続・「はちきん」おばあさんの事件ファイル

@AKIRA54

第1話 探偵団、東へゆく Ⅰ 起の段 千代、探偵に復帰する

 

     1

「今日の酒は『安芸虎』って銘柄の酒ですよ」

 S氏はそう言って、深緑色の一升瓶を取り出した。ラベルには、虎の絵が描かれている。その酒を小さなカットグラスに注ぎ、

「名前のとおり、安芸市の酒造メーカー『有光酒造』が出してる酒です。安芸市と言えば、タイガース・タウン。プロ野球の阪神タイガースが、春、秋のキャンプを張っているんですが、近年は二軍が中心になってしまいました。

 この酒はもちろん、阪神タイガースにも由来していますが、実はもうひとつ、安芸には虎がいるんです。

 戦国時代ですが、安芸国虎という、武将が居りました。武将というより、豪族と言った方が正しいかもしれません。

 当時――戦国時代前期――、土佐には七氏、七雄と言われる、豪族が、それぞれの地域を支配しておりました。西の中村の、土佐一条氏は別格として、北には「本山氏」、「吉良氏」、「津野氏」。高知の周辺には「大平氏」、「香宗我部氏」。そして、後に、土佐を統一し、四国制覇を目指した「長宗我部氏」が居り、東の雄に、「安芸氏」がいて、長宗我部元親と最後まで戦ったのが、安芸国虎という、武将です。

 ですから、この『安芸虎』という酒は、安芸国虎という、武将に因んだ銘柄なのかもしれませんね」

 いつもの、土佐酒のうんちくが終わり、今度は、いつもの「小鉢」の一品料理、ではなく、少し大皿に乗ったものの登場である。

 今回は、どう見ても「寿司」である。

「いつも、見慣れないものが多いですが、今回は、わかりますよ。寿司ですよね?」と、わたしが紹介される前に言う。

「そのとおり、寿司ですが、見慣れている、江戸前の握り寿司や大阪寿司とは違うでしょう?」

「ああ、そう言えば、寿司ネタが、おかしいですね?マグロの握りではなく、それに似せた色の……、これは何かな?あっ、稲荷寿司の形をしているけど、油揚げじゃない、コンニャクですよね、これ?と、いうことは、これ全て、土佐独特の寿司料理ですか?」

「ははは、よく、おわかりで。そのマグロに似た色合いは、ミョウガです。稲荷寿司はご指摘のとおり、コンニャク、他に、タケノコが姿寿司と巻き寿司に化けていて、他には、シイタケとリュウキュウがネタになっていますよ。酢はゆずの汁、『柚子酢』を使っています。『土佐の田舎寿司』と言われるものです。魚の採れない、山の地方の名物料理ですがね」

 恐る恐る、まず、ミョウガの寿司を箸で摘む。

「ああ、これはこれで、シャキシャキ感があって、寿司飯に合う。美味しいです」

 次に、コンニャクの稲荷寿司、タケノコの姿寿司、巻き寿司、シイタケの握り、と、箸を進める。

「いやいや、どれもこれも、それぞれ、風味があって、寿司飯に合う。美味しい。これは驚きましたよ。土佐のひとは、発想が豊かですねぇ」

「ははは、貧乏県なので、食材も貧乏臭いですがね……。

 これも、はちきんばあさんの直伝ですよ」

      *

 さて、今回の話は、と、S氏の昔話が始まった。

「今回は、地元の井口町とは、かけ離れた場所で起きた事件です。この酒の造られている安芸市に『井ノ口村』と呼ばれている場所があります。高知市の井口町も昔は井ノ口村と呼ばれていましたから、同じ地名ですよね。そこは、三菱財閥の創業者『岩崎弥太郎』の生家がある場所です。そこで起きた、事件に、私の母――千代――が係わるんですが、さて、どこから話を始めましょうか……」

 グラスの酒を一口飲んで、

「まず、その年の幾つかの出来事を蛇足のように、お話しましょう。この前の事件――ひかりさんとお吉さんの事件――から、年が明けた春の出来事です……」


      2

「お世話になります」

 と、元気な声が、刻屋(ときや)旅館の玄関の硝子戸を開く「ガラガラ」という、鈍い音と共に、千代の耳に聞こえてきた。

 割烹着姿で、惣菜を作っていた千代が、手を拭きながら、玄関口に出てみると、そこには、去年の夏以来の懐かしい顔があった。

「あら、菜々子ちゃん、すっかり、大人になったね。本当に出てきたがや」

 玄関口で微笑んでいるのは、石川家の六女、石川菜々子である。淡いベージュとピンクが混じった春物のコート、スカートはふわりとしたセミロングの模様柄である。髪型は以前と同じ、ポニーテール、八重歯がその口元から覗いている。

「高知大学に合格したがやとね?」

「ええ、受験の時は、落ちたら恥ずかしいから、別の旅館にお世話になりましたけど、こちらが、旅館を辞めて、部屋を下宿にすると伺ったもので、是非、下宿人にしていただきたくて、お手紙を差し上げたんです」

 刻屋は正式に廃業したわけではないのだが、旅館としての経営は成り立たない状況であり、下宿屋に転換しているところである。その他にも、玄関横を改装して、惣菜や、和菓子、飲み物、アイスクリーム、冬には、壷焼きイモまで、販売し、玄関先のテーブルで食事ができるようになっている。双星製紙の従業員などが、昼食時に利用するようになった。

 その下宿人第一号が、菜々子である。

 菜々子が言うには、昨年夏の高知への旅が、余程、印象深く、大学は高知大に絞って受験し、見事合格したのである。

 離れの二階の部屋が菜々子の高知での根城となった。大きなボストンバッグを畳の上に降ろし、一息ついた処へ、みっちゃんがお茶を用意してくれた。

 備え付けの座卓を部屋の中央に構えて、千代と向かい合う。

「高知で何をしたいの?」

 と、田舎くさい、高知の良さなど思いつかない千代が尋ねた。

「よさこい踊りを踊りたいです」

「ああ、去年の夏、踊っているとこ観たもんね。踊りとうなったがや?

 ほいたら、将来は、何したいの?」

「旅館の女将さんです」

「ええっ?嘘やろう?」

「はい、嘘です」

「ああ、びっくりした、冗談か……」

「本当は、探偵です」

「ええっ?た、探偵?」

「嘘です」

「ほ、ほんまに、冗談キツイなぁ、菜々子ちゃん。びっくりするやないの」

「けど、半分本気です。無理やろうけど。つまり、この前のひかりちゃんの時みたいに、困ってる人の相談を受けて、解決してあげる。ここの『井口探偵団』みたいな組織が作れたらいいなぁ、と思っているんです。ですから、わたしの目標は、千代さんです」

「ええっ?わたしが目標?そ、それも冗談やろう?」

「これは、本気です。千代姐(ねえ)さんはわたしの理想の女性です。いえ、わたしだけやない、ムッちゃんも、真(まこと)義姉(ねえ)さんも千代姐さんを尊敬してます。ですから、同じ屋根の下で暮らして、少しでも、千代姐さんに近づきたいと思っています」

「う、嘘やろう?わたしは平凡な主婦やでぇ」

「平凡な主婦が、周りからこんなに愛されて、みんなが慕うて、事件が起きたら協力する、そんなこと、ありえません。人徳だけやない、千代姐さんには、特別な何かがあるんです。人を惹きつける、磁力のようなもの、眼に見えない光のようなものを出しているのかもしれません」

「菜々子ちゃん、あんた、何か見えてるの?例の特殊な能力ってやつで……」

 菜々子には、人には見えないものが見える。ひかりの持参した、ピンぼけ写真に写った、風景を見事に再現した。それ以上に見えているものがあるようだが、本人は口にしない。

「いえ、特別見えてるって感じはありません。ただ、千代姐さんの傍にいると、心が休まるとゆうか、解放されるとゆうか、普段より、饒舌になります」

「饒舌になる?」

「はい、多分、小政さんを初め、周りのみなさんも同じでしょう、会話が進むのです。そう感じませんか?」

(そう、言われれば、刻屋へ集う連中は、よう喋るなあ。けど、普段から明るい性格のもんばっかりやし、わたしの所為やないと思うけどなあ……)と、千代は思った。

「多分、お寅さんと千代姐さんには、母性を感じる方が多いと思います。母親には、素直になれる、そうゆう感じかもしれませんね?」

(まだ、十八歳なのに、世の中が見えてる娘やなぁ……)と、感心する千代であった。


       3

 「今日は、千代、居るか?」

 刻屋の玄関の硝子戸を、横に引いて、白髪頭の初老の男性が入って来た。陽に焼けた黒い肌、顔の皺が、実年齢より老けて見える。

 季節は梅雨を迎えている。今年の梅雨は「空梅雨」なのか、雨の日が続かない。その日も雲は多いが、降ってはいない、そんな蒸し暑い気候である。

「あら、お父ちゃん、どうしたの?珍しいやいか、家を訪ねてくるやなんて……」

 千代を訪ねてきたのは、千代の実父――千代は刻屋の養女である――の千吉である。千代を幼い時に養女に出してから、千吉は遠慮しているのか、実子の千代を訪ねてくることは稀であった。時々、姉が訪ねてくる。その時に父親の様子を確認したり、年に一、二度、千代が実家を訪ねる程度であった。

 その稀な千吉の訪問である。千代の脳裏に不吉な予感がした。

「ああ、ちっくと、お城下に出てくる用があってのう、おまんの顔が見とうなったがじゃ」

「それだけやないろう?まあ、入り、カブ(=ホンダ・スーパーカブ)で来たがかね?疲れるろう?もうエエ年やき、無理しなや。用があったら、姉ちゃんに頼んだらエイろうがね」

 千代が、千吉を玄関脇のテーブルに案内する。業務用の冷蔵庫から、麦茶の入ったヤカンを取り出し、グラスに入れて、父親に差し出した。

「何ぞ、変わったことでもあったがかね?」

 千吉が、グラスのお茶を半分ほど飲んで、テーブルに置いた後、すかさず、千代が尋ねた。

「うん、まあ、ちっくと……」

 と、千吉が言葉を濁す。

「姉ちゃんに何かあったが?」

 千吉は、姉夫婦と孫ふたり、と一緒に暮らしている。千代の実母は、亡くなっているから、五人家族である。

「いや、家(うち)の家族は、みな元気じゃ。ちっくと、頼みごとがあってのう。ここ、刻屋は探偵の真似ごとをしゆうって訊いちょるけんど、今もしゆうがかえ?」

「た、探偵?父ちゃん、何処で訊いたが、そんな噂?」

「いや、前に喜代(きよ)が言いよった……」

 喜代とは、姉のことである。

「姉ちゃんが?まあ、イランことを……」

 と、千代は眉をしかめる。

「それで?探偵団は解散しちゅうけんど、相談やったら、訊いちゃるき、まあ、話してみいや」

 と、続きを促す。

「実は、姪の佐代子のことやけんど……」

 と、千吉が遠慮がちに話を始める。

 佐代子は亡くなった千吉の妻――千代の実母――の妹の子供である。千代にとっては、母方の従妹になる。

 佐代子の母は若くして亡くなっており、父は召集で、戦地に。そのため、佐代子は戦時中は、千代の実家で暮らしていたのである。そこから、戦後すぐに、高知市の東、安芸市の農家に嫁に行っている。千代とは縁遠くなっているが、実家の方とは、頻繁に行き来しているのである。

「佐代子から訊いた話やけんど……」

 千吉の途切れ途切れの話を根気よく、時々質問を挟みながら、千代が訊きとった千吉の相談事は、次のような驚くべきことであった。

 佐代子の嫁ぎ先は、安芸市の中心部から北に入った部落である。すぐ近所には、三菱財閥の創始者、岩崎弥太郎の生家がある「井ノ口村」があり、古い武家屋敷跡が残る、「土居」という地区にも近いらしい。まずまずの土地を所有しており、佐代子はそれなりの生活をしている。

 その、佐代子の嫁ぎ先の部落には「安興寺(あんこうじ)」という、旧家がある。もと、安芸地区を治めていた、安芸氏――安芸国虎――の末裔という。

 戦国時代の土佐の豪族、七雄のひとつであり、長宗我部元親との戦に敗れ、滅亡した、と伝えられているのだが、その分家の分家筋が、生き残り、僧職に入り、命を長らえたらしい。その子孫が、庶民に還俗(げんぞく)し、山内家の時代になって、「安興寺」の姓を名乗ったのである。

 安芸氏の再興を願って「安・興・寺」と名乗った、と、伝説のような話になっている。

 ただ、その一族は勤勉であり、目標――一族の再興――があった所為か、土地を開墾、農機具の開発、山林資源の有効活用と、財力をつけていき、地域の庄屋に任じられ、苗字、拝刀を許されるまでになったのである。

 佐代子の嫁ぎ先は、その安興寺の小作人上がりである。戦前から、農地を与えられ、農作に従事し、戦後の農業改革により、土地の所有を広げた家系である。つまり、安興寺家は主格筋に当たるのである。

 最近、その安興寺家で異変が起きている、というのである。

 まず、昨年九月の台風――伊勢湾台風――の折、所有する田畑を見回り中、長男の芳和(よしかず)が、落石に会い、片足を切断する事故に遭った。その折、もうひとり、土石流に巻き込まれ、死亡する事故も起きたという。

「その死体には首が無かったがやと」

 と、千吉が説明を加える。

 土石流に巻かれて、台風通過後、遺体発見時に、首から先が千切れており、首の方は、下流に流されたのか、獣にでも咥えられたのか、とうとう発見できなかったらしい。

「それと、最近、安興寺家の周りで、犬猫の死骸がようけ出るがやと。それがみな、首を切られて、首のない死骸とゆうことや」

 千吉はようやく、最近の出来事に話題が移った。

「それから、三日程前、安興寺家の白壁に、血の文字で、『米寿の祝いに血が流れる』とゆう落書きが書かれてあったそうな」

「血文字って、人間の血?」

 と、そこで、千代が尋ねる。

「いや、傍に、犬の死骸があったらしゅうて、その血で書いたもんらしい、とゆうてた」

「米寿の祝いって、誰の祝いなが?」

「安興寺の先代の奥さん、絹(きぬ)さんゆうお婆さんが、今年八十八歳。その祝いを誕生日の六月十五日にするそうな」

「十五日ゆうたら、明後日やいか」

「ほうよ、そやき、佐代子が心配して、悪いことが起きるかもしれん、ゆうて、相談に来たがよ。警察にゆうても、全然、取りおうてくれんらしい。最後の頼みの綱が、井口の探偵団ながよ」

「ち、ちょっと、探偵団って、そりゃあ、この辺で起きた事件やったら、知り合いの刑事さんも居るき、頼めるけんど、安芸までは無理でぇ。わたしにどうして欲しいが?」

「安芸の佐代子ん処へ行って欲しいがよ。部落中が怖がって、田んぼも畑仕事も手につかんらしい。頭のエイ、おまんが行って、なんちゃあ無かったら、それで、安心するがよ。できたら、おまんひとりやのうて、探偵団の腕利きを連れて行って欲しいがやけんど……」

「わたしで役に立つ?わたし怖がりやき、一緒になって怖がりそうや。犬猫の首なしの死骸やなんて、見とうないし……。それに、探偵団の腕利きっち、小政さん、仕事あるろうし、頼めるかなぁ?」

「頼む、取り敢えず、十五日の晩、なんちゃあ無かったら、それでエイがやから、行くだけ行って、佐代子を安心させちゃってくれ!」

 千代に両手を合わせて、拝むようにして、言いたいことを言ってしまった千吉は、千代の応諾も確かめずに、表に停めてあった「カブ」に跨り、ゆっくりとしたスピードで帰って行った。

「今、カブに乗って行った人、お客さんでした?」

 入れ違うようにして、ショルダーバッグを肩に掛けた、菜々子が大学の講義から帰って来たところである。

「ああ、菜々子ちゃんお帰り。お客さんやのうて、ウチの実家のお父さんよ。近所に来たからって、寄ったんやけど、大きな、お荷物、置いて行ったわ」

「へえ、千代姐さんの本当のお父さん?会いたかったな、どんな人やろう?顔回の父親やから、孔子さんのような人やろうか?それとも、仙人のようやろうか?」

「菜々子ちゃん、わたしは顔回やない、って、何回もいいゆうろう、大概にしいよ。ウチの父親も、孔子さんや仙人なわけないろう?」

「ははは、冗談です。それより、大きな荷物って何です?食べもんやったら、協力しますよ。今、お腹空いてるから」

「あら、残念、食べもんでも、物でもないんよ。頼まれもん。しかも、厄介な注文、ゆうか、ご依頼よ、探偵団の……」

「探偵団?事件ながですね?どんな事件です?殺人事件?誘拐かな?」

「ああぁ、菜々子ちゃんも、睦実さんと同じね。探偵団、ゆうたら、事件。事件ゆうたら、眼の色が変わる。流石、姉妹やねェ。

 けど、残念、まだ、事件は起きてないのよ。起きるかどうかも、あやふや……」

 千代は簡潔に――安興寺家の由来などは省いて――千吉の話を伝えた。

「安芸に行くんですか?ああぁ、大学の講義があるからなあ、一緒に行きたいけど、行けませんねェ。ボンも学校でしょう?ジョン君連れて行く、って手もありますよね?まあ、小政さんは千代さんが行く、ゆうたら、絶対、ついてきてくれますよ。千代さんに惚れてるもん」

「ジョンも小政さんも連れて行きません。菜々子ちゃん、小政さんがわたしに惚れてるって、それ、噂の域やからね。好きかもしれんけど、姉弟愛やからね。誤解のないように……」

「はいはい、わかってます。当人同士は、そう思っていることにしときます。

 でも、千代姐さん、ひとりでは危ないですよ。犬猫の死骸といい、壁の血文字といい、悪意があります。唯の嫌がらせとは思えません。どなたか、男のひとが……。男のひと、ゆうたら、やっぱり、小政さんでしょう?」

「大丈夫よ。わたしは従妹ん処へ行くだけ、もし、万が一、事件が起きたら、後は警察に任す。わたしが首を突っ込むわけないろう?」

「そう簡単に割り切れます?事件の当事者に巻き込まれて、警察から事情聴取、いやいや、犯人扱いされるかも……」

「菜々子ちゃん、変な予言せんといて、あんたに言われると、怖いわ、本当にそんなになりそうで……」


       4

 電車の窓から、太平洋の青い海が一望できる。遠く進行方向には、室戸岬の長い半島が、雲の切れ間から覗いている。

 高知市から東へ、当時、土佐電鉄の安芸線が走っていた。今の土佐くろしお鉄道、後免―奈半利線ではなく、路面電車の延長が安芸まで続いていたのである。

 今、電車は、手結(てい)から住吉(すみよし)に向かっているところである。晴天とはいかないが、薄雲の下、太平洋が眼下に広がっていて、黒潮の流れの色の違いがはっきり見えていた。

 昨日、菜々子には、ひとりで行くと言ったものの、やはり、不安になり、小政には連絡しようと電話をしたが、生憎、小政は仕事で出かけていた。しかも、翌日まで帰ってこないと訊かされた。

(まあ、小政さん、サラリーマンやし、会社の仕事優先やもん、無理は言えんなぁ……)と、千代は電話を切った。

(しゃあない、ひとりで行くか、いや、その前に、お母さん――お寅さん――に承諾を得る必要があったワ……)と、電話口でひとり考えていた。

「どないしたん、浮かん顔して?」

 ちょうど、出先からお寅さんが帰って来たのである。

「あっ、お母さん、お帰りなさい。丁度良かった、相談事があるんです」

 千代が、手短かに、千吉の依頼を伝える。

「おや、千ちゃん来てたんかね?逢いたかったね。元気にしてたかね?」

(元気やなかったら、こんな依頼にわざわざ来んやろう……)と、心の中で千代は突っ込んでいた。

 お寅さんの承諾を得て、子供の面倒をみっちゃんに押しつけて――亭主の幸雄の世話は元から除外?――朝早くの、安芸行きの電車に乗ってきたのである。

 終点の安芸駅――今の球場前駅の南側の海沿いにあった――に降り立つと、懐かしい、従妹の笑顔があった。モンペ姿、どう見ても、農家の女将以外には見えない格好である。

「千代ちゃん、よう来てくれた」

 と、涙を流さんばかりの歓迎ぶりである。

 駅前に「ミゼット」が停まっている。それを指さし、

「これ、買うたんよ。エイろう?ほんで、免許も取ったがよ」

 と、自慢げに話す。

 佐代子の家は、米だけでなく、野菜や果樹まで栽培している。それを市場まで運ぶのに、トラクターでは不便ということで、買ったらしい。まだ、軽四のトラックが市販されていない頃、三輪車の「ミゼット」は人気車種であった。

 舗装されていない、砂利道、土道を車体を揺らしながら、ミゼットは北に向かう。周りは田んぼばかり、稲は青々とその茎を伸ばしていた。

 茅葺き屋根の立派な農家の庭まで、ミゼットは入って行く。ニワトリたちが、その音に驚いて、「コッ、コッ」と鳴きながら、庭を駆け回る。「メェー」とヤギの声までした。

 佐代子の家族は、夫と小学生の男女二人の子供の四人家族。舅、姑は今はなく、亭主は無口で、不平不満は口にせず、家の主導権は佐代子が握っているようである。

「あんた、このひとが、言いよった、従姉の千代さん。別嬪やろう?頭もエエんよ。師範学校出てるんよ。しかも、飛び級。才女の誉れ高い美女、ゆうて、知らん人居らんがぜ。最近は探偵団の団長役しちょって、警察の刑事さんからも一目置かれちゅうがやと。凄いろう?それが、ウチの従姉ながやでェ。あんたも鼻高こう出来るやろうがね」

 言いたいことを、一気に言って、昼飯を食べに一時帰宅していた、亭主の眼を白黒させた佐代子を横目に、

「千代、言います。少しの間、お世話になります」

 と、頭を下げる。

「少しやない、もし、事件が起きたら、解決する間、家に居るがやき、あんた、わかっちゅうね、大事なお客さんやきねェ。ひいては、安興寺さんとこに、恩を売ることになるかもしれんがやき、気合い入れよ」

(そうか、主格である、安興寺家にエイ顔したいがや。それが目的ながか。こりゃあ、巧いこと乗せられたかな?)と、千代は考えを纏めていた。

「まあ、家へ入って、なんちゃあ無いけんど、ご飯食べて、それから、安興寺さんに紹介するき」

 と、これからの予定まで決められていた。

(まあ、明日が問題の『米寿の祝い』の日であるから、今日中に挨拶しとかんと……)と、千代も思っている。

「すみません、安興寺さんのお宅は、どう行けばよろしいでしょう?」

 家に入ろうとした、三人の背中に、男の声がした。

 最近は見かけなくなってきた、復員服――軍服を仕立て直したカーキ色の上下服――と、下級の軍人が被る兵隊帽を目深にかぶった、細身ながら、頑強な身体つきの男が立っている。その左腕は肘から先が失われていた。傷身兵であろうか?

「ああ、安興寺さんやったら、この道まっすぐや。大きな欅(けやき)の木が見えるから、そこがそうや」

 と、佐代子の亭主が、ぶっきらぼうに指で示しながら、答えた。

「どうも」

 と、一礼して、男は足早に去って行った。

「何や?気色悪。左手無かったな?顔もよう見えんかったし、安興寺さんに何の用やろう?」

「ひょっとして、行方のわからんなっちゅう、次男の芳文(よしふみ)さんが帰って来たがやないか?」

「あんた、芳文さんやったら、自分宅(じぶんく)が、わからんわけないやろうがね、何、寝ぼけちゅう。千代さんに笑われるぞね」

「そ、そうか、ほいたら、芳文さんの戦友かもしれん。芳文さんの遺品でも届けに来たがかもしれんやいか……」

「それ、ありえるなぁ。あんた、たまには、賢いことゆうねェ」

「芳文さんって?」

 と、千代が尋ねる。

「あっ、まあ、千代さん、安興寺さんとこは複雑やき、家の中で話すワ。芳文さんは今のご主人の息子さん。次男さんよ。戦争行ったきり、行方不明。死んだゆう通知は来てないき、生きちゅうはずながよ」

       *

「えらい、大きなお家やねェ」

 安興寺家の大きな門の前で、千代は感嘆の声を上げた。

 目印の大きな欅の木を通り過ぎると、その門構えの家が眼の前にあった。

 豪農というより、武家屋敷と思われる門構えである。

「まあ、ここは、先々代さんが、お武家さん屋敷風に建て直した家やき、農家と武家屋敷の混合しちゅう建てもんながよ」

 と、佐代子が説明する。

 門は開けたままになっている。奥の方に母屋があり、その手前には、納屋、倉庫、白壁の蔵、馬小屋まであり、母屋の奥には、離れのような建物も見えていた。

「さあ、行こう」

 と、立ち止まっている、千代の背中を叩いて、佐代子は勝手に門をくぐって行く。立ち入り自由のようである。

 門から入ると、農家の雰囲気が強くなる。ニワトリの声もしている。

 母屋までの道すがら、千代はあることを考えていた。それは、佐代子の家を出る時、小学校から帰って来た、佐代子の娘の言葉である。

「さっきそこで、『安興寺さんくは、こっちでエイかね?』ゆうて、訊かれたき、欅の木が見えてくる、ゆうて、教えちゃったよ」

 と、言うのである。

「それ、どんな人?兵隊さんみたいな服着た人?」

 先ほどの人物が、道がわからず、引き返して来たのか?と、佐代子は思ったのである。

「ううん、商売人さんみたいやったよ。大きな唐草模様の風呂敷、背負っていたから……」

 その子は中々賢そうな眼をしている。千代は、

「どんな格好やった?」

 と、尋ねてみた。

 その子の話では、小柄な中年の男で、つばの短い帽子――おそらくハンチング帽――を被っていたという。白い半そでシャツにグレーの綿のズボン、顔はよく見えなかったが、髭はなかったとのことである。

 つまり、あまり特徴のない男、である。

「よう、憶えちゅうねェ、賢いねェ」

 と、千代はその子を褒めてあげる。

「その人、足が悪そうやったよ」

 と、一緒に学校から帰って来た弟が、口を挟む。

「ちょっと、左足のほう引きずる感じやったけど……」

 と、付け足した。

 千代はその、安興寺家の場所を尋ねた、復員兵らしき男と、商売人らしき男が気になっていたのである。

(一人ならともかく、二人も、安興寺を知らずに、ほぼ同じ時間帯に、尋ねるなんて、何かの事件の前触れやないんかなぁ。明日の米寿の祝いと関係あるがやろうか?)と、歩きながら考えていた。

 母屋の手前の脇にある納屋の前に、二人の男がいた。

「今日は、小松の佐代子です」

 と、佐代子がその男に声を掛けた。

 二人の男の視線が、同時に、佐代子と千代に注がれる。背の低い方は、背中を向けていたから、振り向く格好になった。

「あれ?小政さん?な、何で、小政さんがここに居るの?」

 千代が、振り向いた男の顔を見て、驚きの声を上げた。

「ああ、千代さん、わたし、ついさっき、到着したところです」

 と、長吾郎一家の「軍師」、小政――本名、政司――が笑顔で答える。

「えっ?わたしを追わえてきたが?」

 昨日、小政に連絡はした。が、用件は伝えていない。

「まあ、追わえてきた、ってこともないがですが、事情は後ほど……。

 それより、まず、ご主人に挨拶せなイカンでしょう?取り次ぎをお願いしてたところですき」

 何か、煙に巻かれた気がするが、千代と佐代子は、傍らにいる、もう一人の男、安興寺家の使用人、友造(ともぞう)に、明日の準備のことで訪問した旨を伝えた。

       *

「お待たせしましたね」

 と、言って、中年の女中さんに左手を引かれ、右手には短い杖をつきながら、縁側の廊下から姿を現した老婆が言った。

 ほぼ、真っ白い頭髪を後ろに束ね上げ、顔は皺だらけであるが、色艶はよく、これが、明日、八十八歳を迎える年寄とは思えない。腰も少し曲がっている、と思われる程度である。

(この人が、安興寺家の先代の妻、絹さんながや……)と、千代は案内されて、通された、庭に面した座敷の、座布団の上から、その老婦人の容姿を眺めていた。

 千代、小政、佐代子が挨拶しようと、座布団から立ち上がる気配に、

「そのまま、そのままでエイきに。遠い処、よう来てくれたね。佐代さんも御苦労やったね」

 と、言いながら、老婦人は、三人を制し、中年の女性の手を離れ、上座の用意された座椅子に腰を降ろした。

「ご隠居さん、こちらが、アテの従姉で、刻屋の若女将、千代さんです。ほれから……」

 中年の女中が、部屋を離れると、すぐに、佐代子が千代を紹介する。が、小政については、まだ理解できていない。千代の顔見知りであることはわかったのだが……。

「山本長吾郎の下で働いております、政司、通称、小政と呼ばれておりますき、大奥様も小政と呼び捨てにしてください」

 小政が、佐代子の迷った言葉尻を察して、間を措かず、自己紹介をする。

「おう、おう、あんたが小政さんかね?長吾郎から、よう訊いちゅうよ。京大出のインテリで、山長の切れもん、軍師、言われちゅう、ひとやってね?」

 老女が小政を知っている、そのことにも驚かされたが、

(顔役さんを長吾郎と呼び捨てにするなんて、このお婆さん、何もん?)と、千代は心の中で呟いていた。

「そちらの、別嬪さんが、有名な、顔回の生まれ変わり、言われゆう、刻屋旅館の千代さんゆうひとやね?うん、うん、噂どおりの、別嬪さんで、賢そうな大きな眼してるワ」

 老女の言葉に、顔から火が出るほど逆上せてしまう。そんな噂が、この、安芸の田舎まで広まっているとは……。

「い、いえ、わたしは唯の旅館の若女将、平凡な主婦でございます……」

(何で、ウチがこんな時代劇風な言葉で、恐縮せな、ならんがやろう?)と、思いながら、両手をついて、頭を下げる千代である。

「ははは、そう、かしこばらんでもエイちや。わざわざ、来てもろうたがは、こちらや。あんたらぁ二人はお客様。いや、アテが依頼人で、二人が探偵、ってことや。明日、何ちゃあ起きんかったらそれでエイがやけんど、まあ、よろしゅう頼むワ。離れに部屋、準備しちゅうき、今日はゆっくりしより」

 そう言って、手を叩き、先ほどの女中を呼ぶ。

「この子は、和江ゆう、下働きやき、何でも言いつけて、使うてかまんき。和、お客さん、離れへご案内し、アテはひとりで歩けるき、大丈夫やき」

       *

「一体どうなってるの?」

 離れの一室に案内されて、一息ついた後、千代は小政と佐代子に、そう言って迫った。

(どうも、話がおかしい?わたしが探偵?依頼人が、この家の長老、明日、米寿を迎えるあの、婆さん?全然そんな話、訊いてない……)

「ご免ね、千代ちゃん。実は、あんたを呼んだんは、わたしやのうて、あのご隠居さん、絹婆さんながよ。何処で調べたか、わたしが千代さんの従妹、その千代さんが、井口の探偵団の団長。全部知っちょったがやき……」

 どうやら、佐代子は千代へのつなぎ役をやらされたらしい。

(けど、井口の探偵団のこと、どういて、知っちゅうがやろう?)

「そうや、小政さん、さっき、あの婆さん、顔役さんのこと、長吾郎、ゆうて、呼び捨てにしよったよね?あの婆さんと顔役さん、どういう関係なが?」

「流石、顔回の……、いや、これは言われんがやった。千代さん、よう、人の言葉の謎めいた処、掴んでますね。ボンと同じや。

 実は、あの婆さん、ウチの社長の大伯母に当たりますんよ。先代の武吉(ぶきち)さんのお母さんの妹に当たる方です。社長にとっては、祖母の妹。ですから、ここ、安興寺と、山本家は親戚筋、まあ、遠縁になるわけで、交流はしっかり続いているんです」

「ははん、わかった。顔役さんやね、今回の狂言の元は。さっきの婆さんから、顔役さんへ相談が来て、そこから、ウチとこへ話が廻って来たがやね?」

「まあ、当たっているけど、違うとこもあるんです。

 社長が相談受けたのは間違いないし、社長が『井口探偵団』を自慢げに話した、これも確かでしょう。けど、千代さんとこへ話、持って行ったのは、ここの婆さんの単独行動ですよ。わたし、千代さんが安芸へ向かった、って訊いたんは、今朝、昨日の電話の用がなんやったのか、刻屋へ電話して知ったがですき」

「ほいたら、ウチが呼ばれたのは?」

「多分、社長が、千代さんのこと、オーバーに吹聴したがでしょう。さっきも千代さんのこと『顔回の生まれ変わりの別嬪さん』とか、社長が言いそうなこと、あの婆さん言ってたでしょう?社長、千代さんのこと、大好きすぎて、我が娘を自慢する如く、喋ったと思いますよ……」

 なるほど、そう、小政に言われれば、顔役さんがあの婆さんに、探偵団の内幕を、あること無いこと、尾ヒレをつけて、自慢げに話す光景が眼に浮かぶ。

(ああぁ、マッちゃんひとりやない、テンゴウ噺する人間が、わたしの周りには何と多いことか……)

 今回の一連の出来事――犬猫の首なしの死骸が出回る――以前から、あの老女は「井口探偵団」の存在を知っていたのだろう。そして、刻屋の――長吾郎自慢の――若女将のことも、事前に調べが付いていたのだろう。佐代子の従姉という、ほとんど誰も知らないはずの事実まで……。

 小政の説明が続く。

 今朝、主張先から帰ってくると、いきなり、安芸の安興寺へ行ってくれ、と長吾郎から、指令を受けた。安興寺絹の米寿の祝いに招待されているが、長吾郎は所用で行けない。代役として、小政を選んだのである。

「おまんじゃないと、この役は務まらん。どうも、犯罪の匂いがするき、気をつけてくれ」

 と、長吾郎に言われた。

 千代が父親――千吉――から訊かされた出来事を小政も訊かされたのである。

「つまりじゃ、わしの名代、兼、探偵、ちゅう役どころよ。そう心得ちょき」

 長吾郎に肩を叩かれ、取り敢えず頷くだけの小政であった。

「そうや、安興寺の家族図を作っちゅうき、持って行き。複雑すぎて、言葉ではわからんろうき」

 と、一枚の半紙に描かれた家族の名前を渡された。

 その後、昨日、千代から電話があったことを、お多可さんから知らされて、刻屋に電話を入れると、お寅さんから、千代は安芸へ出かけたと教えられたのである。

 小政はすぐに「ダットサン」を運転し、安興寺家に到着したところへ、千代たちがやって来たというわけである。

「これが、社長に渡された、家族の一覧なんですがね」

 と、小政が鞄の中から、折りたたんだ半紙を取り出し、広げて見せる。

 そこには、「安興寺家・家族図」と、上部に大きな標題があり、その下に、「絹」から始まる、家族の一覧が、達筆な毛筆で綴られていた。

 名前の横に書き込みがあり、絹の横には、「齢、八十八には見えない、足腰に多少の不安がある程度、いたって健康」と、書いてある。

 その図によると、安興寺家の現当主は「芳次郎(よしじろう)」。書き込みに「脳卒中、身体麻痺、口も利けない、筆談も無理か」と、書いてある。

 次に、長男「芳和」その妻「陽子(ようこ)」、娘「尚子(なおこ)」と、あり、芳和には、「左足切断、車椅子生活」、陽子には書き込みがなく、尚子には、「知恵遅れ」と書かれていた。

 段を変えて、次男「芳文」「行方不明、ソ連抑留か?」とあり、三男「芳房(よしふさ)」「フィリピンにて、バナナ園経営」とある。

 少し、行を開けて、使用人欄が書かれてあり、先ほど逢った「友造」と女中の「和江」が夫婦であり、二人の間に娘がいることが書かれてあった。

「ふうん、まあ、これで、家族構成はよく、わかるね。当主は脳卒中で寝たきり。長男は車椅子。次男は行方不明。三男は外国。男の孫は居らん。『アッシャー家の崩壊』やないけど、『安興寺家の崩壊』が近そうな状況やね、このままじゃ……」

「まあ、いざとなったら、尚子さんに婿養子を貰うでしょう。

 それより、出がけに、社長が妙なこと口にしたがです」

「妙なこと?何それ?」

「今度、もし、事件が起きるとしたら、『三菱、岩崎、が関係してるやろうなぁ』と、ひとり言みたいに……」

「三菱?岩崎?」

「うん、弥太郎さんの生家がすぐ近くにあるんよ」

 と、佐代子が言った。

 安芸市井ノ口村にて、幕末、天保期に生まれた、岩崎弥太郎は、下級武士――地下浪人(じげろうにん)――から出世をし、開成館長崎商会にて、会計、主任となり、明治維新後、土佐藩の藩船を借り受け、九十九(つくも)商会を設立。後に三菱商会と改め、海運業にて、三菱財閥の基礎を作った人物である。

「ああ、三菱財閥の創始者の弥太郎さんね?この近所の出身ながや」

「岩崎の祖先は元、安芸氏の家臣やったそうや。ほやき、安興寺は元の主格の末裔ってことになる。貧乏やった岩崎の家を面倒見てやったんも、何代か前の安興寺さんらしい。弥太郎の母親の美和さんもエライ世話になったって、ゆうちょった、らしいき、縁が深いがやろう」

 佐代子が、安興寺家と岩崎家の関係をそう話してくれた。

「まあ、頭の片隅に、岩崎家を置いておいてください。社長は何か知っているようですが、今でも何かの繋がりがあるのかもしれません。まだ事件も起きてない段階ですき、あれこれ推測は辞めておきましょう」

「そうそう、小政さん、ここへ商人風の唐草模様の風呂敷抱えた男のひと来んかった?丁度、小政さんが着いた頃に通ったはずやけど……」

 千代は、話題を変えて、佐代子の娘が言っていた、安興寺家への道を尋ねた男の話をした。

「いえ、気が付きませんでしたよ。その男がどうしたがですか?」

「ふうん、おかしいなあ……。実はね……」

 と、千代は安興寺家への道を尋ねた二人の男のことを小政に話した。

「同時間帯に、二人の、風体の違った男がここの場所を尋ねて、どちらの男も、ここには居らんみたいやろう?」

「さて、ここは広いから、どっかに居るかもしれませんが、確かに、偶然にしては、おかしい気もしますね」

「そうやろう?事件の前触れ、あっ、そうや、『本陣殺人事件』の三つ指の男や……」


       5

「へえ、見事なもんやな」

 と、小政が感嘆の言葉を発した。

 翌日の午前、安興寺家の広い庭先で、大道芸が披露されているのである。

 サーカスのピエロの衣装を纏った男が、五個のボールをお手玉――ジャグリング――した後、今度は、五本の短剣を操っていた。身体の正面だけでなく、時には背面を短剣がまるで生き物のように上下していく。

 周りには、近所の村人が、めったにお目にかかれない、大道芸に釣られて、子供から年寄りまで二、三十人が取り巻いている。

 絹婆さんの米寿の祝いの、アトラクションなのである。

 ピエロ姿のジャグリングが終わり、拍手とお捻りが飛ばされる。その、お捻りの硬貨を、ピエロのとんがり帽子で空中で拾い集めながら、ピエロが退散していくと、入れ替わるように、若いレオタード姿の、ポニーテールの女性が現れる。続いて、筋骨逞しい中年の男が、器械体操の選手の格好で登場した。

 男の方は、大道芸が始まる前に挨拶をしていた男で、この一座の団長のようだ。一座と言っても、ピエロの男と合わせて、三人だけの集団である。

 二人の男女は組体操のような演技を始める。男が下で土台となり、その手や肩、頭の上、足の上で、レオタードの女性が、逆立ちをしたり、空転をしたりするのである。

 最後に、寝転んだ男の両足に、見事にバック転をして、立ち上がった女性が、その勢いで、飛び上がり、斜め後方に建てられていた物干しざお――小政はそう思っていたのだが、実はこの演技の為に特別に作られていた装置――へ飛び移り、そのさおの上に立ちあがった。

 身体が、グラリと傾いたが、何とかバランスを取り、細い竹の竿の上に手をつかないまま立ち上がる。物干しの高さは、一メートル半ほどで、落ちても大怪我はしないだろう。が、人間の体重で、竿は歪み、揺れてしまう。

 両手を軽く広げ、レオタードの素足を輝かせながら、女性はゆっくり、さおの上を歩き始めた。綱渡りならぬ、さお渡り。だが、殆ど準備ができない、いきなり空中から飛び降りての芸である。驚きのバランス感覚であった。

 さおを渡り終え、身軽に地上に宙返りをして降り立つ。そこは、体操の平均台の演技のようでもあった。

「凄いね」

 という、背中からの声に小政が振り向くと、千代の笑顔があった。

「ああ、千代さん、台所の手伝い、済んだがですか?」

 千代は朝から、佐代子と共に、今日の祝いの膳の手伝いをしていたのである。

「うん、後は盛りつけやから、わたしは用済みよ。佐代子さんは、まだ手伝ってる」

「そうですか、それで、祝いの席には何人ほど集まるがですか?」

「さわち料理やから、正確な人数はわからんけんど、お吸い物、小鉢の付け出しの数からしたら、二十人くらいかな?そんなに大人数やないみたいやよ」

「そいたら、我々も着替えますか?こんな形(なり)では、失礼でしょうから……」

 大道芸は終わったようで、拍手の後、村人たちは、それぞれ帰宅の途についた。

 千代は昨夜から、この安興寺家の離れの一室を借りている。小政の部屋の隣である。

 昨日、帰ろうとした千代と佐代子を女中の和江が呼びとめ、長男の芳和が話があると、居間に通されたのである。

 車椅子に乗った男が現れ、手短に用件を言った。

「何が起きるかわからん。今夜からこの家に泊ってくれ。夜の十二時を過ぎたら、『米寿の祝いの日』になるきに……」

 そう言われて、千代は急遽、佐代子の家に置いていた手荷物を下げて、離れの部屋に入ったのである。

「いつ何が起きるかわからん、か。血が流される日は、もう始まっちゅうがやもんねぇ」

       *

 夕刻前に米寿の祝いの宴が始まった。二十畳ほどの座敷に、座卓が長方形に並べられ、その上に、さわち料理が数皿、刺身の大皿が三枚、酒の入った一合徳利が並べられていた。     

 安興寺家の家族は、寝た切りの主人、芳次郎以外は長男の芳和も車椅子を下りて、座椅子に座っている。その横に妻の陽子、娘の尚子が着物姿で座っている。

 客は近所の農家の主人と元村会議員――現市会議員――、元村長と元助役――いずれも市会議員――、星神社の神主、明見寺(みょうけんじ)の住職、井ノ口小学校の校長。それに小政と千代、佐代子の亭主が末席に座っている。

 最後に今回の宴の主役である、安興寺絹が女中の和江に手を引かれ入って来た。

上座の席に腰を降ろし、一同に視線を向ける。

 元村会議員が立ちあがり、開会の挨拶をする。どうやら、遠縁の者らしい。

 挨拶が終わると、障子が開けられ、椀に入った吸い物が運ばれてきた。

「千代さん、これを、住職さんと神主さんへ」

 と、手伝いに来ている佐代子が千代に頼んだ。

 特別な椀らしく、漆塗りの立派な椀をお盆に乗せて、住職と神主の前に運んだ。

 他の者にも椀が配られ、無礼講のような宴会が始まった。

 事件が起きたのは、宴が始まって数分後である。

 酒を飲まないでいた、神主と住職が漆塗りのお椀の蓋を取り、汁を口に運んだ。その、何十秒後か……二、三分後である。

「グゥワァ」

 獣のような声がしたと思うと、住職がドッと口から異物を吐き出した。そしてそのまま、机の上に胸を掻きむしりながら倒れ込んだのである。机の上の徳利や、積み上げられていた取り皿が音を立てて、崩れていった。

「ワァ、ワワワ」

 と、隣に座っていた、神主が、腰が抜けたように、身を引いていた。 

 いち早く、住職に駆け寄ったのは、小政であった。

「医者を、早く……」

 と、言った後、

「いや、間に合わない。お坊さん、あっ、亡くなったのが本人か。警察を呼ぶべきですね。殺人事件のようですから……」

 と、抱き上げていた住職の身体を、元のように机の上に置き直した。

「殺人だって?」

 と、住職の前に座っていた、芳和が驚きの声を上げる。

「ええ、毒を飲まされたようです。微かに、薬物のような匂いがします。青酸カリかと思います。自殺は考えられない。おそらく、毒殺でしょう。

 皆さん、申し訳ないが、警察が来るまで、その場を動かないように。無闇に、物を触らないようにお願いしますよ」

 小政の声に、周りがざわつく、不満の声を上げるものもある。

「この人は、こんな事もあろうかと、わたしが雇うた、探偵さんや。ゆうことを訊かんと、犯人か、共犯者と見て、警察にゆう。しばらくは、このひとの指示に従いや」

 上座から、一同に対し、威厳を持って、この場の主人公であった安興寺絹がそう宣言した。

 その様子を、下座から眺めていた千代は心の中で呟いていた。

(この状況、『八つ墓村』の……)と……。

       *

 ――ここで、S氏が注釈を加える。――

「小政さんが、青酸カリ、と言ったのは、当時、青酸(=シアン系)の毒物の総称として、『青酸カリ』という言葉が使われていました。今なら、それぞれ、別途の化学名があるのでしょうが……。ですから、この後にも出てくる。青酸カリ、というのは、シアン系の毒物であり、詳細はわかっていないものと、考えてください。もしかしたら、アセトシアノヒドリン、かもしれませんし、他のシアン化合物だったかもしれません」

「アセトシアノヒドリン?それって、もしかして、帝銀事件に使われたかもしれないという、毒薬ですか?」

 昭和二十三年に起きた、戦後最大の毒殺事件が「帝銀事件」である。そこで使われた毒薬は、青酸化合物とは解っているが、青酸カリ――シアン化カリウム――なのか、他の化合物なのか、未だに、確定していないのである。その、化合物のひとつの候補に、「アセトシアノヒドリン」という、毒物があり、この毒物については、陸軍の特殊部隊が係わっているのではないかとの憶測もある。

「そうです、よくご存じで……。まあ、当時の警察の検死では、そこまで詳しい、分析はできてなかった。いや、我々が、知らされてなかったのかもしれません。ですから、この物語では、シアン化合物の毒薬を、『青酸カリ』と、呼ぶことをお断りしておきます」

       *

 安芸署から二人の私服刑事と、警察官、鑑識係が安興寺家に到着し、鑑識官が、毒による死亡であることを確認。殺人事件として捜査が始まった。

 安興寺家の別室が、急遽、取調室となり、担当刑事による、事情聴取が開始された。

 死亡した、住職の隣にいた、神主、テーブルをはさんで、前にいた、芳和と聴取を受けた後、千代が部屋に呼ばれた。

 住職を死に至らしめた毒物――ほぼ、青酸カリと思われるもの――は、吸い物のお椀に混入されており、その椀を住職の前に運んだのは、千代本人である。もちろん、蓋をしたまま、お盆を受け取り、そのまま、机の上に置いただけなのだが、二つのお椀のどちらが、住職に渡るか、確率は五割。神主の椀には、毒物は入っていなかったのである。

 犯人は――これが計画的な犯罪だと考えるなら――住職を狙ったのか?それとも、神主を狙ったのに、失敗したのか?

 千代が、「八つ墓村の……」と、思ったのは、横溝正史の名作「八つ墓村」に於ける、最初の殺人場面を思い出したからである。

(確か、あの場面は、二人の住職のどちらかが毒殺されるのだったっけ?犯人は、どちらでも良かったって、結末だった……)と、記憶している。

「それでは、毒の入った椀を、住職の前に置いたのは、偶然、というわけながですね?」

 椀を配った状況を、年長の方の刑事が念を押すように、千代に確認した。

「そうです。まず、右側の椀を、手前の住職さんの前に置いて、残りを神主さんの前に置いた、それだけです。毒入りなんて、わたしは知りませんし、わたしが椀に毒を入れることなんてできません」

「わかってますよ。あんたが犯人やなんて、誰も思ってませんよ。いや、却って、ご協力を願いたいんですワ。井口探偵団の団長、顔回の生まれ変わり、だそうで……」

 ニヤリと、意味深な笑顔を浮かべ、中年の刑事が言った。

「その、間違った噂は、どなたから訊いたのですか?」

「いやいや、間違ったなんて、ちゃんとした情報ですワ。なんせ、元県警の○暴係、この春、室戸の刑事課課長さんに赴任してきた、杉下警部の言ですき」

「杉下警部……、ああ、あのバーバーリーのスーツとレイヴァンのサングラス姿の……」

「そ、そうですワ。よくご存じでしょう?井口探偵団には、色々世話になった、ゆうてました。わし、杉下さんと同期でしてね。未だ、警部補ですけど……」

「では、わたしのことも、小政さん、いえ、政司さんのことも、ご存知なのですね?」

「ええ、現場の保存もしてくれて、その場にいたメンバーも事件の起きた状態のまま、待たせてくれて、非常に助かってます。流石、噂どおりの探偵団だと、警察も感心していますワ。そこで、今後も、ご協力をお願いしたいんですワ。

 毒殺ゆうんは、わかり易い、が、犯人を特定しにくいことが、まま、あるんです。毒の入手先が特定できれば、犯人絞れるのですが、毒がいつ入れられたか、今回のように、台所には誰でもはいれる状況では、ほぼ、全員が容疑者です。そこから、ひとりひとり、絞り込んで行く、ってことになります。そこで、動機が一番問題になってくるんですワ。誰が毒を入れたか?でなく、何故、住職を殺さねばならなかったのか?そこが、犯人を追いつめる一番の検討すべき点になりそうですワ。けど、殺されるべき相手が、住職でなく、神主だった場合、動機がまた違ってくるはずです。そこの処、女将さんはどうお考えなのか?犯人の目的は、どっちやったと思いますか?」

「わたしのことは、千代と呼んでください。それと、これはあくまで、素人の直感と思って訊いてください。犯人は、どちらでも良かった。取り敢えず、神主か住職か、いずれかが死んでくれれば良かったのではないでしょうか?そして、いずれかは、殺さず、生かしておきたかったのでは……、そう思います。その目的は、まだわからないのですけど……」

「ど、どちらでも良かった?そ、そんな犯罪があるんですか?」

 そう言ったのは、メモを取っていた若い刑事である。

「しかし、そう考えると、動機が……、どうもアヤフヤになりますなぁ。目的は、どちらかを殺すこと。それが、犯人にとって、何の利益になるんですろう?」

「刑事さんは、動機を何らかの利益を得る者から推し量っているんですね?」

「まあ、犯罪の動機で一番多いのは、金、次が恨み、それから、男女のもつれ、人間関係のもつれでしょうかな?しかし、どの場合も、目的の人物がいる。どっちでも良い、なんて犯罪は、愉快犯でしょう?それなら、一人を生かしておく必要はないですよね?ひとりに毒盛るのも、二人に盛るのも、そう手間は掛からんはずやから……」

「刑事さん『八つ墓村』って探偵小説、ご存知ですか?」

「ああ、横溝正史の、金田一耕助ものですね?」

 と、答えたのも、若い刑事である。

「何や、その、き、キンダイチって、変な名前は?」

「ああ、山さんは探偵小説、読まん、とゆうか、嫌いでしたね?」

「当たり前や、探偵小説なんて、絵空事や。実際の事件はあんなもんやない。地道な聞き込み、現場の確認、後は、刑事の長年の勘や。最後にもの言うんは、長年の勘、これが一番大事ながよ」

「まあ、山さんのご高説は、耳にタコができてます。それより、千代さん、『八つ墓村』がどうしたがです?今度の事件と関係あるがですか?」

「いえ、関係があるかは、全くわかりません。ただ、『八つ墓村』の冒頭に、これに良く似た事件が起きるのです。住職のうち、どちらかを毒殺すればいい、とゆう動機で、殺人が発生するのです」

「そうでした、宴席の酢物に毒が入っていて、坊さんが殺されるんですワ。事件の発端になる事件でしたよね」

「ほいたら、ここは『八つ墓村』か?この家は、田治見家か?」

「えっ?山さん、『八つ墓村』読んでるんですか……?」

       *

「へえ、杉下さん、室戸署へ異動になったがですか?」

「えっ?小政さんそこ?」

 警察の事情聴取は続けられている。千代に続いて、小政が聴取を終えて、離れの千代の部屋に帰って来た。そこで、事件についての検討が始まったのである。

「この事件、おかしいと思わんの?」

「何処がおかしいがです?単純な毒殺事件ですよ。ただ、犯人の動機がはっきりせん。神主さんか?住職さんか?あるいはどちらでも、誰でも良かったのか?そこは疑問が残りますが、食事に出される、お吸い物に青酸カリを入れた。それによって、一人の人間が亡くなった。そうゆう事件ですよ」

「そうかなぁ?誰でもよかったんかなぁ?それやったら、ひとつやのうて、二つ、三つ毒入れとくんやないかな?」

「ひとりしか殺しとうなかったがですよ。まずはひとり、ってところかな?」

「えっ?じゃあ、これで終わりじゃないってこと?」

「千代さん、まさか、安興寺家と、ほとんど関係のない、お寺の坊さんが殺される。これが、今までの、首のない犬猫の死骸と、あの血の文字の予告の結末とは思ってないですよね?それと、千代さん、横溝正史を気にしていませんか?」

「横溝正史?」

「そう、謎の人物が、道を尋ねる、『本陣殺人事件』の前触れ。そして、今回の『八つ墓村』を思わせる毒殺事件。どちらも、千代さんから出た言葉ですよ」

「うん、ちょっと考え過ぎかとは思うよ」

「いえいえ、実は、警察の事情聴取を待つ間に、行方不明になっているという、次男の部屋に入ったんです。そこくらいしか空いてる部屋がなくてですけど。その部屋の本棚に、横溝正史の本が並んでいるんですよ。戦前の『鬼火』や『蔵の中』に混じって、『本陣殺人事件』『蝶々殺人事件』『獄門島』そして『八つ墓村』です」

「そしたら……」

「ええ、安興寺の誰かが、それを模倣している可能性はありますね。誰かはわかりません。今の処、容疑者は絞り切れていませんから」

「毒の青酸カリの入手先は?」

「ええ、戦争末期に、自害用に配られていたものが、残っていたようです。蔵の中の引き出しの中、今調べたら無くなっていたそうです。十人は楽に殺せる量らしいですけどね。多分、犬猫にも使われたみたいですよ。首切る前に、毒殺していたようですから」

「じゃあ、それも、安興寺のひとやったら、誰でも手に入れれるってことね?」

「そうゆうことです。今後は食事にも注意せんと行きませんよ」

「いやや、怖いワ」

「ただ、犯人の目的がまだ見えてきません。唯の愉快犯なのか、次の殺人への伏線なのか?」

「次がある、って思うのね?」

「ええ、今回の殺人は、予告殺人、血文字で警告がなされてましたよね?『八つ墓村』を模倣している処から考えて、これは撹乱のための犯罪、そう考えた方がよいでしょうね。警察はどう見ているかはわかりませんが、住職への恨みの線、或いは、人違いで、神主さんへの恨みの線を考えるかもしれません。そこは、警察に任しましょう。我々は、安興寺家に害をなすもの、或いは、安興寺家そのものの犯罪……」

「えっ?犯人は安興寺家のもの?」

「毒の入手先から考えると、捨てきれませんね、安興寺家の誰かが犯罪者である可能性は充分あります。ただ、絹婆さん、主人の芳次郎、長男の芳和、何れも、身体的な欠陥があって、犯罪実行者には不向きな人ばかりですけど……」

「他に、使用人もいるし、近郊の人間、出入り自由よ、この家。それと、道を尋ねた二人の男、どちらも正体不明、今どこにいるのかも不明。これも怪しいわよ」

「そうですねェ。そのふたりが居りましたね。警察には言ってないですよね、そのふたりのこと……」

「事件に関係あるかわからないし、余計、謎を深めそうやから……」

「そうや、佐代子さんから刑事さんの耳に入れてもらいましょう。あそこに寄ったふたりやから……」

「わたし、怖いから、今夜は佐代子さんちへ泊るわ。毒入りのお吸い物、飲まされとうないしね。小政さん、充分、気をつけてね」

「ええ、銀のスプーンでも用意しときますワ」


        6

 明見寺の住職の死体は、検死の結果、青酸カリ――シアン化合物――による、服毒死と断定され、翌日には、お寺へと運ばれた。その晩がお通夜である。

 それまで降りそうで降らなかった空から雨粒が落ちてきて、夜は本降りとなった。

 参列者は、絹の米寿の祝いに出ていた全員。それに、この寺の檀家の代表が数人である。住職が亡くなったため、同じ宗派の僧侶が法要を行った。寺には小僧さんと、近所に住む、手伝いの婆さんがいるだけであったのだ。

 僧侶の法要が終わり、別室での会席となった。檀家の何人かが帰って行ったきりで、事件の関係者は、ほぼ、残っている。そして、若い刑事―――友村刑事――もその席に座った。時刻は夜九時を過ぎようとしている。雨がひどくなって、遠くで雷の煌く光も見え始めた。

「だ、誰だ?あっ、何をする……」

 と、雨の音に混じって、男の声がした。誰かと誰かが、争そっているような、草木の揺れる音がする。

 何事かと、小政と友村刑事が立ちあがり、表との境の障子を明け放つ。

 丁度、雷の稲光が庭を照らした。その一瞬の光の中に、復員服と兵隊帽姿の男が映し出されたのである。

「誰だ?」

 と、友村刑事が叫んだ。

 男は、闇の中に消えて行く。

「不審な人物です。追いかけます」

 と、友村刑事が、警察官の着るレインコートを羽おり、懐中電灯を片手に表に飛び出した。

「わたしも行ってきます」

 と、小政が、雨合羽を借りて、大きな懐中電灯を手に飛び出していった。小政の眼に、その復員服の男の左手が、肘から先がなかったように見えたのである。

 懐中電灯の光が、裏の共同墓地にちらついている。友村刑事のようだ。そっちへ向かうと、墓が立ち並ぶ一角の手前のイチョウの木の元から、うめき声が聞こえた。注意深く、懐中電灯を照らして近づくと、首筋に手を当てながら、頭を振っている、作業服姿の男がいた。

「あれ、安興寺の……、確か友造さんでしたね?」

 小政の懐中電灯に照らし出された男は、安興寺家の使用人の友造である。

「ああ、離れのお客さん、こ、小政さんでしたか?」

「どうしたがです?こんな処で?」

「今日は、お通夜の手伝いに駆り出されていまして、そろそろお開きかと、ご主人を迎えに来ましたら、そこに、怪しい、復員服の男が……。声を掛けたら、急に襲いかかってきて、棒きれのようなもん、首筋を殴られて、気を失ってたみたいですなぁ」

「復員服の男?どんな男です?顔は見ましたか?」

「それが、兵隊帽を目深に被っていまして、顔はどうも……。ただ、左腕が、肘から先がなかったようで、はっきりしたことは言えませんが……」

「そうですか、さっき、稲光の中に浮かんだ男が居りまして、刑事さんが追わえて行ったのですが……」

 小政が、視線を墓地の方に向けると、懐中電灯の光が近付いてきて、

「あっ、小政さんでしたか」

 と、友村刑事が、合羽のフードから雨水を垂らしながら帰って来たのである。

「友村さん、どうでした?」

「駄目です。どこにも居りません。墓場の向こうは山になっていて、小道があるんで、どっちへ行ったかもわかりませんし……」

       *

「何者かね、その復員服の男」

 通夜を終えて、佐代子の家の居間に、小政を上げて、千代が話しかける。

「わかりませんが、まだ、この辺にいるってことは、事件に何らかの関係があるとしか思えませんね。偶然、お寺に現れたとは思えませんから。何か目的があって、様子を見に来た……」

「この雨の中?何があるってゆうの?」

「わかりません、本人に訊いてみるしかないでしょうね」


        7

 雨は夜の間、勢いを増したように、強く降り続き、翌日も日中は雨模様であった。

 千代は、佐代子の家にいて、家事を手伝っていた。小政は安興寺家にいる。

 その日の午後、雨が小降りになった頃、小政が、番傘をさして、小松家を訪ねてきた。

「千代さん、ちょっと付きおうてくれますか?」

 と、傘を畳みながら、小政が言った。

「どうしたの?何かあった?することも無いき、付き合うよ」

「雨も小止みになりましたき、探偵の仕事しようと思いましてね」

「探偵の仕事?」

「ええ、昨日も、通夜の席で、変な騒ぎになって、訊きたいこと、訊けてないんです。安興寺の家のもんには、今日、いくつか訊き取りをしましたけど、殆ど収穫なし。どうも、隠し事があるみたいな気もするんですが、強くは言えませんから、依頼主ですからね。

 そこで、もうひとり、証言を取りたい人物が居るんです」

「誰、もう一人って?」

「神主さんですよ。近所の『星神社』って、処の。実は、この『星神社』、岩崎弥太郎と深い関係があるそうです」

「三菱の創業者とゆう、弥太郎さんね?それが……?」

「そう、その弥太郎が邦(くに)を出るときに、星神社に祈願して、『我、志を得ずんば、ふたたび此の山を登らず』と、山門に墨書きして、出立したとか……。その祈願が成就して、三菱財閥ができたわけですから、三菱にとっては、守り神みたいなもんですワ」

「顔役さんが言ってた『事件が起きたら、三菱、岩崎が係わってるかもしれん』って、その事ながやろうかね?」

「流石、顔回の……。おっと、禁句でした。そのとおり。で、星神社へ行って、神主に問い質してみようかと……。千代さんも興味あるでしょう?」

「もちろんよ。それに、例の住職か神主か、どちらが死んでもエイ、ゆう犯罪に心当たりがないか、お椀を運んだ、わたしが、直に訊いてみたかったのよ」

「やっぱり、どちらでもよかった、そんな犯罪と思うんですね?」

「そうよ、『八つ墓村』を模倣している、いや、横溝正史を模倣しているならね……」

       *

「ダットサン、泥だらけになったね」

 星神社の、鳥居の前に車を停め、雨上がりの参道を歩きながら、千代が言った。小政の運転する、ダットサンは雨でぬかるんだ土道を、タイヤが泥にまみれながら、山手に上って来たのである。

 神社の社務所で、案内を乞うと、神主の暮らす、別宅へ案内された。

 通された座敷で待っていると、普段着の着物に着替えた神主が、渋い顔をして現れた。酒でも飲んでいたのか、顔が赤い。前に座ると、酒の匂いがした。まだ、晩酌には早い時間帯である。

「お寛ぎの処を、どうも、申し訳ありません」

 と、小政が頭を下げる。

「絹婆さんから、あんたらぁは、安興寺が雇うた、探偵やき、尋ねられたら、何でも正直に話すように言われちゅうけんど、話すことなどないでェ。警察にも訊かれたけんど、住職を殺して、得するもんなど、思いもつかん。まして、わしが狙われたがやないか?間違うて、住職が殺されたがやないか?なんぞと、いう輩も居るそうな。まさか、あんたらぁやないろうね、その噂の元は……?」

 不機嫌そうな顔を改めようともせず、酔いが回った口調で、神主は一気にしゃべった。

「それは、警察の一部の意見でしょうね。警察としては、あらゆる方面から捜査する必要がありますから」

 千代の考えが、元になっているのだが、小政はきっぱりと、神主の想像を否定した。

「つまり、神主さんは、自分が狙われる心当たりもない、と仰るわけですね?」

「当たり前や。誰かに恨まれるやなんてことは、断じてない。住職は知らんでェ。あいつは表の顔と裏の顔があったかもしれんから……」

(狙われたのは、住職の方、と、強引に話を結論づけているな)と、千代は思った。

「いやいや、恨みやないと思いますよ。恨みやのうて……、そう、金かな?いや、バラされては困る、秘密、誰かの弱みを握っていたんと違いますか?例えば、岩崎、とか……」

「な、な、何やと?い、岩崎が、ど、ど、どう、か、係わるんや……」

(あれれ?明らかに動揺しているワ。小政さんのデマカセ、ひょっとしたら、的に命中したのかも……?)

「ここは、岩崎弥太郎とは縁が深いそうですね?山門に弥太郎の墨字があるそうで。亡くなった住職の寺も岩崎の祖先が眠っているとか。そこら辺も、警察は考えているらしいですよ」

(いやいや、そこまでは、考えていないやろう……)

「た、確かに岩崎とは、どちらも係わりがある。し、しかし、今度の事件と係わりがある訳がない。岩崎は、まるで、故郷の発展など見向きもせん。あれだけの財をなしておりながら、地元への還元は『ゼロ』じゃ」

「確かに、この地が、あの三菱の発祥の地とは、ほとんど知られておりませんからねェ。却って、不自然な気がしますね。隠しておきたかった、みたいな……」

「そ、それは、岩崎が、下級武士、いや、武士とは名ばかりの身分やったから、出生を知られとうなかったがやろう」

「まあ、そうとも、言えますが、明治維新の志士は下級武士がほとんどですよ。龍馬然り、慎太郎然り、首相になった、長州の伊藤博文なども、下級武士でしょう?政治家でなく、商売人の岩崎が、出生に頑なになるとは思えませんね。後世の伝記にも、ちゃんと、井ノ口村出身と出ていますものね」

「あ、あんた、何が言いたいんや?今度の事件と岩崎がどう繋がるとゆうんや?」

「それをお尋ねしたいのですよ。岩崎家と、安興寺家の係わり、秘密めいたことがある、いや、あったのではないですか?それを、ご住職が知ってしまった。いやいや、神主さん、あなたも知ってしまったのではないのですか?もしそうなら、次に狙われるのは、あなたかもしれませんよ?犯人が捕まらない限りは、身の安全は保障されませんよ。今回は、運が良かった、二分の一の確率を免れた訳ですからね……」

 ゆっくりとした口調で、神主の顔を覗き込むように小政が言う。

(小政さん、何か掴んじゅうがやろうか?ひょっとして、顔役さんに事件が起きたこと知らせて、顔役さんから何か情報、貰うたがやないかな?)

 この千代の想像こそ、的を射ていたのである。

「し、知らん。わしは何も知らん。もう、帰ってくれ、気分が悪うなった」

 神主は苛立ちを隠そうともせず、立ち上がった。

「あっ、最後にひとつだけ、わたしが、お椀を間違えて、毒の入った方を、神主さんの前へ置いてたら、どうなってました?神主さん、何も知らんと、お吸い物飲んで、死んでいたやろうか?そしたら、住職さん、今の神主さん同様、お酒を飲んで、『知らん、知らん』ゆうてましたでしょうか?」

 立ち上がった、神主の背中に、千代が声を掛けた。

「知らん、わからん。けど、ひとつゆうとく。この事件から、手を引くこっちゃ。素人が手ェ出して、碌なこと無い。あんたらぁも命は惜しいやろう?」

 そう言って、神主は、よろけそうな足取りで、部屋を後にした。

「何か、隠し事がありますね」

「小政さん、今のネタ、顔役さんから、仕入れたがやろう?」

「あっ、流石、顔回の……」

       *

「社長から訊かされたんは、岩崎と安興寺との間に、何か秘密の約束があるらしい、ってことだけです。曲がりなりにも、安興寺家と社長は縁戚関係ですから、そんな噂の類も、訊いちゅうらしい。けど、それ以上はわからんそうです」

「顔役さんがわからん、つまり、親戚にも話せん、そんな秘密ながやね?」

 神主の家を後にして、元の社務所に向かう道すがらの千代と小政の会話である。

「そうですよ。そこで、わたし、今朝のうちに、絹さんと芳和さんにそれとのう、訊いたがです。岩崎家とはどんな関係で、何か頼まれごとをされていないか?ってね。けど、上手く、はぐらかされました。『幕末に、弥太郎の母の美和さんに援助したことはある、それくらいかな?ご先祖さまのしたことやき、詳しゅうは知らんけど…』と、こうですワ」

「それは、秘密やないね、佐代子さんでも知ってたもん」

「あと、使用人にも、カマ掛けて、『岩崎とは深い関係があるんやとねェ』などと、こっちも知っている、振りして訊いたんですけど、全く反応ありません。

 そうそう、孫娘の尚子、って娘にも訊きたかったがですが、『知恵遅れ』って、本当のようで、わたしの姿見て、走って逃げだしましたよ」

「へえ、女にモテる小政の兄ィさんも、幼い娘はアカンのか?」

 ふたりは、話しながら、社務所を過ぎ、参道に差し掛かっていた。辺りは夕暮れが近付いている。

「あっ、あそこに誰かいる。き、金田一耕助?」

 突然、千代が参道の脇の山陰の方を指さして、声を上げた。

 その声に驚いて、小政が千代の指さす方に視線をやった。そこには、オカマ帽を被って、木綿の夏用の着物、ヨレヨレの袴姿の、長髪の男が下を向いて立っていた。

「た、確かに、小説に描かれた、金田一耕助の容貌に似ていますね。けど、まさか、本人な訳ありませんよね……」

 と、気味悪そうに、小政が言う。

「わたしが知ってる、金田一より、背が高そうや」

「えっ?千代さんが知ってる?それ、どうゆうことです?」

「あっ、なんちゃあやない。わたしが、本読んで、想像していた、金田一耕助より、ってことよ」

 千代は、戦後まもなくの頃、ある事件で、金田一と名乗る探偵さんに出会っているのである。が、それも、本人とは思えない。だから、ここでは、とっさに嘘をついた。

 ふたりの声が聞こえたのか、それとも偶然か、金田一耕助――によく似た男――はこちらに顔を向け、手を振ったのである。

「小政さん、知り合い?」

「いえ、あんな風体の知人は居りませんよ。千代さんじゃないがですか?」

「でも、向こうはこっちを知ってるみたい、呼んでるみたいよ、行ってみる?」

「まあ、行ってみるしかないですね。結果はどうなるか、わからんけど……」

 ふたりは参道から離れ、雑草の生い茂った小道を、雨の雫に足元を濡らしながら、男の元へ歩み寄った。

「千代さん、小政さん、しばらくです。いや、挨拶より、これを見てください」

 金田一耕助は、千代も小政も知っているらしい。近くに寄って、顔を覗き込んでも、まるで思い出せない。端正な顔立ちで、美男子である。年は、小政より若い。

 隣の小政に、目配せするが、小政も「知らない」と、アイコンタクトで答えた。

 取り敢えず、黙って、男の指さす方に視線を向けた。

「えっ、これって、人の手?死体が埋まってるの?」

 そこは、赤土の土壌で、草が生えていない。いや、誰かが掘り返したため、草が無くなっているのだ。その赤土の地面から、人間の手、右手が、まるで、タケノコのように、ニョッキリと突き出ているのである。土の盛りから見て、赤土の下には、その手の先、いや、元である、身体が、埋まっているようだ。どう見ても、生命反応はない。死体である。

「け、警察へ連絡します。そこの社務所に電話があるはずです。現場を荒らさんように、ここで待っててください」

「い、イヤや、死体の傍なんて、わたしも行く……」


       8

「で、結局、あの金田一さん誰やったがやろう?」

 警察に通報し、山さんこと、山尾警部補と友村刑事を先頭に、警察官が星神社に駆け付けた。神主は、酒に酔っ払って、熟睡しているとのことで、社務所の禰宜さんが現場に立ち合うこととなった。気分が悪くなった千代は、警察官と入れ替わるように、小政と共に、小松家に帰って来たのである。

 遅い、夕食を食べながら、小政に尋ねた千代であった。

「死体の発見者として、警察の事情聴取、受けてましたき、誰なのか確認できませんでしたね。それと死体の方も、男の手、ゆうのはわかりましたけど、誰なのか?今度の事件と関係あるのか、さっぱりですね」

 小政は、食事を終え、熱い番茶を飲んでいる。

「でも、あの金田一さん、わたしの名前も、小政さんの通称も知っていたのよ。ということは、事件の関係者か……」

「井口の関係者ですね、高知の方の」

「でも、高知の方の井口にあんな人居る?あんなハンサムやったら、一回逢ってたら、忘れんよ。亀ちゃんと同じか、上かもしれん。市川雷蔵かと思うたもん」

「そうですよね。でも、事件の関係者にも、あんなハンサム居りませんよ。行方知れずの、片腕の復員者か、商売人風の男、あっ、ひとり、大道芸のピエロの男、あいつの素顔、見てないから、ひょっとしたら……」

「うん、でも、体型が、金田一さん背が高くて、痩せぎすだったでしょう?ピエロのひと、小柄で、筋肉質だったよね?」

「そうか、違いますね。後の二人も、体型とか、まるで違いますよね?ひとりは片腕、ひとりは足に欠陥、あいつは、五体満足でしたし……」

「それに、その三人、いえ、今回の事件関係者が、あんなに親しげに声を掛ける?」

「掛けませんね。ここの佐代子さんでも、あんな風には……」

「でしょう?そしたら、高知の方よね。でも、高知関係で、わたしも小政さんも心当たりがない、ハンサム……、居らんよねェ、ほんま、何もんやろう?謎の人物登場よ」

「まあ、明日になれば、また状況がわかるでしょう」

「そうね、死体の身元もわかっているかもしれんしね」

       *

 翌日の午前の時間、小政が小松家を訪れた。

「あら、小政さん、早いね。警察から何か連絡あった?」

「いえ、まだ、死体の死亡解剖の結果が出ていないみたいです。それに身元も……」

「身元もわからんが?地元の人やないが?」

「それが、まだ、噂の域ですけど、死体には、首の部分が無かったそうです」

「く、首が無かった?」

「そう、首なし死体。例の犬猫の死骸と同じです。ただ、首と共に、左腕も無かったそうです。これは、元々なかった、つまり、死体は、例の、復員服の男と思われます。着ていた服も、復員服だったそうですから」

「そいたら、身元わかっているやない、復員服の男、安興寺を訪ねて行ったはずよ」

「ところが、あの日、わたしらぁが到着した日ですけど、わたしらぁ以外に、安興寺家を訪問した人間は居らんそうです。友造さんにも和江さんにも、芳和さんにも訊いたんですが……」

「じゃあ、復員者の身元はわからん、ってこと?」

「ええ、首がないんで、顔からは判断できない。あと指紋ですが、右手だけ、それも、大分傷ついてるみたいで、照合できるかどうかってらしいですよ。友村刑事が、途中経過です、って、電話くれたんですが、はっきりしたことは教えてくれなくて。ただ、殺人事件の可能性が高いから、県警から、応援が来るみたいです」

「そしたら、これって、連続殺人事件なが?」

「その可能性があるってことですね」

「小政さんは、どう思っているの?」

「通夜の晩、わたしと友村刑事が、稲光の中で見た男、確かに復員服を着ていて、左手が無いように見えたんです。ただ、一瞬なんで、絶対とは言い切れないんですが……。友村刑事も、それが気になって、今朝、電話くれたがです。つまり、復員者の生きてる姿を見たのは、その時が最後。その後で殺されたと思われます。通夜の場所に現れて、その後、殺される。これは、どう考えても、通夜と関連している。つまり、今度の事件の、住職さん殺人の続きである、そう考えるしかありませんね」

「けど、見立て殺人やないよ。本陣殺人事件でも、獄門島でも、八つ墓村でも、土に埋められる死体なんてないもん。それ以外の作品は知らんけど……」

「そうですね、首のない死体は『夜歩く』って、話があります。それなのかもしれませんね。それか、本陣殺人事件の例の三本指の男。あれも殺された、いや、心臓発作か何かで死んだ後、何処か、炭焼きの窯の中かに埋められていたのが、発見された、と、記憶しているんですが」

「へえ、あるんや。やっぱり、横溝正史の模倣殺人か。ほいたら、あの男も、金田一耕助の模倣ながやろうか?あの、ハンサムなひと、どうなちゅうろう?」

「まだ、わかっていません。それより、ひとり、行方不明が出ています。まだ、確定的ではないんですが……」

「行方不明?誰が?」

「大道芸人のピエロです。今朝方、団長の男が探してました。通夜の日から姿が見えんらしくて、最初は、お祝儀をギョウサン貰ったから、お城下まで行って、女遊びしているんやろう、と思っていたそうです。けど、連絡もない。荷物はそのまま。おかしいってことになって、警察に捜索の依頼をしたそうです」

「じゃあ、復員服の男が、そのピエロ?な訳ないよね。左手あるし、背格好も違うし……」

「まあ、どっかで、遊び疲れてる、ってことも考えられます。安宿の女郎さんに惚れて、居続けているのかもしれんし、事件性は半々ですよ」

 ふたりが話している部屋に、佐代子が入って来た。

「千代さん、お客さんよ。県警の刑事さんらしい……」

「県警の刑事?何か、尋問されるがやろうか?住職さん殺しで、疑われてるのかな?」

「お通ししてエイ?」

「うん、ここでよかったら、通して」

 佐代子が部屋を離れ、少しして、足音を響かせて、誰かが部屋に近づく気配がした。

「やあ、やあ、千代さん、お久しぶり、小政さんも相変わらずで……」

 そう親しげに声を掛けて、部屋に入って来た男の顔を見上げて、

「ゆ、勇さん」

 と、千代と小政の声が、合唱した。

「あんた、大阪府警へ行ったんやないん?あっ、そうか、一年の予定やったもんね、帰って来たがや、いつ?いつ帰って来たが?手紙も電話もくれんと、心配してたで、ヤーさんとのドンパチで殺されてないかと……」

「そうなんですワ。ドンパチ騒ぎで、四月に帰る予定が、ずれ込んで、昨日、やっと帰ってきたがです。今朝、本部へ顔出したら、安芸で殺人事件や、丁度エイ、おまんの知り合いが行っちゅうき、協力してもらえ、ってなわけです。野上も来てますよ。小政さん、よろしゅう頼みますよ。名探偵ホームズさんやから、頼りにしてますよ」

「勇さん、エライ逞しゅうなったね。ひとまわり、身体がでこうなっちゅう気がする。それと、その頬の傷は?名誉の負傷?」

「ええ、なんせ、ヤーさん相手で、体力勝負。非番の日には、道場通いですワ。この傷は、逮捕の時に、ちょっとナイフの先が当たってしもうて、『天下御免の向こう傷』、歌右衛門さんにはなれませんけどね」

「まあ。無事でよかった。みっちゃんも、安心したろうね。逢って来た?」

「いえ、逢ってません。刻屋には顔出してないんです。あっ、けど、失恋の痛手はもう癒えてます。大阪で、彼女もできましたし、まだ、籍はよう入れんけど、まあ、そのうちにと思ってます」

「ええっ?彼女ができた?しかも、籍入れる?ゆ、勇さん、それひどい、裏切りや、同じ、彼女居らん仲で、もう何年も付きおうてきたやないか、許さん」

 と、小政が珍しく声を荒げる。

「小政さん、まだ、ひとりながですか?三十、越えたでしょう?エイ加減に、千代さん以上の理想のひとは諦めて、そこそこで、手ェ打たんと……」

「いや、諦めん、千代さん以上でなくても、そこそこ以上の女じゃないと、絶対、結婚はせん。勇さん、付き合うてよ、独身貴族……」

「嫌です。小政さんはモテるけど、僕はこれを逃したら、後がないですから」

「小政さん、諦め、勇さんの彼女誕生、祝ってあげなさい」

「ううん、悔しい。若にも負けるし、石にも負けるし、まさか、勇さんにも負けるとは……、あと、まさか、ボンには負けんやろうな?」

「あんた、十二歳の子がライバル?何考えてんの?」

「けど、ボン、石川姉妹が狙ってますよ。八郎君が、跡継ぎとうないって言いだしたらしくて、石川家では、誰か、養子をもらいたい、その第一候補が、ボンらしい。ムッちゃんが、電話してきましたよ」

「八郎君、何で跡継ぐの嫌になったがやろう?」

「京都の大学で、好きな子ができたみたいですよ。その子は一人っ子で、父親と二人暮らし、で、嫁には来れない。養子で無くても、『マスオさん』状態でしょうね、サザエさんの」

「へえ、父子ふたりか、ひかりちゃんとこと一緒やね、その娘」

「凄い、ズバリそれです。その相手、ひかりちゃんながですって、驚くでしょう?」

「ええっ?ええっ?ひかりちゃんと八郎君、それが京都で再会して、恋が芽生えたの?」

「同じ大学らしいですよ、学部は違うけど。八郎君去年の夏のあの事件で、ひかりちゃんに一目ぼれ、偶然、同じ大学。これは運命や、って、猛アタック、掛けたら、成功したみたいですよ。羨ましい……」

「ほいたら、小政さんが石川家に行ったらエイやんか。睦実さんその気あるがやろう?これで、独身貴族、全員卒業や」

「あのう、ひかりちゃんとか八郎君とか、全然わからんがですが……」

「ああ、勇さんにはわからん会話やったね。けど、長うなるき、いずれ、話すワ。今度の事件とは、まるで関係ないきね」

「あっ、そうや!」

「な、なに?小政さん、急に大きな声上げて、何があったの?」

「思い出しました、例の金田一耕助」

「キンダイチ?それ何もんです?」

「勇さん、しばらく黙っとき、あんたには、まだわからんことが多いと思うき。会話に参加できるようになったら、ゆうきね。

 それより、小政さん、何を思い出したが?」

「あの男、多分、才蔵ですよ。ムッちゃんや菜々子ちゃんを陰から護衛をしていた。千代さんは逢ったことがないでしょうけど、わたしは、花火大会の日に、ほんのちらっと、姿を見ているんです。あの時は、黒いシャツでしたけど、すらっとした、髪の長い、エイ男でした。才蔵さんなら、わたしの顔も、千代さんの顔も知っていますよ。ただ、あの、金田一の格好は、よう、わかりませんけど……」

「そうか、石川の才蔵さんか。確かに、それならわかるワ。ははん、わかった、あの格好、多分、菜々子ちゃんよ。菜々子ちゃんが、あの格好で、安芸へ行け、ってゆうたがよ。わたしらぁが安芸に居るの知ってる石川家の関係者は……」

「そうか、菜々子さんだけですよね、ムッちゃんは知らんし……」

「全然わからん。まだ、喋ったらいきませんか?」

「あっ、もうエイよ。こっちの話は、これくらいで、ね、小政さん」

「なんか、僕が居らん、一年の間に、おふたりさん、えろう、仲ようなってますね?それとも、井口を離れて、人目が無くなったから、本気になったがやないですよね?姉弟愛から、男女の不倫へ……」

「な、何言いゆう!」

「そ、そうよ、不倫だなんて、小政さんが、そんなこと、するわけないろう。紳士よ、小政さんは……。わたしらぁは今、探偵団のメンバーなが。そうよ、探偵団の元を作ったんは、勇さん、あんたやないの。わたしが、探偵ごっこは辞めた、ゆうのに、浜さんのためや、ゆうて、探偵団作ったの、あんたやないの。あれから、野上さんや、杉下さんまで巻き込んで、大変、でもないか、そうよ、責任の一端は、あんたにあるのよ」

「探偵団、まだ続いてたんですね。そこは、野上から訊きました。杉さん、室戸署へ異動になったけど、その前に、○○組、ほぼ壊滅に追い込んだって言ってましたよ。資金源ことごとく潰してやったって。それで、県東部に、新しい組織ができそうなんで、杉さんが抜擢されて、室戸署の刑事課課長になったそうです。浜さんと同じで、井口探偵団のおかげや、って、杉さんゆうてたそうです。何があったがです?僕の居らん間に……」

「そこも、後ほどね。話を変えよう。今度の事件で来たがでしょう?どうなっちゅうが?土に埋もれていた死体、身元は?死因は?死亡推定時間、わかったこと、洗いざらい、白状しいや!」

「は、白状って、僕、犯人やないですき。千代さん、性格、変わってません?怖いですよ」

「探偵になると、これくらい、強面がエイのよ。杉下さんのバーバリーとレイヴァンのサングラス、あれよかったワ」

「はいはい、杉さんに言っときます。喜びますよ。杉さん、千代さんのファンらしいから……。それより、事件のこと、白状やない、お知らせします。

 昨日、発見された死体ですが、首から上、つまり、頭部がなく、未だ見つかっておりません。死因は窒息死、紐のようなもので、首を絞められ、死亡後、首を切断したものと思われます。身元は不明ですが、身体の特徴として、左腕が、肘の関節部から、切断された、外科手術の跡があり、着衣が、軍服を仕立て直した、背広であることから、先日、この小松家に寄って、安興寺家への道を訪ねた男と同一人物と推定されます。ただ、当日、そのような人物が、安興寺家を訪問した事実は確認できていません。この人物が、最後に姿を現したのは、明見寺での通夜の晩、午後九時前後、庭先にいた人物が、同人だと思われます。したがって、死亡推定時刻は、解剖の結果では通夜の日の午後五時から、翌朝と広範囲ですが、午後九時から翌日夜明け前、と推測できます。

 殺人の現場は、今のところ不明であります。いずれかで絞殺され、首を落とされた死体を、星神社参道横の斜面に埋めたものと思われます。

 手掛かりとなりそうな遺留品はほとんどありませんが、首筋に細い糸、おそらく、琴の糸、弦と言った方がいいのでしょうか、が付着しており、絞殺は、その糸によるものと思われます」

 そこまで、手帳を見ながら説明したところへ、佐代子が、

「また、お客さんよ、千代ちゃんに……」

 と、声を掛けに来た。

「どなた?」

「それが、『名前を言ってもわからんかもしれませんから、この風体をお伝えください』ってゆうんよ」

「風体?あっ、わかった、オカマ帽被って、ヨレヨレの袴、単衣の縞の着物着た、長髪の男ね?まさか、金田一とは名乗らんかったやろうね?」

「ええっ?どういて、わかるが?千代ちゃんあんな知り合い居ったが?一を訊いて十を知る、って、本当やったがや」

「ははは、そうですよ、千代さんは『顔回の生まれ変わり』ですき、おかしな風体、って訊いて、ピンと来たがです。才蔵さんと仰ると思いますよ、ここへ通してください」

 小政が笑いながら言う。それを、千代が、怖い眼で睨んでいる。

 佐代子が、怪訝そうな顔で、立ち去り、少しして、廊下の板の間を音もなく、一人の背の高い男が歩いてきた。帽子は手に持っており、陽に焼けてはいるが、何処か、お公家様を思わせる、品の良い笑顔の和服姿の男性が、開け放された、障子の陰から現れた。

「昨日はどうも……」

 と、ペコリと頭を下げ、敷居を跨いで、部屋に入ってくる。

「才蔵さんですね?」

 と、千代が尋ねる。

「はい、石川才蔵です。悟郎の従弟になります。あちらが本家、家は分家筋です」

「ああ、石川兄弟の従弟さんになるんや。今いくつ?睦実ちゃんより、若いってこと?」

 予備の座布団を差し出しながら、千代がそう尋ねた。

「去年、成人になりました。秋で、二十一です」

「ワカァ……」

 と、三十路を越えた三人が同時に声を上げる。見た目は二十代半ばに見える。落ち着きがあり、気品があるせいだろう。そして、佇まいにも、『隙』がないのである。

「ところで、その形はどうしたの?菜々子さんの命令かな?」

 才蔵が、勇次の横に座ると、まず、千代が服装について尋ねた。

「流石は『顔回』の生まれ変わりですね、そのとおり。刻屋に挨拶に寄ったら、『安芸へ行くなら、普段の黒ずくめじゃ駄目、怪しい男と誤解される。こうゆう形で行け』って、菜々子お嬢さんに言われまして、女将さん、お寅さんが、『亭主の着たことない着物があるき、着替えて行き』って出してくれたのがこれです。これ、何か意味あるんですか?顔役さんゆう男性からも、『よう、似合う、千代さんが大喜びするろう』って言われましたよ」

 才蔵は、金田一耕助を知らないらしい。それと、黒ずくめが怪しまれる格好である。ここまではわかる。何で、顔役さんがその場にいたのか?いや、それ以上に、『安芸へ行くなら』とは、どうゆうこと?菜々子ちゃんが行きたいけど、行けん。そこで、護衛のような役目をしている、才蔵さんを替わりに、寄こしたのではないのか?それなら、『行くなら』ではなく、『行ってくれるなら』と、なりそうなのだが……。と千代は思った。

「千代さん、どうしたがです?浮かぬ顔して」

 と、小政がすぐ、千代の顔色を察してくれる。

「わたしが、こんな形してまで、安芸に来る、その理由がわからないのですね?」

 才蔵は千代の心の中を読んだように、笑顔で言った。

「そのことは、また後で……」

 と、言いながら、着物の懐から、何かを取りだした。

「な、何それ?」

 と、声を出したのは、千代であるが、小政も、勇次もおなじ気持であった。

 才蔵が取りだしたのは、真っ黒な塊、いや、動いていて、ふんわりしたものである。羽毛のようなもので覆われている、と思った。

 才蔵が、それを両掌の上に広げて見せる。

「か、カラス?それも子供?」

「嘴が黄色いから、九官鳥ではないですか?」

 と、小政が、言った。

「ええ、おそらく、九官鳥でしょう。『小六』と言います。十兵衛さんが飼っていた、『九ベエ』の子供です。九ベエは喋らなかったけど、こいつは喋ります。

 おい、小六、何かゆうてみい」

 才蔵が、九官鳥の頭を叩くように、指を乗せると、

「サイゾー、サイゾー、エエオトコ」

 と、機械音のような声を上げた。

「しゃ、喋った?今の、ゼンマイ仕掛けの、喋るおもちゃやないですよね?」

 と、勇次が驚く。

 才蔵が両手を高く上げると、九官鳥は、その掌を離れ、庭の柿の木に飛んで行って、停まった。

「身体は小さいですが、賢い鳥で、伝書鳩、ならぬ、伝書ガラスとして、使っています。それで、昨日、刻屋に伝書を送ったら、さっそく返信がきました。菜々子お嬢さんからの指令です。千代さんに渡すようにと……」

 そう言って、懐から、小さく丸めた半紙の切れ端を取り出し、座卓の上に広げた。

 そこには、次の文章が書かれてあった。

『探偵団本部からの指令、

・昨年、台風時に首なし死体となった人物の、死因、身元、事件性の有無を再調査せよ。

・身元の確認に落ち度がないか、事故(災害)と見せかけた、殺人ではないか、との疑いあり。

・安興寺家の、次男、三男の行方を調査せよ。県警を通じ、依頼すること。

・三菱と安興寺家の秘密については、顔役さんが調査中。そちらでも、訊き取り等の調査せよ。

 以上、探偵団本部、団員一同からの指令である

追記、才蔵は、別件の(関西の大物からの依頼によるもの)捜査で、安興寺家を調査している。今回の殺人事件と関係性は大である。よって、金田一耕助スタイルで、事件の調査に当たるものである』

「これ、菜々子ちゃんの字ね?菜々子ちゃん、自分が来れないから、高知から指令出してきたんやね?」

「去年の台風での首なし死体?って何です?」

「勇さん、県警の刑事やろう?知っておかんと。今回も首のない死体、いや、その前に、犬猫の死体にも首が無かった。これは、去年の台風の土石流で亡くなった男の首なし死体が、今回の事件と何らかの係わりがある、ってことかもしれんよ。多分、ここは、ボンの推測やね」

「三菱との秘密ってゆうのは?」

「そこは、顔役さんからの情報ね。今回の事件の発端が、そこに係わってる可能性があるってことやからね」

「そうでしょうね。社長、岩崎に古くから雇われていた、老人に知り合いが居る、ゆうてましたから、そっちから、何か掴めそうながでしょう」

「で、追記の、才蔵さんの別件の捜査って?」

「勇さん、そこは、依頼人からの機密事項で、言えんがでしょう?ねっ、才蔵さん?」

「ええ、小政さんの仰るとおりです。秘密事項ですから、詳しくは話せませんが、ただ、三菱の秘密に関係している、ことは事実です。ですから、今回の事件が、それと関係しているか、いないか、いるなら、ご協力できると思います」

「いると思っているのよね、才蔵さんは……?」

「ははは、いやいや、まだ、そこまでは……」

 と、長い髪を掻きまわす。フケは飛んで来ない。それ以外は、金田一耕助なのである。

「では、さっそく、勇さんには、県警通じて、安興寺の次男、三男の現況を調べてもらう。それと、去年の首なし死体の検死の結果などの調書もね。わたしらぁは、三菱の秘密探しの手掛かりと、今度の殺人事件の容疑者のアリバイを検討しましょう」

 小政が、そう言った時、

「さ、坂本さん、坂本刑事、居られますか?た、大変です……」

 と、いう声と共に、白い半そでのカッターシャツ姿の男性が、廊下を盛大な音を立てて、走り込んで来た。

「何な、野上、でかい声出して……?」

 廊下に現れたのは、県警の刑事、野上である。おでこに汗をいっぱい浮かべながら、早口に言った。

「ま、また、首なし死体です……」

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