サイコロカソウ

第1話 愛憎と謳歌

　梅雨入りと言われ始めた5月、連日の大雨が続く。全く寒くないのに湿気が多くて気持ち悪い。

　古いビニ傘を振って、水滴を落とす。

　「おっはー！」　「おはよ」

　下駄箱で藍沢に声を掛けられた。藍沢嘉月（あいざわかづき）。こいつとは中学の頃からの仲で、学校内では一番の旧友だ。自然と一緒に教室に向かう。が、一緒に登校はしない。

　「おは～藍沢に、皇（すめらぎ）～」

　俺と藍沢の間に割り込んで入ってきたのはバスケ部のエースで、図体のでかい但馬昴（たじますばる）だ。

　「おい但馬ぁ！お前はデブなんだから人と人の間に入ってくんなよぉ」

　だるそうに藍沢が言う。だが、雰囲気は暗いわけではない、むしろ明るすぎて鬱陶しいものだ。

　「残念だな俺は筋肉質でガタイがいいだけだ。お前は骨だな」

　毎度恒例の言い合いだ。何度同じ台詞セリフを聞いたことか。

　しかし藍沢に言わされている感があって但馬はそれに付き合ってあげているようにも見える。

　「そんなことないぞぉ！」

　と藍沢は朝からバカでかい声を出しやがった後、筋肉ポーズをして見せる。しかしガリチビの体系では全く様にならない。

　「お前らほんっと朝から元気だな」

　俺は2人に呆れながら教室へ向かう。

　「皇が元気ないだけだよ！相変わらず朝は弱いんだね～。可哀相だね～」

　煽るように藍沢が言う。

　それよりお前が毎日踏んでる上履きのかかとの方が可哀相だな。

　「余計なお世話だよ～藍沢。皇は夜更かし大好き人間なんだから」

　優しさでフォローしてるように見えて若干ディスってるぞ、但馬。

　ガラガラ

　扉を開くといつもの光景が広がっている。

　「おはよう皇くん」「皇おっはよー！」「克己（かつみ）くんおは、今日は少し遅かったね」

　いつもの奴らが一番に駆け寄って挨拶してきた。

　「おはようみんな。今日は藍沢に絡まれたから」と後ろにいる藍沢を指差す。

　「俺のせいじゃねーし！但馬のせいだよ！」

　「それはちゃうやろ藍沢」

　「ふふっ、嘉月くんに昴くんおはよ！相変わらず元気だね～」

　心優しい一軍女子の穂谷（ほたに）が2人に微笑む。その笑顔に微笑み返す2人。

　「おはよー！」と藍沢「おはよう」と但馬

　キーンコーンカーンコーン

　「あ、やば、座らなきゃだね」

　「だな」

　ぞろぞろと急いで席に着く。

　「いない奴言ってけー」「田中さんと氷川（ひかわ）くんまだいませーん」

　＿＿＿

　俺たちＡ組のホームルームが終わったと同時にすぐに俺と藍沢はＥ組の教室に向かう。

　Ｅ組はまだホームルームが終わっていないようだ。

　「Ｅ組の担任ほんっと遅いよなぁ！」

　「声でデケェって」

　ノールックで藍沢の肩を殴る。

　だがしかし実際にＥ組の担任は話が長くて、生徒からはあまり好かれない。扉の隙間から見える無精ひげの姿に少し苛立つ。早く終われ。

　Ｅ組に行く理由は、柊（ひいらぎ）蓮樹（れんじゅ）というイケメンナチュラルサイコパス野郎に野暮用がある。

　漸くホームルームが終わったようで柊に声をかけてみた。

　「よう柊。今日は部活行くか？カウンセリングなら送ってくけど」

　「今日なし～、部活行くわ～」

　こいつも朝が弱いのか、欠伸をしながら気怠そうに話している。

　「わかった。他のメンバーも呼んでおく」

　「頼んだ～。ちな藍沢も今日来る？」

　会話の対象が藍沢にスムーズに動く。

　「お願いとあらば出陣いたしますぜい！」

　「おけ～、じゃ」「はいよー！」

　そういってそれぞれのクラスに戻っていく。

　柊は小学生の頃問題を起こして以来、カウンセリングに通っている。といっても簡単なテストを受けたり、その日あったことを話したりと結構気楽な雰囲気らしい。

　どちらかといえばサイコセラピーに近いのかもしれない。

　そして俺たちが入っている部活はコンピュータ部。通称コン部。だが学年で仲のいいメンツしかいないため、ほぼ自由に遊んだり話したりする。俺たち高校二年生がトップだし、後輩も少ししかいない。そのうえ幽霊部員ばかり。

　「但馬と氷川と神々廻（ししば）にも声かけなくていいのか？」

　廊下を歩いていると隣の藍沢が言う。残りのコン部のメンツだ。

　「但馬はバスケ部の方が試合近いって言ってたし、多分来ない。氷川と神々廻は声かけるだけかけてみるか。まあ氷川は通常通り遅刻だろうから」

　「嗚呼それはそうだね」

　＿＿＿

　1、2、3、4限が終わって昼休みになった。いつも通り、空いてる教室でいつメンと昼食をとる。

　「おぉ、氷川。何してんの？今日も遅刻？」

　いつもの空き教室に行ったら氷川怜陽（れいび）が一人でいた。

　「今日は朝からここにいる。みんなは？」

　「ふーん、じゃあサボりか。あ、みんなは後から来る。てかこの間氷川が投稿したイラストめっちゃバズってたじゃん」

　氷川はネットでイラストやアートを手掛ける活動をしている。

　「んね思った。結構適当だったんだけどな」

　「ははっ、あるあるらしいね。結構時間かけた方が伸びなかったりって」

　「うん」

　「よーよーよー！元気してっか2人とも！」

　勢いよく扉を開けて藍沢が入ってきた。

　さっきまで一緒に居たろうが。なんなんだそのノリ。

　「あ、全員いるじゃん」

　藍沢をフル無視した氷川が藍沢の後ろに全員がいることを確認。

　「氷川が午前中いるの珍し」

　「違うよ昴、今はもう午後だよ」

　とツッコんだのは、なぜかまだ寝癖がついている神々廻丈（じょう）だ。

　「ああそっか、じゃあ通常運転か」

　「いや。今日は遅刻してｎ（（（「じゃあ食おうぜ―！」

　おい藍沢言わせてやれよ。　

　全員が机を動かして輪を作る。これがいつものスタイルだ。6人なんだから3，3で綺麗に長方形並べることができるというのにずっとこのスタイルを保持している。

　「「「「いただきます」」」」

　ここで全員の詳細説明をするとしよう。まず俺は皇克己（すめらぎかつみ）。ネガティブ思考ではあるが頭脳派（自称）。

　次に藍沢嘉月（あいざわかづき）。アホだがバカではないお調子者の天パでガリチビ野郎、俺とは中学の頃からの仲。皆の元気の源？

　図体のデカい但馬昴（たじますばる）はバスケ部のエースとコン部の兼部。寛容で、気配りができ、勉強ができる。が、ちょい抜けてるところがある。

　Ｅ組の柊蓮樹（ひいらぎれんじゅ）。顔は良く、基本的に何でもできる器用者だが、ただのサイコパス。小学生で人を殺している精神異常者。しかし意外と話の馬は合う。

　遅刻魔の氷川怜陽（ひかわれいび）はネット依存者。だが自分が描いたイラストなどをＳＮＳに投稿していて知名度はそれなりにある。ピアスが確か13個開いている中性。

　Ｅ組の神々廻丈（ししばじょう）。あまり見た目に頓着がないのか、寝癖が可愛い。読書好き。性格はよくて、勉強は人並みにでき、運動もそこそこだが、体力がない。明るくも暗くもない奴。

　「今日部活来れる奴誰～！ちなみに俺と皇と柊は来ますよーう」

　「今日暇だからいいよ」携帯いじりながら氷川がいう。

　「僕も今日大丈夫だよ」神々廻がもぐもぐしながら言う。可愛い。

　「あーごめん俺試合近いから今週パス。」　

　今朝予想していた通りだ。バスケ部との兼部でコン部を優先するはずがない、ましてや試合だ。俺も但馬にはバスケを頑張ってほしい。

　「やっぱそうだよね、試合終わったら来いよ」「りょーかい」

　「てか但馬の試合見たいね～」柊が食い気味に言う。

　あまり物事に関心がないと思っていたのだが、友達の事となると興味深そうに話を聞いてくれる。

　「俺も見たーい！」

　飯食ってる最中だというのにわざわざ席から立ち上がって藍沢が言う。

　「え！ん～別にいいけど、緊張しそうだな」

　「まぁまぁ！応援しに行くだけだからさ～！行っていいよね！いいよね！？」

　藍沢が但馬の顔にゼロ距離で圧をかけている。但馬もそれに動じずに普通に会話している。とても面白い光景だ。絵に描いて残したい気分になる。

　「わかったわかった。じゃあ応援しに来て」

　「いえーい！」「楽しみにしてるわ」「じゃあ俺早めに行ってボール全部つぶしておくね。」

　要領のない会話だ。最後の奴はツッコみたくなるが、通常運転である。

　「ボールは各学校が持っていくから大丈夫だよ」

　「あぁ、そ」

　そしていつもの他愛のないような会話が続いた。やはり…、このメンツはいいな。こいつらといるだけで、俺は幸せなんだ。