3・ヨニン
3・ヨニン
夏は太陽がのぼると朝でもすぐに暑くなる。
コハルは他の3人が汗を流しながら遊んでいるのを、いつものように公園の木陰のベンチに小さな日傘を広げて見ていた。
体力を中心にした基本的な運動能力は、コハルはやや弱い。
というより、疲れやすい、という言いかたが正しいかもしれない。
すこし遠くの公園は近くの公園よりかなり広く、ボール遊びのための広場もきれいに整理されていて、でこぼこしていないから、つまずいたりしにくいし、ボールをころがしてもまっすぐにころがる。
携帯端末の画面を見ているより、3人が遊んでいるところを観察しているほうが楽しい。
コハルは、3人の観察者としてはたぶんいちばんだった。
遠くの公園にあるブランコや滑り台のような遊び道具の種類は、近くの公園と変わらないのだけれど、そのようなもので遊ぶのは、みんなにとってはどうも子供っぽくて気が進まない。
だから、コハルを含めた4人の、その夏の遊びはもっぱらボール遊びの対人ゲームだった。
*
その日はアキラが言い出したことをしなければならない日だった。
つまり、午後になったらみんなの、その夏の自由研究ということで、学校ではモニターでしか対面したことのないセンセイに会いに行く。
自転車で、途中の路上観察をしながら。
そういう約束をしていたけれどもコハルをのぞく3人はいつもの午前中と同じように遊んでいて、でも家に帰って食事をしてすこし眠ったら全然元気になるだろう。
コハルは暑いのも寒いのも、ヒトと一緒に何かをするのも苦手だったので、4人の中でいちばん元気が余っているナツミと最初に友だちになれたのは今にして思うと不思議な気がする。
アキラは何かコツコツ作るのが好きで、自分が作ったものに関して、こうなってこういう風に動くのだという説明をするのが好きである。
ミユキはおいしいものや身につけるものに関して色々調べてネットで購入するのが好きである。
ミユキを見ているとどうもそのキラキラはコハルには日常からやや逸脱しているように見えるし、アキラはあまり自分のことを話さない
そもそもこの世界に私たち4人の以外のヒトはいるのだろうかとコハルはしじゅう思う。
コハル以外のみんなはそんなことはときどきしか思わない。
つまり世界で例えばレバノンやフランスやシャンハイ、あるいはイケブクロとかタバタがあるのかどうかはネットを通した情報でしか知ることはできない。
それは行って歩いて買い物をしたり、歩いてる店の人や、観光客とすれ違ったりしなければわからないことなのである。
そういう意味ではコハルはオヤ、つまりチチやハハというものも実際でいるかどうかもわからない。
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