頭をヘコヘコと下げ続けていた。
王国軍はセシルの力である勇者の加護を持って連合軍の戦車や歩兵を撃滅することが出来たが、一般の兵士はそうでもなかった。
特に、後続支援をしていた「聖女」の部隊の消耗が激しく、中には連合軍の流れ弾によって重傷を負い、戦線離脱する者が多数いた。
それでも、セシルにとってはこの戦線を突破することで憎きキクルス家を討伐し、その親玉であるベルフェ・セィタンの二公爵家を倒すことが出来ると信じている上で、一刻も早く戦争を終わらせようと強引に戦線を突破したいという誇大妄想に囚われていた。
「ええぃ!もうよい!俺一人でも進軍するぞ!!付いて来れない者は置いていく!」
「殿下!おやめください!!勇者である殿下の身に何かあれば…グワッ!?」
アスモデ家直属の高官が引き留めようとしたその時、セシルに向けた榴弾が幾つも炸裂し、勇者の加護を受けたセシル以外のその場にいた人間達は爆風の衝撃によって木っ端微塵に吹き飛ばされて絶命した…
無傷ながらも爆風によって体勢を崩したセシルはすぐさま起きあがり、攻撃してきた大型戦車の部隊に睨みをつけた。
「きぃさぁまぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
セシルは怒号を上げながら剣を持ち、戦車達に向かっていった。
「アントン、ブルーノ。後退しながら斉射しろ。タイミングは任せる」
『了解』
戦車部隊の生き残りで師団長であるアレクセイは残った部下との通信を終えた後、稼働可能な戦車を後退させながら突撃してくる
しかし、弾は命中するも虚しく、人外染みた動きをするセシルは飛んでくる砲弾を叩ききりながら進み、後退する戦車との距離をどんどん縮めてきた。
そして、剣が届く距離まで近付き、魔力を込めた聖剣を振り下ろすごとに戦車を弾薬とエンジンを纏めて切り裂き、爆散させていった。
(ここまでか…我ながらよく持った方だ…)
最後の僚機を撃破された時、アレクセイは覚悟を決めて戦車を前進させ、勇者に目掛けて突撃した。
「
狂乱で戦鬼ような顔になったセシルが聖剣を振り下ろそうとした時、アレクセイは戦車内に備えていた特殊弾…
セィタン公から授かったその手榴弾程度の大きさの爆弾は、わずか爪先に乗るぐらいの一粒程度の崩壊原石が含まれていたが、その原石から出る崩壊エネルギー量は凄まじく、通常の火薬爆弾の数百倍の破壊力を有していた。
戦車から目映い閃光が放った同時に、セシル・アスモデの中心から半径数百mほどの巨大な爆風が広がり、数km先に待機していた別の後続部隊からも見えるほどの巨大なキノコ雲が上がった…
「セシル様!?」
「勇者様!?」
王国軍の兵士や聖女達は狼狽してセシルの下へかけようとした。
だが、その心配もする暇もなく崩壊弾の爆風を受けて吹き飛ばされても生きていたセシルは彼らの下に転がり落ちてきた。
ただ…女神からの加護によって強靱な肉体やバリアが仇となったのか…
運良く生きてしまったセシルの右半身は醜く焼けただれてしまい、特に顔右半分は加護を貫通して受けた熱量と衝撃で酷く醜いものになってしまった…
この戦いの事を、後の者達からは「愚人達の厄災」の一つとも言われるようになった…
ー主よ、あなたの名によっていたしますと、悪霊までがわたしたちに服従しますー
ーわたしはサタンが電光のように天から墜落するのをみたー
ー神の前では陰府も裸である。滅びの穴もおおい隠すものではないー
ーあなたは神の深い事を窮めることができるか。全能者の限界を窮めることができるか。それは天よりも高い、あなたは何をなしうるか。それは陰府よりも深い、あなたは何を知りうるかー
「かつての”人間”達は面白い話を書くわね…この世に神も悪魔も居ない。居るのはそれを模倣して生まれた知的生命体なだけ」
深淵の奥底にて、機械の触手を備えた女形の人形がそう呟きながら、古びた本を読み終えて机に置くと、ホログラムで映し出されたモニターを眺めていた。
そのモニターには醜い火傷を負った勇者セシルが無惨に転がり、その従者達が血相を変えながら治療を行っている様子が映し出されていた…
「何時の世も、愚かで浅はかな選択をした者には悪しき結果が待つ…
人形はにたりと笑った後、触手を蠢かせながら”主”へと通信を行った。
「こちら、
『主よりローダーへ。執行をこちらでも確認済み。次なる観測を求む』
「了解。引き続き観測を続行する」
主への通信を終えた後、人形は一息を付くと同時にモニターに移る”煌めき”を観測した。
「あら、これは…?…そういうことね」
その”煌めき”が何かを察した人形は再びニヤリと笑い、観測用の
「折角あの愚人を倒した英雄を見過ごすわけには行かないわ。貴方にはまだ頑張って貰うわよ」
そう呟いた人形は静かに立ち上がり、再び深淵の闇へと消えていった…
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