27.外伝:人形
10年前…
勇者に解雇を言い渡され、全てを奪い取られようとしたベルがゴーレム達を暴走させ、一人の少女の亡骸を持っていずこかへ去ったあの日以降…
ベルは人族も魔族も立ち入る事の無い土壌汚染で廃棄された故郷近くにあった遺跡に身を寄せ、道中で拾って使役したゴーレム達を使って人形の研究を行っていた…
以前から整備などで弄っていた人形もそうであったが、この世界には無い未知の金属や細かい配線や電気という動力で動く”人形”を見つけ、それを人形師の力で動かせたという事に、日頃感情の乏しかったベルにとっては感激を覚え、人形の研究を毎日したいほどの欲求に駆られる事が多くなっていた。
元々、ドワーフ達の技師や魔術師達などの傀儡術で動くゴーレムも魅力的であったが、ベルが10歳の時に故郷の村から外れた土壌汚染の激しい場所にある遺跡で発見されたその完璧な人型で出来た金属の人形を見た時ほど、心が震える物はなかった…
それから五年も月日をかけても研究に余念は無く、あの人形の事を全く出来なかった人間達を猿と呼んで蔑称し、解雇を通知されたあの日まで見よう見まねで作り上げた
しかし、あの時の去るまで、ベルは自分で作った人形に対して一度も満足することは無かった。
自分が命令をするだけなら、ゴーレムと何ら変わらない。
自分の考えた理論からすれば、あれは他の生物からの命令を受けず、自分で考え、自分で行動する人形であるんだ…と。
いつしかその考えに没頭するようになり、研究以外での必要外の戦闘は他者が作ったゴーレムを
その時間の中、ベルはある結論を導き出し、いずれ実行しようとした所に、あの人形師の少女を見て思った。
”この雌の脳を、人形の頭にある回路を繋いで、死霊術や傀儡術を施せば完璧な自律人形であるドールズが出来るのではないか?”
あの時の人形師の少女は、ベルにとって凄く興味深い者であった。
彼女が独自に作り上げたあのゴーレムは今までのとは違い、1から設計され、一度命令を与えれば後は自動で動くシステムに、最初に見つけた金属の人形と同じ感動を覚えた。
そして、その要求に答え、勇者という
その後、故郷に戻ったベルは自分の親や婚約者であったレイカの両親を含めた住民を集めたゴーレム達を使って皆殺しにし、全ての遺体をゴーレム達に運ばせながら最初の金属人形のゴーレムが見つかった遺跡へと篭った。
遺跡の中でベルが最初に行った作業は、防腐魔法を施された少女の遺体から頭部を切断して解体し、自分が整備し続けた人形に頭部から取り出した脳を死霊使いが使う薬品液に満たされた容器に入れて、人形から伸びる無数の金属線を薬品液に漬かる脳に接続し、死霊魔法をかけて起動させた。
結果は成功した…
人間の脳を接続された人形は自動で動き出し、創作者であるベルを見たのだが…
そのベルを見た瞬間、人形は発狂した声を上げようとしたが、金属で出来た体を自ら見た後は思考を停止してしまった…
その時のベルは少女の脳を移植した人形の反応を見て、ある結論に達した。
”どうやら、脳に刻まれた記憶と遺体に留まっていた魂が人形に結合し、新たな生命ができたのだ…”と。
この結果にベルは半分ほどガッカリしたが、もう半分に関しては可能性に期待した。
”この技術を使えば、猿の中から選別して脳を移植させ、人形達を自律させていけば世界が変わる…”
その答えに導き出したベルは思考停止してしまった人形…試作一号にミリアリスと名付け、人形に備わっていた制御機能を起動させながら現状の説明をミリアリスに伝えた。
ベルの身勝手な話で自分の手製のゴーレムを奪われた上に殺され、勝手に人形として蘇らせた事に少女は怒りを覚えたが、人形に備わっている制御機能によって感情制限が掛けられている現状では何も出来ず、ベルの話を聞く以外何も出来なかった。
しかし、一方でベルが少女が自分が作り上げた傑作のゴーレムを評価し、新しい可能性を話した事でベルに対して興味を持った。
その上、少女が勇者パーティーもといハーレム一員にならずに済んだことにベルに感謝した。
「正直に言って、この件に関しては感謝してます。あの時、私は女と言う理由で勇者様…いえ、勇者にパーティーに入れと王国から命令を受けていました。でなければ、神の背信者として神敵に扱われる所でした」
「だろうな。所詮は偶像である妄想の産物に拝む猿どもの考えそのものだ」
「ですが、貴方のやった事も私は直ぐに認めるわけにはいきません。ですので、見極めさせて貰います」
「そうか。まぁ、それで反逆しても私は困らない。むしろ、それも一つの進化への可能性でもあるのだから」
「…本当に、人形の事しか考えてないのですね」
「そうだ。かつて、”
「それを証明するために、私みたいな人間の脳を使った
ドールズとして生まれ変わった少女はこの現実を受け入れ、ベルの手伝いをする様になった。
過去の自分の名を捨て、ベルが名付けたミリアリスと名乗り、
ミリアリスとなった少女は肉体である金属の体を完成させた後、ベルの共に集めてきた人間の死体と新しく製造された金属人形を埋め込み、人形師の術を施して生産を続けた。
しかし…ミリアリスのような完璧な自律人形は出来上がらなかった…
出来上がった人形達の大半はこうだった。
・ゾンビのように単純思考でしか動かなかった。
・魂と結合させても、ゴーレムみたいな自律しない人形ばかりであった。
・仮に完成し、制御機能を使っても自死衝動に押されて機能不全に陥った。
この結果に、ベルは落胆していた。
「駄目か…」
「単純な人間では限度があるわ。特に、神に信仰している人間ほど拒絶が凄い」
「やはり、あの村の住民はおろか、他の聖女が居た故郷の人間では駄目か」
「私の体の
ミリアリスのその言葉にベルは反応をし、ミリアリスに願い出た。
「ミリアリス。私の脳を使え」
ベルのその言葉に、ミリアリスは疑った。
「正気ですか?」
「元より、この猿の身体には決別したかった。だが、私以外で戦略人形に脳を移植できる人間は他に居なかった。だが…」
「その技術を私に?私が反抗すると言う疑いは無いのですか?」
「前にも言ったであろう?その時はその時だ。そう言う結果が出たならば、一つの進化の可能性が出来たと言う証明が出来る」
「…本当に、狂人と言う言葉がお似合いですね。分かりました、責任持ってやりましょう」
ミリアリスのその返事にベルは笑った後、移植手術の用意をした後に自死の薬を飲んで自殺し、技術を教えたミリアリスに男型の戦略人形に自分の脳を移植させた。
その結果…ベルは拒絶反応もなく戦略人形として再び蘇った。
「成功だ…あの猿の体から切り離す事が出来た。礼を言うぞ。我が弟子」
「ええ。私も驚いてるわ…本当に、貴方は人間の事が嫌いなのね…」
「当たり前だ。無計画に発情して数を増やす猿など、不愉快極まりない」
「本当に、人間が嫌いなのね…」
生まれ変わったベルの本音に、ミリアリスは呆れながらも実験の成功にはベルと同じく歓喜していた。
この技術を生かし、生物の脳を使わない人工で作られた金属の脳…人工知能の技術が完成すれば、将来的に人間に頼らずに機械の自律人形が量産される。
その可能性を信じて、ミリアリスは生まれ変わったベルの下で人形の研究を続け…世界を見てきた。
だが…世界を見てきた二人は大いに失望していた…
かつて、人形を生み出した”人間”達の文明や技術は、”神”と名乗る人間モドキによって駆逐され、その”神”が新たな世界を作り上げた。
かつての古代文明から解析して作り上げた技術を神に背く物だとして廃棄され、今まで技術に頼ってきた亜種族達を迫害し始め、ゴーレムといった無機物の人型も神の意思に背く悪しき文明の象徴し、破壊もしくは人が住む場所から遠い場所に棄てられていった…
その一方、魔法などを神の加護として崇め、その神に愛され、人を統率して世界を総べる者を勇者として奉る行為に、二人は今の世界に居る人間は人の形をした”知恵の付いた猿”と称する事にした。
もっとも、ベルに到っては10年前以上にその結論に至ってたが、ミリアリスを納得させる分にはこの10年の人間の退廃と文明の衰退には目に余るものであった。
それに加え、亜種族側で敵の象徴であった魔族もまた、人族と称する人間達に追う形で魔王という者に縋り、崇め、そして奉ることで自分達が繁栄すると妄信してるあたり、”神”が与えられた役割から逃れる事は無かった…
ならばこそ、二人の考えた結論は…全ての知的生命体を抹殺し、”神”と名乗る人間モドキを世界から抹消する…
その結論に達した二人は、今まで集めていた廃棄ゴーレムと、研究の為に人間と亜種族を含む知的生命の脳を使って作り上げた物と一からの機械頭脳であるAIを搭載した
人間という名の”猿”を筆頭に、人型の知的生命を全て駆逐する為に…
その火蓋を真っ先に切る事になった場所が、かつて魔王を倒して世界を救ったと自称する勇者が住まう王国からであった…
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