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このまま捕まってたまるか、大の字になって横たわるミカミは赤みがかかったオレンジ色の空を眺めながら徐々に身体の痛みが和らいでいくのを感じていた。


パトカーを待つ間も離れようとはせず姉妹は抱き合って互いを称えている。


「もうちょいで私達の不安も解消よ。助けに来てくれたセラのおかげだわ。

何度お礼を言っても言い足りないくらいだよぉ。」


セラはニコッと笑って言った。


「あたしはサポートをしていただけ。

姉貴が囮捜査おとりそうさをしてミカミを引っ張り出した。すごい勇気が必要だったと思うし、責任も果たしたんだ。

なかなかできる事じゃないよね。マジですごいよ。」


姉を笑顔で褒めた妹は、表情を変え横たわっているミカミに冷たい眼差しを向けた。


「コイツはニュースになるのかな?」


「さすがにテレビで報道される事はないと思うよぉ。」


タンクトップから揺れるセラの胸の谷間を見ながらソラは言った。


「よぉ、変態ネズミくん?チミはこれで警察に突き出されてジ・エンドなわけだが最後に言い残したい事はあるかい?」


男っぽい低い声でセラは言った。


「…美人姉妹が身体を密着させているのを見て色々想像して楽しんでいるんだ。

忘れないように脳裏に焼き付けているよ…ゴホゴホッ。」


「コイツまだ舐めた口がきけんのか!」


「もうやめとこ?これで全てが解決したんだから。あとはお巡りさんを待つだけよぉ。」


「ん~オマワリさんねぇ…。」


度重なるミスを犯した警察に不信感を持つセラは苦笑いをした。


「ねぇソラちゃん、俺のこと本当に嫌いなの?お、俺、嫌いだと言われて頭がおかしくなりそうだ。

俺、本気で愛しているんだよ。」


縋るすがをような態度でミカミはソラに聞いた。


「充分おかしいっての。姉貴もあたしもおまえが大嫌いだよ。死んで欲しいくらいだ。」


セラが口を挟んだ。


「待ってセラ、私の口から言わせて。」


ミカミを引っ捕らえ安堵したソラは柔和にゅうわな表情だったが、ミカミの問いに毅然とした態度をとってキッパリ言い放った。


「嫌いだわ。

さっきも伝えたと思うけど、自分の欲求を満たす為だけに人を悪質かつ身勝手なやり方で精神的に追い込むなんて最低よ。」


「しかしだよソラちゃん。ソラちゃんはギター野郎に愛想を尽かして妹ちゃんの自宅に転がり込んだんだろう?

代わりと言ってはなんだが、ギター野郎ではなく俺がソラちゃんの新たな旦那になってあげたいんだ。」


「ふざけた事を言わないで!」


「ひぃ。」


ミカミは怯んで眉を寄せた。


「さっきからギター野郎だの、新しい旦那だのウミを馬鹿にしないでよ!

私はウミに…最愛の夫に身も心も捧げているの。

他の異性が付け入る隙なんか一切ないわ。

今は別々に生活をしているけれど、今はこれでいいと思っている。

愛ってね、近過ぎると目が眩んで互いを見つめられなくなるのよ。

離れて暮らしても、ウミを忘れるどころか激しく求めているわ。」


ソラは目を閉じて自分の胸に手を当てた。


「どうだ?これでわかったろ?変態くん。姉貴にはチミなんかより素敵な旦那様がいるんだよ。」


寝そべるミカミにセラは勝ち誇った表情を浮かべて言った。


「ぎゃぁぁぁぁぁすぅ!!!」


現実を受け入れられないミカミは顔をくしゃくしゃに歪め、動物のような奇声を発しながら両手両足をジタバタさせている。


「あはは、惨めな奴め。」


路上で喘ぐミカミを見てセラは高笑いをしている。


ピーポー

ピーポー

ピーポー


赤信号で停止しているパトカーがサイレンを鳴らしてこちらへ向かってきた。

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