サクラ 5

 サクラは目の下に隈を作ってぼんやりと教師の言葉を聞き流していた。

 昨夜は一睡もできなかった。

 花織が赤い宝石を持っていた。

 以前、マホメドが新たに変異種を作り出すために信者にばら撒いていた証。

 それには変異を促す作用があるという話だったが、それを持っているだけで変異するようなものでもない。

 冥界の門が無い今では時間をかけて変化させる必要があり、そのための物だという話だがサクラにはよく分からない。

 真一の「分かりやすい説明」では、変異種と言うのは放射能を浴びて突然変異で怪物化するようなものだ。

 赤い宝石は放射性物質のようなもので、常に放射線を出している。

 一気に突然変異すると、形も意識も人間ではない化け物になってしまうが、弱火でじっくりコトコト煮込むと人間の意識を保った怪物になりやすい。

 ただ正義のヒーローになるか悪の怪物になるかは元の人間の性質によると言う。

 やはりよく分からなかったが、分かりやすく説明しただけで実際放射線を出しているという話はない。

 それに変異種になるにはマホメドによる最後の仕上げが必要だそうだ。

 それで言うなら魁も証を持っていたのだ。

 それは用がなくなってから処分したと聞いている。

 十万円で買った物だから勿体ないなとは思ったが、ずっと持っていられても気分のいい物ではないので納得していた。

 魁のものを含め、世には結構な数の証がばら撒かれたはずだが、変異種が大量発生したと言う話は無い。

 だから花織が新たに変異種になるとは考えにくい。

 しかしそれも真一達が考えた予想に過ぎない。

 もしかしたら人によっては持っているだけで変異することもあるのではないか?

 あるいは冥界の門の時に変化は起きていたが切っ掛けが無くて変異しなかった。それが証によって引き起こされたなんてことはないのか?

 悪い方に考えればいくらでも有り得そうで、そんなことを考えていると眠れなかったのだ。

 それにあの証が近くにあるというのも気持ちが悪い。

 かと言って理由もなく捨てて来いとも言えず。

 なにより本当に証だと決まったわけではない。

 似たような宝石などあるだろうし。証が宝石店で売っているわけもない。

 憶測だけで色々考えても仕方ないと思いつつも、気が付いたらまた考えが巡っている。

 そんなことをずっと繰り返していた。

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