サクラ 3

 翌日、学校でいつものメンツが集まるが、サクラはぼんやりと上の空だった。

「壬生君。シノブシの活動はどうします?」

「シノブシー? なんかやることあるの?」

 真一の呼びかけに優美が割って入る。

「また、変異種が出たみたいですよ」

 ガタッ! とサクラの椅子が鳴る。

「ここ最近はまったく聞かなかったですよね。当時の生き残りでしょうか」

「また下着ドロでも出たのー?」

 優美の言葉に皆苦笑いする。

「蟇目さんじゃないことは確かです。実際大怪我してる人がいて、目撃者の証言では大きな獣みたいだったと。でも猛獣が逃げ出したと言う話はありません」

「しかし、冥界の門を塞いで以来、新たに変異種は生まれていないはずです」

「そ、そうよ! その事件は解決したはずでしょ! 人が変異種になるはずないじゃない!」

 声を荒げて立ち上がるサクラだったが、驚く一同に少し冷静さを取り戻して腰を下ろす。

 冥界の門を塞いだいきさつには複雑な事情があり、特にサクラにとっては辛い思い出を含んでいる。

 だから皆もそのことについては深く追及はしない。

「御神木はなくなりましたが冥界の門は塞がれていました。なのでまた現れることもないと思うのですが」

 魁の言葉に真一が眼鏡を光らせる。

「でも例外がありましたよね?」

 そう。その後に新たに変異種になる者が現れた。

 しかしそれはマホメドという教祖のような男が仕組んだ人工的な冥界の門と言っていい。

 そしてそれも倒して解決したはずだ。

「しかし忘れていませんか? そもそもどうして変異種になったのかを」

「それは、浦木教授の脳を使って……。それも割られたと聞きます」

 どうしてそうなったのかまでは分からないが、割れた脳を見て呆然としているマホメドを真一が目撃している。

 マホメドの顔は見なかったが、絶望に打ちひしがれる様子から、もう変異種を生み出す力はないと思っていた。

「しかしそれだけではなかったはずです。マホメドはその下準備として『証』をばら撒いていましたよね」

 マホメドは信者の証として小さな宝石を売り捌いていた。

 そしてそれは金儲けのためだけではなく、信心の証として変異にも作用するようだった。

 マホメド自身、証は前準備をするための補助的なもので、それを持っているだけで変異するような力はないと言っていたが……。

「何事にも予想外の事態は起こるものです。証を持っていた人が偶然条件がそろって変異するなんてこともあるかもしれません」

 ほんとにー? と優美は疑心を露わにするが、魁は真剣に考え込んでいる。

 その様子を見ていたサクラは居たたまれないように声を上げた。

「そんなことあるわけないでしょ! まーたアンタはそうやっていつもいつも勝手な推理して。アンタの推理はいっつも外れてばっかなのよ!」

 真一を含め、皆驚いたように固まる。

「い……、いや。そんな怒んなくても」

 ふんと鼻を鳴らし、サクラは鞄を引っ掴む。

「そんなにパトロールしたければ勝手にやってればいいでしょ! どうせ無駄よ! わたしはパス!」

 そのまま教室を出ていくサクラを皆呆然と見送った。

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