8・ケイカク

 細かなことはともかく、みんな必要なものは持ったし、長距離自転車旅行用の長袖とかプロテクター、それにヘルメットも暑いけれどもつけて出発することになった。

 今の季節、面倒なのは日焼け。

 いつの季節でも、こわいのは事故である。

 アキラはフチのないヘルメットの上に、いつものフチつきの黒い帽子をかぶっていた。

 ミユキは、いつものスポーツ用のアイウエアではなくて、スポーツ用ではあるけど度つきのサングラス。

 さて、センセイのところまでは、ここからは普通に行けば2時間。

 ある程度そういうのに慣れてるオトナのヒトなら、休みなし、と、アキラは言う。

 ただコハルたちは素人で子どもだからそこまでの体力はない。

 誰でも、休みを入れたいときには連絡しあおう、と、みんなは片耳イヤホンとスロートマイクを装着して、お互いの携帯端末を共有状態にした。

 これで、まわりの音を聞きながら走ることもできるし、大声を出さなくても会話ができて、あまりたいくつしなくてもすみそうだ。

 途中でいろいろ、路上観察とか採集もしたいので、トータル4時間ぐらいを見込んでいる、と、アキラは3人に携帯端末の地図を見せながら説明した。


     *


 センセイのいると思われる、丘の上には赤い星印がつけられていて、そこまでの道は地図上では大きく3つのルートがあることはあった。

 土手そいの道と、昔からある旧道。

 そして比較的最近できたと思われる、湖ぞいに走る新道。

 新道は先のほうに、さらに複数ルートがある。

 アキラは事前に、どの道にすべきか、携帯端末の地図ではわからないところを、実際に調べて調査した、とのことである。

 土手ぞいの道は、どうも夏休みの間中は工事中で通行止めらしい。

 旧道はもう完全に出入り口のところに頑丈なバリケードが立てられていて、そのバリケードはずいぶん以前に設置されたらしく、サビサビなところもあるくらいだから、多分通れないんだろうとアキラは説明した。

 旧道は、コハルの知っている限りでは、というより、ネットのストリートビューで見る限りでは、昔からの家とか、商店とか食べ物屋とかが並んでいるはずで、しかしその画像にはヒトの気配は感じられなかったから、たぶんずいぶん前のものだろうとコハルは思っていた。

 そして、アキラが何日か前に撮ってきた、道のバリケードと、その先の数十メートルほどの道と家屋は、道をふさぐような形でほぼ倒壊していたり、室内の椅子やテーブルが道に散乱していて、キカイたちも改修したり、使えるようにはしていないことは明らかだった。

 ナツミは、アメリカ映画の登場人物のように肩をすくめた。

 ミユキは、両手の指を組んで、ぐっと力を入れた。

 さあ、魔王城に向けて、チーム・ミライの出発だ、おー、と、コハルは片手を上げてみた。

 センセイの家を、魔王城、ってのはすこしひどいかもしれないけど。


     *


 チーム・ミライの勇者はおれね、と、ナツミは言った。

 ええーっ、ナツミはいちばんうしろじゃん、と、コハルは抗議した。

 あのねえ、この旗は、「へ」の字のほう、つまり下が前なんだよ、だからコハルは後方でぬるい治癒魔法とかみんなにかけてればいいの。

 それで、ミユキは強い攻撃魔法術師で、アキラは強い戦士、わかるかな。

 がんばります、とミユキは言い、アキラは黙って、手に剣を持って振り回すようなフリをしたのだった。

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