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ピンポン


ソラとウミは隣に住む男に引越しの挨拶をする為、玄関のチャイムを鳴らした。


「俺まで一緒に挨拶する必要あんのかな?」


「私達は愛し合って結婚した夫婦だよ。こういう事は一緒じゃなきゃダメなの。」


「はぁ、めんどくせー。引越しで疲れてんだから早く寝たいぜ。」


「そんな事言ってるようじゃ、ご近所さんと仲良くできないわよ。」


「ご近所さんだぁ?俺はそんなもん知ったこっちゃねえからな。

それにしたって隣のヤツ、なかなか出て来ねえなぁ。暑さでくたばったんじゃねーの?」


「ちょっとぉ!変な事を言わないでちょうだい。

いい?ウミ。警告するけど、ご近所さんとは絶対に揉めないでよね!」


「おい!?そこで何をしてる!?」


暗がりの中、男のしゃがれた声が聞こえた。

男は二人の不意を突くかの如く、待っていた玄関から現れず三メートルほど離れた、雑草が生い茂ったまま放置されているアパートの入り口で咥え煙草の姿で立っていた。


「なんだ、あんたは?」


「それはこちらのセリフだろ?俺はミカミだ。お前こそ誰なんだ?

人様の玄関先で何をしているんだ?」


ミカミの玄関先の表札を見てウミは馬鹿にしたような口調で言った。


「なんでぇー。外出してたのかい。

あんた、なかなか表に出て来ねえから、てっきりこの暑さでくたばったのか思ったぜ…何すんだ?んんん。」


ソラは強引にウミの口を片手で塞いだ。


「なにぃ?くたばるだと?俺がくたばったと言いてえのか?ガキンチョの分際でお前は誰に向かって舐めた口を聞いているんだ?」


ソラは一触即発の状況に慌てながら無作法なウミを隠すように背後へ追いやり、ソラ自身が前に出た。


「あの、こ、こんばんわ!こんな遅くにどうもすいません。

私達は大嵐おおあらし(ソラの旧姓)じゃなかった! 神園かみぞのと申します。本日、お隣に引越して参りました。」



「あぁ、そうかよ…。」


「こちらつまらない物ですが。」


ソラが引き攣った笑顔で引越しの粗品をミカミに手渡そうと近づいた。


ミカミは煙草を吸って目の前にいるソラを見た。

煙を鼻から吐き出そうとした瞬間だった。


「ゴホッゴホッ、オェェ。」


(なっ!!!なんて可愛い娘なんだ。お、俺は27年間生きてきて、こんな美少女を見た事がねぇぇぇ!)



ミカミはショックのあまり、手に持っていた卵や牛乳が入っているスーパーのビニール袋を無意識のうちに手から放すとコンクリートの地面に叩きつけられて"グシャ"という音が鳴った。


ソラは首を傾げ心配そうに男に声をかけた。


「あの、煙草でむせたのかしら?大丈夫ですか…?」


汗でビッショリ濡れた白いTシャツから、ブラジャーや胸そのものは透けてはいないものの、ピチピチに張り付いているが故にソラの張りのある大きな胸がクッキリとした形となっているのが確認できる。


ミカミは苦しそうに前屈みになって胸板を押さえ、咳き込みながらも自らの視線を目前にいるソラに向けた。


再びソラの美しい顔を見るつもりだったが、屈んでいるせいで視線の先はシャツにピッタリ張り付いた形の整った大きな胸であった。


(あぁ、貴女の言うとおり、煙草でむせたさ。そいつは仕方ない事さ。

だってよぉ…。

こ、こんな腐りきった世界に…。

こんな腐った国に…。

こんな腐った街のボロアパートにだぞ…。血も涙もない弱肉強食の社会で疲れ切った俺にだぜ…?

美しき巨乳の女神が舞い降りたのだー!!)


「ふぁぁぁぁぁん!」


男は両手で頭を抱え涙を流しながら、如何ともし難い声をあげた。


「ひゃっ!ウ、ウミィ?私、なんかマズイ事したかなぁ?」


ソラは粗品を持ちながら何度もウミとミカミの顔を往復させた。


「お前はなんもやっちゃいねえよ。

きっと、こ、この暑さで頭がイカれたんじゃねぇかな…?」


さすがのウミも動揺を隠せず目が泳いでいた。

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