第59話

 小学校には、予定通りに着いた。


 ミチカの学校は、かつては私も通っていたので、勝手知ったるといったものだった。

 正門はセキュリティのため鍵がかかっているので、インターフォンで開けてもらわなくてはいけなかった。

 校舎に入ってすぐの来校者名簿に名前を書き、バッチをして職員室へと向かった。

 途中、子どもたちとすれ違う。

 くすくす笑いながら通りすぎる子たちを見ると、生命力の塊みたいだと思った。


「図書室で遊ぼう」の担当は、一年の学年主任の先生だと双葉から聞いていた。

 三人揃って挨拶をすると、先生はそのまま会場である図書室まで案内をしてくれた。

 女性の年配の先生だ。

 頼りになりそうな。

 ミチカの担任は、男の先生だという話だから、この先生ではないんだなぁと思った。


「そういえば、国府田君は?」

 先生に聞かれる。

「ちょっと都合がつなかくて」

 楽しみにしていたんですけれど、と四条君が言う。

 「あら、そう。残念ね」と先生は言うと、ふっと笑みを浮かべた。

「最初ね、いかにも今どきのカッコイイ子が来たから、びっくりしたわ」

 そんな子が紙芝居、なんてね。

「国府田君ね、私たちへの説明やそのあとの会場見学なんかも、熱心でね。この間も、ポスターができましたって、持ってきてくれて。彼、本当に一生懸命で」

 

 はっとした。

 あの時、うちの側の図書館にいたのも、ここの小学校絡みのことだったんだ。

 そういえば、ちょうどポスターがどうの言っていたのも、あの頃だ。

 やめるって言いながらも、やってくれていたんだ。


「あの子、真面目な子ね」

「はい、とても」

 四条君が答える。

 私も葛原さんも、何も言えなかった。


 会場である図書室は、校舎内にある本来の図書室が雨漏りをしてしまったため、急きょ校庭にたてたプレハブの仮図書室だ。

 先生曰く、本来の図書室よりも評判がいいらしい。


 子どもたちは、プレハブの前でうろうろしていて、私達が来るのを見つけると、きゃきゃきゃと言いながら入っていった。

 中に入ると違う先生もいて、案内してくれた先生からその先生へ役割はバトンタッチされた。



「そよちゃん」

 ミチカがにこにこしながら、立っている。

 側には友だちだろうか、二人の女の子が立っていた。

「こんにちは」と私が言うと、女の子たちが顔を見合わせた後、恥ずかしそうに「こんにちは」と挨拶してくれた。

 かわいいなぁ。

 「これから準備をするから、もう少し待っててね」と私が言うと、ミチカ達は大きく頷き、絵本のコーナーへと走ってた。


「知ってる子?」

 葛原さんに聞かれたので、「いとこだよ」と答えると、ふーんと返ってきた。

「双葉君、サークルにはもう来ないの?」

 部屋の隅にある机に荷物を置きながら、葛原さんが聞いて来た。

「どうなのかな」

 あまり、葛原さんと双葉の話はしないほうがいいように思えたので、そう答えた。

「さっき、先生が言ってたけど。ほんと双葉君って真面目よね」

「うーん。そうなの、かなぁ?」

 よくわからないから、四条君に聞く。

「真面目だよね、双葉。勉強ばっかりしているし」

「勉強ばっかり……」

 そういえば、国府田ママもそんなことを言っていたっけ。

「三矢さんって、双葉君のこと詳しくないの?」

「あぁ、うん。ほとんど知らないと思うよ」

 双葉が勉強ばかりしているとか、お兄さんもお義姉さんもいるとか。

「ふーん」

 不思議そうな顔をする葛原さんに、エプロンを渡した。

 これは、四条君お手製の紙芝居スタッフ用のものだ。

 試験勉強中の息抜きに、作ったらしい。

 生地は軽く防水加工されたもので、いろんな水分(子ども相手だと各種水分が多いので)に対応してだとのことだ。

 心憎い。

 葛原さんはエプロンをすると、長い髪を一つにまとめた。


「真面目すぎて、つまらない。話も合わないし、ノリも悪いし。思っていたような人じゃなかった」


 双葉の事かなと思いつつも、突っ込まなかった。

 正確にいえば、なんて言っていいのかわからなかったのだ。


 だって、そう言う葛原さんの顔は、ほんの少し悲しそうだったから。

 


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