26.外伝:平穏が崩れる時

勇者達が魔王を倒し、人類が世界の支配者になってから10年…


勇者が新国王に戴冠し、人族の頂点となってからは世界の動向は変わった。。


勇者の力に対抗出来なくなった魔族達を筆頭に、エルフやドワーフといった亜人もとい亜種族は劣等種として扱われ、奴隷のような労働事業と慰安事業に駆り出され、人族の消耗品として数を減らしていった。


また、ゴブリンやオークといった鬼人族に到っては醜き者として迫害され、人族達の狩りの娯楽として殺され、数が減れば人族からの犯罪者…特に信仰する神の宗教から背信者として扱われた女をゴブリン達に渡し、ゴブリン達もまた人族に殺された同胞の恨みとして背信者の女を襤褸切れになるまで犯し、死ぬまで生ませる事で人族からの迫害によるストレスを発散させていた。







それと同時に、勇者が国王となった人族の王国以外の生活基準は衰退していった…


神敵と認定されたベルを筆頭に、人形師を冷遇する政策を取った事で、人族達の労働力は再び人に戻ってしまい、ゴーレムはおろか、魔法を使わずに動く機械などの自動化は邪悪として扱われ、排除する傾向になった。


その結果、労働奴隷が町中に働き、運搬・作業・清掃などは全て奴隷となった者達の仕事となった。

一方の自動化していた機械などを整備していた技術屋や人形師たちは職を追われ、町に近付いてくる野良のゴーレムを封じる為だけの予備役になるか、王国の都から離れて辺境の地でひっそりと暮らすかのどちらかになった。


実質的に、人形師はおろか魔力を持たない技術屋達は神の加護から迫害された者達として扱われ、奴隷と同等の酷い扱いであると言わざるを得ない状況であった…


同じく、魔力よりも技術力のあるドワーフ達も例外は無く、人族達はドワーフ達の機械などの技術の結晶を取り上げ、単純な鉱山労働の奴隷として扱う事が多かった…





この人族だけが都合のいい悪夢のような世界に、人形師たちを除く人族以外の全ての種族は人族に恨みを抱きながらも、神に寵愛されて生まれた勇者に逆らう事が出来ず、逆らえば勇者の力である加護によって粛清された…



しかし…









「またなのか…」

「はい…南部地帯にある農村が壊滅しました…恐らくは、村人を含む全ての農民が全滅しました」


財務担当の大臣が国王である勇者に報告すると、勇者は王座で溜め息を付きながら報告書を読んでいた。



農村の襲われた時間は夜の時間で、村人達が寝静まった時に突如と爆発音が鳴り響き、燃え盛る民家と共に暗闇から大量の人型が現れたとの事…

その人型は、手に持っていた棒から火を拭かせ、火を拭いた棒から鉄の塊が凄い速さで飛び出し、村人や家々を破壊していった…

騒ぎに駆けつけた駐屯中の騎士団20人が駆けつけ、その人型と戦闘するも…五分も立たずに騎士団は壊滅し、生存者は騎士一名のみで村人と騎士達は死体となり、死体は一つ残らず人型によって回収されていった…


その生き残った一名の騎士も、人型から取り外し不可能の首輪を取り付けられ、王都に帰還して他の騎士団に報告が終わったと同時に首輪は爆発し、騎士の頭を吹き飛ばして絶命させた…



これと同様の事件が今年に入って9件も発生しており、さすがの王国も黙って入られないと調査をするも、成果が上げられずに被害が拡大するばかりであった…


「全く…10年前に起きたレイカの故郷みたいな事件がずっと続くな…」

「そうですわね」


十年の歳月を得たレイカは側室の一人となり、8人の勇者の子どもを産んだ母となった。

正室には前国王の娘である王女が居たが、今年成人したばかりで子どもは一切いなかったが、当時の聖女達が全員側室となってからは子沢山の王室となっていた。


その一方、各聖女達の故郷の村や町は謎の襲撃に合い、親兄弟含む家族や親戚全員が一人残らずに殺され、遺体は全て持ち去られると言う事件が起こり、未解決のまま時が過ぎていた…


勿論、レイカの故郷も例外も無く、レイカの親や一つ下の妹は勿論、元婚約者であったベルの家族もまた一人残らず殺され、遺体を持ち去られて、家等の建物は跡形も無く燃やされた…


聖女達を貴族として扱いたい王国からすれば、神敵によって滅ぼされで哀れであるが、神に寵愛された者達として扱いたいところであったため、かえって好都合であったのは言うまでも無かった…


聖女達もまた好都合の事件だったと思い込み、早々に忘れることにしたが、レイカだけは警戒し続けていた。

ベルの家族や自分の家族の遺体を弔いたいがために所在を確認したいだけじゃないが、それ以上に何か悪い事が起きるのではないかと警戒していた。

ベルがあの時、何をやったのかは分からなかったけど、ゴーレムを暴走させたアレ以上に何か酷い事が起きるのではないかと、そう考えていた…


「まぁ、気にしていては仕方がない。王都内にいる不要な奴隷や平民を新しい開拓民として集め、農村開拓をさせるか」

「では、そのように手続き致しま…」


財務大臣が承諾し、国王である勇者が財務大臣の差し出した書類に捺印した。










王都から離れた丘にて、王都を遠くから見えていたフード付きのローブを着た二つの影がいた。


「見るが良い。あれが、驕り高ぶった猿どもの楽園だ」


フードの中から声を発した大柄は、隣に居た小柄のローブの影に対して問いた。


「どうおもうかね?愚かな雄猿が君臨し、それ以外の雄猿は奴隷として扱い、雌猿は全て愚かな雄猿の発情処理の道具に扱われ、それ以外の猿モドキは全て猿の道具に扱い、滅ぼされる事で繁栄する世界は?」

「…実に醜い。あんな知恵の付いた猿の動物が…人間と称して君臨するなんて」


そう呟きながらフードを外した小柄のローブの影…青髪の少女の姿をした者は、勇者が支配する王都を冷たい視線で見ていた。

ただ、その瞳は人間のとは違い、まるで宝石のような人工物で出来ていた。


「そうとも…それが普通の感想だ。神と言う名の妄想の産物に賛美する愚かな猿が全てを支配し、無駄に消費し、同族やそれ以下の種族を蔑み、そして世界を穢す…その歴史を繰り返してきた結果が、このような歪んだ世界。ならば、どうする?」


同じくフードを外した大柄…かつて、ベルと呼ばれた人形師は隣に居た少女の姿をした者に再び質問した。

それと同時に、少女の姿をした者は人工物の目を光らせ、着ていたローブを燃やし、全身金属で出来た体を露出させながら武装を展開した。


「殲滅する。腐った猿を絶滅させ、猿モドキも全て絶滅させた後、我々戦略人形ドールズがこの世界を正しい道を作る」

「そうだ。それでいい…では、始めようか。我が弟子で、我が娘である試作一号…ミリアリスよ」


ベルはミリアリスと呼んだ人形の少女に号令を掛けると共に、後ろに控えてきた金属で出来た人型の戦略人形…ドールズと呼ばれる人形ゴーレム達を一斉に起動させ、戦略人形達を運ぶ空飛ぶ機械を一斉に飛び立たせた…





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