6.閑話:あの時の私は…(後編)

…奴に貫かれて下半身から血を流し、私の体に奴の液体をかけられてすすり泣く私をクリスははっきりと言った。


「本当、無様ね。私が気付かなかったと思ってなかったかしら?貴方がカイが好きで、カイも貴方の事が好きだったという事を。…本当、いい気味ね」


何も言い返せなかった…

自分でも分かってはいた。

カイは皆の事…クリスの事を好きと言ってたけど、一番愛してるのは私だという事を…

しかし、私は婚約者であったクリスの事も配慮して必要以上にプライベートに接しなかったし、万が一の側室程度でもいいと考えて場を弁えていた。

けど…逆にクリスにとっては、私のその態度がカイと私の間に入る余地の無いと錯覚していたんだ…



そんな嫉妬の感情が塊となって、あの男の魅了によって塊が爆発して怒りになり、私とカイに怒りをぶつける様になってしまった…

変わってしまったクリスの後ろで、クリスと同じ嫉妬と怒りを交えた眼をするレイアを見た時、レイアもまた同じ状態になっていたのに気付いた。


…結局、私達は仲のいい友人と見せかけた好敵手だったとは。

いや、今じゃあ敵同士みたいなものか。

クリスとレイアはセシルによって魅了された他の貴族令嬢や平民の女達みたいに心換えをし、セシルに女として抱かれ、種を注ぎ込まれた…


「どうでしたか?この女の味は?」

「君達と比べて粗悪だな。ただ、入口の狭い。魅力の無い女だ」

「では、下男達にくべますか?」

「いや、流石に無理やり襲った挙句に孕まさせたら、下男の仕業にするにしてもセィタンの子飼である騎士団が嗅ぎ付け、私の足に付く。その辺に寝転がる令嬢達の方へと放りやるとしよう。おい、やれ」


奴が下男に命令出した後、私は下男の一人によって無理やり立たされた。

が、ここでやられっぱなしでは癪に障ったままなのも事実。

当時の私はそんな衝動に駆られ、体がふらつきながらも、私は奴の顔を平手で叩こうとした。

しかし…


「何しようとしやがる!このクソアマっ!」


奴の顔に平手が届く前に、私は先程の下男に顔を殴られ、床に寝そべる女達のところまで吹き飛ばされた。

口の中で切って血が垂れてくるほどの衝撃であるが意識は残っていたが…流石に力尽きて動けなくなってしまった。

その関係なのか、私の破れたドレスにつけてあったブローチの魔導具が自己防衛として密かに作動し、この部屋の光景と音を記録し始めていた…


これのおかげで、カイの実家であるキクルス家に信用して貰うきっかけになったけど…


「おい。何故、私の許可なしに女を怪我をさせているのだ?」

「はっ!?し、失礼しました!!殿下!!」

「顔を傷物にしては困るだろ?仮にも聖女候補だ。私に選ばれなくても他の貴族に売る道具になるのだ。丁重に扱え」

「は、ははぁ!」


先程の下男は奴に叱責を受けた後、そそくさと退散していくのを見届けた後…私は茫然と涙を流しながら、奴とクリス達の情痴を見せつけられた…


「セシル様ぁ!愛してます!!愛してますぅ!!」

「私達に寵愛の種を授けてくださいませぇ!!」


クリスとレイアが交互に足を広げてから奴の体に跨り、嬉しそうな声を上げながら上下に腰を振る姿に、吐き気する気力すら奪われていた…

その間も、あの二人が行為を終わる度に魅了された者と魅了されなかった者達を拾い上げ、魅了されてる女には体の中を汚し、魅了されなかった者には体の外を汚していった…

それが10人目が終わった時、私の意識は失った。



気が着いた時は既に朝であったが、雨が降りしきっていた為に全体的に暗かった。

既に奴と下男の体液で匂う部屋であったけど、もうそんな事に気にする余裕は無かった。


意識を取り戻した私は乾いてしまった奴の体液を破れたドレスの一部を自ら剥ぎ、肌が赤くなるほど擦った後にお腹に手を当ててから回復魔法を発動させていた。

せめて、奴に犯されたという証拠を無くす為に、処女膜を回復させようとした…

しかし、何度やっても回復魔法が発動せず、何度も発動を試みても淡い光が一瞬だけ起きた後は直ぐに消えてしまった。


もしやと思い、私は誰でも使える初級の鑑定の力で自分の状態を調べた。


結果は…聖女の力を失い、回復魔法関連の力が弱まってしまった。

元々、聖女の力が純潔もしくは愛すべき者同士によって力を増すけど、愛していない者との快楽による貫通や複数人による乱暴な交わりによって力を失うという逸話もあった。


これは、勇者と聖女に加護を授けていた女神が「愛と繁栄と嫉妬」を司る者で、たとえ乱暴でも愛していない者との密通などは加護を剥奪するという物であった。

…もしかすると、私を含めた魅了されてない女達は奴と下男に無理やり抱かれることで聖女の資格を剥奪されたかもしれない。


つくづく、こんな下衆以下の事をしてくれたのだろうか。

私はそんな事を胸に秘めながら、枯れ果てた筈の涙を再び流していた。


「ミリー様…ご無事ですか…?」

「ティファ様…?ティファ様こそ…っ!?」


私を心配して近付いてくれたティファ様を見た時、私は言葉を詰まらせた。

ここに連れて来られる前のティファ様は綺麗な顔をされていたが…右目部分の顔に酷い火傷が出来ており、皮膚が爛れていた。


「…ティファ様」

「ミリー様が気絶された後、私は勇気を振り絞ってセシルの頬を叩きました。その後に、クリスの怒りを買ってしまい、右目部分を火の魔法で焼かれました…」

「酷い…今すぐにでも…」

「お止めください…ミリー様も、聖女の力を失ったのでしょう…」


その言葉を聞いて、私は我に返った。

ティファ様も聖女の資格を剥奪されてしまったのだと。

それだけではない。

ここに取り残されている令嬢や平民の女達は全員聖女候補ではなくなった…


その事に気付いて思考が固まり始めていた所に、追い討ちがきた。


「あら?まだ偽の聖女達がいるのですか?」


クリスがこの部屋にやってきて、私達の前まで迫ってきた。

そして、女の筆頭として私の顎を手で掴みながら見下してきた。


「この屋敷は勇者であるセシル様とアスモデ家に寵愛された聖女が住まう場所。下女程度の偽聖女の女達は草々に立ち去りなさい」


そう言った後にクリスは私の頬にビンタをし、倒れた私を嘲笑いながら去っていった…

その直後に下男とは別の下女達が部屋に入り、禄に動けない私達の体を起こして引き摺っていった…


その後は下女達の行動は早く、私達を雨が降りしきる屋敷の外に放り出し、荷物が詰まったケースを私達に目掛けて投げた後は屋敷の重い扉を閉めていった…

まだ頬や体の痛みが治まらない中、私達は自分達の荷物の探しながら手に持ち、迎えの馬車が来るわけが無いので徒歩で歩き始めた。


私とティファ様を含め、最終的に魅了されなかった令嬢は四人ほどで、その四人が人目に入らない場所で代えの日常ドレスに着替え、雨の降りしきる王都の中を歩き、門の近くまで辿り着いた。

丁度その頃に、セィタン家の紋章の付いた騎士数人が私達の傍に近付いてきた。


「貴方は…ブエル家のティファ様!?」

「セィタン家の者ですか?」

「はっ、我らセィタン公爵様の使いの者です。しかし、この雨が降りしきる中で他の令嬢達と共に歩かれて…」

「セシル・アスモデに嵌められ、聖女候補を剥奪されました。後はお分かりですね?」


ティファ様の言葉に、セィタン家の騎士達は周りを見渡した後、馬から下りてから私達に耳打ちしてきた。


「実は、私達セィタン家の騎士とベルフェ家の騎士はアスモデ家の行動を監視しておりました。此度の件は屋敷に潜む男の密偵が探っております」

「そうでしたが…」

「しかし、既にアスモデ家の騎士達が王都を徘徊し、アスモデ家から追い出された平民の女を不当に捕まえております。もしかすると貴方がたも同じ目に合うかもしれません。幸い、ティファ様を含め、他の令嬢方もセィタンに近いところとお見受けします。我等の馬を使い、途中までお連れします…」

「お願いします…既にアスモデ家が手配を出してる可能性もあります。護衛と共にセィタン公爵様にご報告を」

「はっ!その願い、承りました」


騎士は他の騎士達から渡された雨具のローブを渡した後、私達を馬に乗せてから王都を出た…




途中の街道まではアズモデ家の追っ手は来なかった上、王都の護衛騎士達も動く気配がなかった。

そして、王都より近い私の実家のあるベモンド男爵家の領地に入った時、私はティファ様達より先に降りた。


「私は今から父に掛け合ってみます。ティファ様、他の方もご無事で…」

「ええ…生きて戻りましたら、必ず貴方様の所に顔を出します。それまでは…」


ティファ様と掛け合った後、ティファ様含む三人の令嬢達はセィタン家領土へと走っていった。

残った私は荷物を持ったまま、実家であるベモンド家の屋敷へと辿り着いた。


「私です!ミリーです!!開けてください!!お願いします!!」


私は必死になって大声を出し、屋敷の扉を叩いた。

しかし、扉は開く事が無いどころか、屋敷の中に居る番兵が扉を開けずに大きな声を出してきた。


「ミリー・ベモンドはアスモデ家に不敬を働いたと王都から来訪したアスモデ家の使いから聞いた!よって、平民・・ミリーは我が男爵家とは関わりの無い者として扱えと旦那様が発せられた!!即刻立ち去れ!!」


怒鳴り声の後に立ち去る音が聞こえた私は、扉を叩いていた手を力なく下ろした…

伝令が早いとは言え、僅か一日の出来事…しかも不敬罪を背負った事だけで簡単に親子の縁を切る態度に、私は悲しみしか湧き出てこなかった…

あまりの亡失感に襲われ、倒れようとしたが…私は最後の希望として、カイの所であるキクルス伯爵家の走り始めた…


ベモンド領の町を抜け、キクルス領の町までの街道を私はひたすら走った。





雨に打たれて体力が消耗しても構わず…




途中で靴のかかとが折れても、靴を脱いで走り…




夜になって活発になった魔物達には持っていた荷物を投げつけて追い払って逃げ…




命辛々の逃走の末、僅か半日かけてキクルス領の町まで辿り着いた…




そして…カイの実家であるキクルス伯爵家の屋敷まで辿り着き、私は最後の体力を振り絞って扉を叩いて大声を上げた…




「カイ!カイ!!返事をして!!私よ!ミリー!!」



既に声は渇き、禄に食事をせずにここまでやってきた上で、もはや意識が混濁し始めていた…

だが、私の願いは直ぐに届いた…


「ミリー!?どうしたんだ!!ミリー!!誰かー!!ミリーに手当てを!!」


真っ先に懸けつけて扉を開けてきたカイに抱きしめられながら…私は再び涙を流し、抱きしめてくれたカイの胸で泣き続けた…








あの後は意識が回復するまで数時間掛かったけど、駆けつけたバトラさんの見立てでは丸一日ほど眠ってしまうぐらいに弱り切っていたらしい。

流石は聖女の選定を受けた体とはいえ、力を剥奪されても一部の効力は残っていたみたいだった。


その後は…体力と意識をハッキリと回復した後、荷物の中で離さず持ち帰ったブローチの魔導具をカイに渡し、あのおぞましい出来事の全てを話し、カイと私の二人で復讐を誓った…



たとえ魅了の力で洗脳されたからとはいえ、私はおろか他の令嬢や平民達の女を慰み者にして傷付け、使えぬ者を一方的に追い出し、罪人として捕らえようとした…



しかし、今の段階で訴えを起こそうにも、セントーラ王家からは勇者の特権という名目で退けられ、女神教の教皇らは逆に私達の事を不義の者として扱い、王国から弾くつもりだ…



だからこそ、私とカイの考えた復讐は…勇者の必要としない世界。

すなわち、王国に文明技術を与えず、私達の従えてる七大公爵の内…ベルフェ家とセィタン家を王家から独立し、国に対抗する力を持つこと。

今の王国は魔法や勇者と聖女にある女神の力を優遇し、逆に魔法を使わない平民が使える文明機具などの軽視する傾向が強い。

ならばこそ、その力を使い、魔法や女神の力に頼らない新しい時代を作り、私らを酷く扱った者達に報復する…


無論、その力を使った戦争などの暴力を一方的に振うのは、奴等と同じ事をするようなものだ。


認めさせなければならない…勇者という存在に驕り高ぶったその全てが偽りだったという事を…



幸い、カイが王都から帰還して数日の間、伯爵家に関わる事業の手伝いをしていたと言うことも分かり、私もカイの執事・・として手伝う事にした。


この復讐が終わるまで…いや、全てが終わるその時まで、私はカイとキクルス家以外の前では女を封印する…


少なくとも、女として弄ばれた私は誓いながら長く伸ばした髪の毛を切り裂き、執事の服を着る事にした…





(…クリスとレイアが正気に戻って、カイに生涯かけて謝るまでは決して女に戻るつもりは無いけどね)


そんな胸の内を秘めながら、私は静かに窓の外見ていた。

と、そこにカイが音も立てずに起き上がり、ゆっくりと私を抱きしめていた。


「思い出したのかい…」

「少しね…ねぇ、カイ」

「なんだね?」

「私達は、成功するのだろうか…?」


正直に言えば、私の中に不安もあった。

先日の奴…勇者セシルの訪問の時、私は男装をしていたが…やはりあの時の恐怖もあってか身体を震わせていた。

隣にカイがいたとはいえ、またあの時の恐怖が蘇る辺り、私はこの恐怖を乗り越えられるかという不安と、あの強大な勇者という化け物とそれに従う聖女の一員となったあの二人に勝って認めさせる事が出来るのか…


半月程度の時間ではまだ分からなかった。


だけど、そんな不安な気持ちの私をカイは抱きしめる力を少し強め、私の耳元で囁いた。


「大丈夫だよ…例え、一年や二年…最悪十年かかろうとも、僕は貴族として君の為に戦うよ…」

「うん…私も…カイと一緒に戦う…」

「貴族その物…下級貴族である伯爵の単独程度では公爵の勇者には勝てない。まずは、味方を付ける事が大事…ミリー。君もあの時合った令嬢達と連絡が付いてるよね?」

「うん。彼女達も無事に自分の領内に戻れたと返事の手紙が届いた。ブエル家を筆頭に、あの時の三人の家はセィタン家の一員としてアスモデ家と戦うと手紙に書いてあった」



カイの家に辿り着いて数日後、私はティファ様を含めたあの時の皆に手紙を送り、私の無事と勇者を含めたアスモデ家や女神教を信仰するレヴィア家、最悪は王家とも争うという内容で書き示したら、彼女達を筆頭にセィタン家が動いてくれた。


元より、王国に勇者という特別な人間を一強とする国の方針に反対し続けていたセィタン家にとっては、今回の件は完全にお怒りであった。


先日の派遣されたセィタン家の騎士達はセィタン家に属する貴族令嬢の保護の名目で参上していたので、私達はある意味幸運であった。

他にも、王家とアスモデ家に対し色々とあったみたいだが…詳細はまだ届いてないので続報を待つばかりであった。


しかし、水面下ではセィタン家とベルフェ家は着々と事を進めている…


「今回の復讐はオイゲン兄上もベルフェ公爵様に進言するなどの協力をしている。失敗は許されない」

「うん、分かってる…必ず成功させよう。カイ」

「ああ…ミリー」


私達はもう一度誓い合い、互いにキスをした後はもう一度眠りに付いた…





明日の未来の為に…





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