第6話
当然のような顔をしてついてくるこの男が気にならないといったら嘘になるけど、優先順位を考えるとそれは低い。
ラブな話で盛り上がっていた子どもたちも、公園に入ると頭の中がお話モードになったようで、ベンチのどこに座るかでもめ出した。
そんな命がけの顔をして席決めをしなくっても、席なんてどこに座っても同じなのにねぇと思ってしまうあたり、自分の老いを感じる。
老いと言ってしまうのはアレかな、乱暴かな。
つまりこんなところが、生島に「冷めている」と言われる所以なのだろうなぁ。
でもさ、好きな子の隣に座ったところで、その子が自分を好きになってくれるわけじゃないのにねぇとは思うよ。
「よぅ! 作家先生」
おはよう、朝から大変だねぇ、と労いの言葉をかけてくれるのは、側のベンチで将棋をさすおじいさんたちだ。
おじいさんたちは、将棋だけでなく、さりげなく子どもたちの様子も見てくれるので助かる。
おはようございますとぺこりと頭を下げると、おうと手を上げて応えてくれた。そういった関係って、心地いい。
子どもたちが揉めるままにしばらく待っていると、段々とその様子が変わってきた。
落ち着いてきたのだ。
どうやら今日の席は、決まったらしい。
お話会を始めた最初のころは、それこそベンチに座らせることからして一苦労だった。 誰の隣がいいとか、この場所がいいとかなんとか。
でも、何回か子どもたちと席の決め方の話しをするうちに、段々と自分たちで折り合いをつけていけるようになっていった……と思う。
こういったさばきかたも、いとこたちとの間で学んだことだ。
一人っ子の私が、なんだかんだと言いながらもこうして子どもたちと付き合えるのも、そういった経験の賜物なのだ。
落ち着いたところで、みなをぐるっと見回した。子どもたちの表情をチェックするためだ。
トイレに行きたそうな顔の子や、あまりにも変な表情をしている子がいない限り、私はいつもそのまま話を始めた。
たまに、私がこうして見回すだけで「やっぱ、席変わる」と、強引に決めちゃったと思われる子が他の子に席を譲る場面も見られた。
それはそれでいいのかなって思うし、そういったのも面白いなって思う。
今日の物語は「北風と太陽」のアレンジだ。
趣味で書くときは、結構マニアックな物語も題材にするけれど、子ども相手の時は有名なものを取り上げるようにしている。
そのほうが、もとの物語を知っている分、楽しいのかなぁと思う反面、あまりそこには拘らなくてもいいのかなぁと思う時もある。
そこらへんは、まだ今一つ掴めていないところだ。
そもそも私が取り上げる物語は、それ自体が既に完成されたもので、はっきりいってしまえばアレンジの必要なんてこれっぽっちもない。
わかってはいても、ついついこの物語に他にも道があったのならどうなるかなぁ、と私は考えてしまう。
それは、お母さんがダイエットすると言いつつもコーヒーに砂糖を二杯は入れてしまうのと同じくらい、仕方がないことなのだ。
そうせずには、いれらないのことなのだから。
そういった私レベルの問題とは別に、こんな話をいとこたちならともかく(まぁ、そこは親戚ってことで)、よそ様の子にしちゃっていいもんなんだろうかって葛藤はあった。
しょせん私の語るそれは、ほら話だと自覚があったから。
でも、私が話すことで、オリジナルを読むようになったとか、物語が好きになったという声を聞くと、私みたいな存在もありなのかなとは思うようになった。
でも、胸を張って、とまではいかない。まぁ、こそこそとやっているといった感じだ。
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