第35話 家族の絆
「身を守るための魔導具?」
今日は一家揃っての夕食の後で、作ってきた反射の指輪を手渡すと、母さんは首を傾げてみせた。
「うん、詳しいことは良く分からないけど、外からの魔法や武器などの攻撃を防いでくれる効果が付与されているらしいんだ」
「どうして私たちにまで支給されるの?」
「ほら、魔法を使える人って、まだそんなに多くないでしょ。今はまだ確認されていないみたいだけど、そうした人を確保しようとする良くない勢力が現れるかもしれないって危惧しているんだって。その対策として使えないか、試験運用だって言ってた」
黒帽子という魔族に襲われるかもしれないから……なんて言う訳にはいかないから、予め考えておいた理由を説明した。
「ふーん……お試しサンプルみたいなもの?」
「だと思う、支給されるものだから効果はあると思うけど、どこまでの攻撃を防いでくれるか分からないし、限界はあると思うから、例えば地震で物が落ちて来た時なんかは、これを当てにするんじゃなくて、ちゃんと避難してね」
父さん、母さん、勇には僕が作った指輪を渡し、僕の左手の薬指にはルカ師匠が作った指輪が嵌められている。
指輪を作っている最中に、うっかり結婚指輪の話をしてしまったら、左手の薬指にピッタリ嵌るサイズで作られて、ルカ師匠が自ら僕の指にはめた上に、何やら術式まで付与されてしまった。
一体、なんの術式を付与したのか聞いたけど、命に関わるものではないから大丈夫だと教えてくれなかった。
ていうか、こっちに帰ってきてから別の指に嵌め直そうとしたんだけど、全然取れないんだよね。
「サンプルなのか知らないけど……安っぽい指輪だよな。縁日で売ってるオモチャみたいじゃん」
勇が右手の中指に嵌めている指輪は、俺が最初に成功させた奴だからちょっと歪だし、軽い素材だから安っぽく見えるけど、異世界でも貴重な天竜の鱗なんだからな。
父さんの手は、僕が思っていたよりも大きくて、太めに作ったはずなのに左手の小指に嵌めるのがやっとだった。
母さんは右手の中指にしている……って、勇は母さんを真似てるのかな。
まぁ何にしても、みんな素直に指輪を嵌めてくれたので、ちょっとだけ不安が解消された。
夕食後、部屋に戻ってスマートフォンを起動すると、明日は午後からで良いと真行寺さんからメッセージが届いていた。
返信を終えてスマートフォンの画面を消すと、それを待っていたかのように部屋のドアがノックされた。
「兄さん、入っていいか?」
「あぁ、いいよ」
色々と文句をぶつけて来るクセに、僕の言ったことを守るところは可愛いって思っちゃうんだよね。
でも、部屋に入ってきた勇は、いつも通りの仏頂面だった。
「なぁ、これってホントは何なんだ?」
「さっき言った通り、身を守るための魔導具だよ」
「嘘つけ、全然守りになんかなってねぇじゃねぇか……」
そう言いながら、勇は自分の太腿を拳で叩いてみせた。
「そりゃそうだよ、これは相手の攻撃を跳ね返す魔道具だから、一定の強さを超えないと効果を発揮しないんだよ」
「それじゃ意味ねぇじゃん」
「意味あるよ、さっきの勇程度の攻撃じゃ発動しないだけで、バットで殴るような攻撃には反応するからね」
「そうなのか?」
「そうだよ。何でもかんでも反射してたら、ドアノブを握ることすら出来なくなるじゃん」
「あっ……そうか」
説明を聞いて、ようやく勇は納得したようだ。
「勇が僕にムカついてるのは知ってるけど、何でもかんでも頭ごなしに疑うのは止めてくれよな。それこそ父さんや母さんまで信用してくれなくなっちゃうよ」
「悪かったよ……」
「それと、その指輪はマジで肌身離さず持ち歩いてくれ。絶対に無くさないようにな」
「分かったよ、色々機密が詰まってんだろう? 見た目はクソダサいけどな」
「うっさいよ」
「なんで兄さんが怒るんだよ。これ支給品なんだよな?」
「そうだよ。ちょっと無理言って出してもらった物なんだから、マジで無くすなよ」
「分かった……ってか、それは父さんに念押ししといた方が良いんじじゃね?」
「あぁ、確かに……父さん、結構ずぼらだからなぁ……うん、ちょっと行ってくる」
うちの父さんは、しょっちゅう物を仕舞い無くすタイプで、あれ何処だっけ、これ何処いった……とか、探し回ることが多い。
父さんに指輪を無くさないように釘を刺しに行こうとしたら、勇に呼び止められた。
「兄さん……」
「ん? なに?」
「こ、これ……ありがとう」
勇は指輪をはめた右手を僕に見せながら、そっぽを向いてお礼を口にした。
「うん、無くさないように、でもいつも付けているようにしてくれ」
「分かった」
僕より図体が大きくて憎たらしいけど、こういうところが可愛いんだよね。
この後、父さんにもう一度釘を刺しておいたけど、何となく頼りなくて、予備の指輪を作っておいた方が良いように感じてしまった。
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