8.

「はぁっ!!」


目的、と言ってるだけありミシェの行動は早かった。


素早く聖槍を構え、黒帝竜に向かって突き出した。

だが、黒帝竜は巨体でありながら翼をはためかせそれを避ける。


そのまま黒帝竜は口を開くと、黒い炎が渦巻く。

ドラゴンの咆哮・地響きと同時に、黒い炎が地上に向かって放たれる。


「うわわっ?!」


生態はどうあれ、巨大なドラゴンである黒帝竜を相手に、ドラゴンが初見の一般市民であるアクトが何かできる訳もなく慌てて近くの岩陰に隠れる。

炎が当たった岩は、見るも無残な黒焦げとなり一部が溶けていた。

当たればひとたまりもない事は一目瞭然である。


「角に傷のある黒帝竜。 ようやく見つけたわ……!」


ミシェは風上側に移動し炎を避ける。

そして、軽やかな身のこなしで、黒い竜の懐で飛び込むと、槍を一突きした。


ギィンッと鈍い音が辺りに響き渡る。


(駄目だ、刃が通ってない……!)


頑丈な鱗に少し傷が付いただけで、効果的なダメージは与えられていないようだ。

ドラゴンの爪の攻撃をすんでの所でかわし、槍を構え直す。


アクトの所感としては、先ほどの攻撃は通ってもおかしくない。

というか魔物退治用の武器としては、アレほどの業物はそうそう見ない。

だが、現実として攻撃が通らなかった。


考えられるのは一つ、魔法道具としての限界が近いのだ。

馬車の馬の時と同じだ。

魔法道具の外身である魔櫃アークが壊れかけている。


ミシェもそれは百も承知なようで、速攻で勝負を仕掛けるために手数の勝負に方針を転換した。


足、翼、同じ個所を重点的に。


1つ1つは効果的なダメージではないが、徐々に黒帝竜の体勢は崩れ、ついには、巨大な地響きと共に、その躯体が地面へ墜落した。

周囲に土煙が舞う。


「すげぇ……」

「これでトドメ……!」


ミシェが最後の大技にと槍を構え直した瞬間。


グオォオオオ!!


追い詰められた黒い竜の咆哮。

それは風圧となって、周囲の小石や岩などを山の外へと吹き飛ばしていった。

当然、人間も例外ではない。


「きゃっ?!」


ミシェがそのまま吹き飛ばされ、山の外に放り出される。

アクトの脳裏に、夢で見たミシェが山の外で吹き飛ばされる光景が思い出される。

が、間一髪で、崖に槍を突き刺し踏みとどまり、下へ落ちる事は無かった。

ほっと胸を撫でおろす。


「お、おい、ミシェ、大丈夫か──っ」


岩陰から出たアクトがミシェの方へ進もうとした瞬間。

土煙の向こう側の黒帝竜の赤い目と目が合ってしまう。

冷や汗が背中を伝う。


「危ないっ!」


崖を上がってきたミシェがアクトの前へ素早く移動し、槍を構える。

黒帝竜の周囲に幾何学模様が現れる。


「ドラゴンが、魔術?!」


そして、先程までとは比べ物にならない質量の巨大な黒い炎の塊を吐き出す。


守護聖槍セントルーヴランス、解放!

 お願い、あたし達を護って……っ!」


ミシェの持つ槍から眩い光から発せられ、光は目の前を覆いつくす。

直後、巨大な爆音がその場に響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る