第48話
伍代君と四条君の話が終わった頃、部活の休み時間になった岡村さんがやって来た。
岡村さんは、まだ何の色も塗られていない紙芝居と私達三人の顔を見るなり、「ほら、やるわよ!」と声をかけてきた。
伍代君が私に筆を渡してきた。
「三矢さんも塗って」
え、と戸惑う私に、「ぼくが、やり方を教えるからさ」と、四条君が言ってくれた。
「あっ。あー! 以知子、お、おまえ、なんていう色を塗ろうとしてんだ!」
誰に言われるでもなく、既に筆に絵の具をつけ塗ろうとしていた岡村さんの腕を、伍代君が、押さえている。
そんな様子に笑いながら、私も慎重に紙に色をつけた。
「双葉ってば、葛原さんと一緒に帰ったわよ」
岡村さんは色を塗りながら、ぶつぶつと話し出した。
「『二股双葉、アゲイン』とか、言われてる。双葉が、葛原さんと保品さんに気のある振りをした挙句、葛原さんと付き合い始めたとかなんとか。葛原さんって、紙芝居の彼女でしょ」
伍代君や双葉から聞いたのだろう、岡村さんも知っていた。
「でも、それって、そもそも私が、彼女たちに」
「ストップ。あのね、そんなのわかってる。双葉の側にいる女の子が、どんなめに合うか。私のほうが、双葉との歴史が長いんだから」
ふん、と岡村さんの鼻息が荒い。
「紹介しろだの、合コン企画してだの、チョコ渡してだの」、と岡村さんは言うと、「最悪なのは、私に向かい『ブス』って言ってくる子たち。おまえのほうが、ブスだって言い返すけどさ」
今度は岡村さんは、はぁとため息をついた。
そして伍代君に、「双葉に宣伝ポスターを渡しちゃったけど、回収すべき?」なんて聞いていた。
「顔がいいのも、善し悪しだね」
四条君が言う。
そうかもしれない。
「ともかく、双葉は、アホよ、アホ、アホ」
岡村さんの言葉は乱暴だったけど、それと裏腹に愛情を感じた。
岡村さんだけじゃない。
みなが双葉のことを、思っていた。
更に岡村さんは、「三矢さん。三矢さんまで責任云々言いだして、ここを抜けたら、怒るからね」と言った。
「え、なんだそれ。三矢さんは、そんなこと言ってないぞ」
おまえ、適当なこと言うな、と伍代君が岡村さんに文句を言う。
本当は、ほんの少し、そう考えていた私だったけど。
「うん」
やめない。
やめないよ。
作業が、二日、三日と続いても、やっぱり双葉は来なかった。
双葉とは、クラスも離れているので、こうなると顔さえ見なかった。
色塗りの作業も、慣れてきた。
前回と同じことをしているんだから、まぁ、そうだろう。
あの時の、はじめての時のようなこわごわさがなくなった分、作業は早く進んでいった。
結局その週には、絵は仕上がってしまった。
仕上がった絵に、色落ち防止のスプレーなるものをかけた。
これで、もちが良くなるとかなんとか。
そして、来週からはその完成した絵の裏に、手分けしながら台詞やトガキと描きこめば、完璧完成。
すごい。
なんだかんだありつつも、できそうだ。
帰宅途中に、「言い忘れた!」という件名で「上演会のプログラムを組まないと」と、岡村さんからメールが来た。
岡村さんも、クラブが終わったらしい。
そして、よければ明日の土曜にうちに来て、なんてことと住所と最寄駅が書いてあった。
私は、すぐにOkを返した。
岡村さんがあまり出席できないと聞いてから、当日のプログラムとか、そっち方面にあまり意識がいっていなかったのだけど(というよりも、物語を考えたり絵を描いたりで一杯一杯だった)、言われればそうだ。
私が公園で開くお話会だって、一応やることを決めて臨んでいる。
そういった取り決めがないってことは、考えたらあり得ないことだったのに。
私は自宅に連絡をして、図書館に寄るので少し遅くなることを、伝えた。
私が顔を出すと、司書さんがにこにことした。
あぁ、そういえば、一度遅い時間帯に来てみたらって、言われていたっけ。
フロアを見ると、小さな子は親子で来ている一組くらいで(その一組も帰り支度をしていた)、あとは、小学生や中学生そして私と同じくらいの子もいた。
ふーんと思いながら、絵本コーナーに向うと、明らかにその場所に不似合いな人物がいた。
双葉だった。
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