第2話 VS食喰食喰!

 名前とは。人は生まれた時よりその欲を発露する。空気を、ご飯を、母の愛を。


 だが、それより強く求めるものがある。それこそ、その人間が最も強く求めるものであり、その人間の名前となる。


 俺が最初に求めたのは、強くなること。どれほどの強者と戦っても勝てる、最強の力。すなわち無敗。この世界において右に並ぶもの無しと、皆が口々に語る唯一の存在……


 その為に俺はあらゆる努力をした。体を鍛え、頭を鍛え、技を磨いた。一箇所に留まる井の中の蛙にならず、旅の果てにここへ辿り着いた。


 この街には、無敵なんて大層な名前の女がいると聞いた。だから、俺はそいつをぶっ倒して、この名を天下に轟かす。そのために、お前らと戦っている……で、納得したか? 食喰食美しきじきしきみさんよ。


「えぇとっても。つまり、貴方は殺していいわけでしょう?」


 はっ、素敵な理解力で助かるよ。あんましごたごた話すのは趣味じゃねえ……とっととやらせてもらうぜ!


「やれるもんならやってみなさいな! その威勢の良さ、さぞかしハリのある身体と内臓をしている事でしょう……私が美味しく、美しく食べてやるわ!」


 先手必しょ……う? あ? 消えた?


「後ろよ!」


 がっ!? んな、瞬間移動!?


「むぐむぐ……んっ。そんなちんけなもんじゃないわ……んくっ、んくっ……おろろろろろ」


 うわ吐いた。汚ね。


「汚くないわよ! これこそ私の能力、悪食! あんたが強くなることを願ったように、私はこの世の全てを喰らうことを願ったの。そうして手に入れたのが、胃次元空間! 喰らったものを無限に収納出来るのよ!」


 中身ぐちゃぐちゃになってそうだな、やっぱ汚ねえじゃん。カビとか毒キノコ生えてそう。


「ぶっ殺すわよ! もーあったまきた! 決めた、あんたはミンチにしてハンバーグにしてやるわ!」


 おーおーやってみろ……よ? いや、いやいやいや。待て待て待て何だそのサイズの包丁!? 二メートルくらいあるぞ!?


「これこそ私の唯一の調理器具! 万能包丁得光ばんのうぼうちょうとくみつよ!」


 うわっぶね!? どうやって飲み込んだよそれ! お前すげえな!?


「お褒め下さり大変結構。でも、よそ見してる暇は無いわよ!」


 しゃいおらぁ!? くそ! 力はそこまで強い訳じゃないけど近づいたら何されるかわかったもんじゃねえ!


「ほぅらほら! さっきまでの威勢はどこに行ったのかしら! そうやって逃げ回り続けるつもりなら……んくっ、ぷっ!」


 うわわわわ!? 飛び道具もあんのかよ! なんだこれ!


「エイの尾の棘にガンガゼの棘、ヤマアラシの背中の毛にその他動物の爪と牙! そして更に!」


 うおおおお!? なんだ! なんで爆発すんだそのスイカの種!?


「私の体内で発酵した食べカスのガスを充填した特性の炸裂弾! その名もずばり爆裂西瓜種ばくれつすいかだんよ!」


 種って書いてだんって読むのは無理あんだろ! ってゆうかやっぱガス出てんじゃねえか!きったねえ!


「ほほほ! なんとでも言いなさい! さ、足元がお留守よ!」


 んっ――! ああ!? 足もげたんだけど!?


「んふっ、いただきます!」


 んぎっ、いい!? 腕を食うならせめて包丁で切ってから食ってくれ! 雑菌入ったらどうすんだよ! あとくっそいてえ! ああああ! 血が止まんねえ!


「んんー! やっぱり適度に筋肉がついてるほうが食感良くなるわねぇ。それに、血の健康状態も完璧じゃない。すんごく美味しいわぁ」


 くそがぁ……


 (さて、どうするか……正直、手は思いついた。だが、実行して無事で終われる自信が無い……あいつは自分の口よりでかくても丸呑みに出来ちまうから、作戦失敗は即ち死だ。さて、どうする?)


「んぐ……ふぅ。ご馳走様でした。それで? 妙案は浮かんだかしら。止血も終わったことですし、そろそろ終わらせたいのだけど」


 ……そうだな、うだうだ考えててもどうしようもねえや。来いよ、その口塞いでやる。


「それじゃあ、終わりにしましょうか! かかって来なさい!」


 お望み通り終わらせてやるよ!


「いただ……!? ひょっほ! あにおほめのふひほはははいっへふのよ!」


 わざと食われりゃお前だって苦しいだろ! そんでこうすりゃいいんだよぉ!


「――!! やっ、やめはふぁい! あふぉははすへう!!」


 らぁ!! 上顎ぶっ壊れなぁ!!


「んきゅぅーー!!!??」


 ぃよっと。ったく、女ってのは口ん中もいい匂いなのか、それとも俺が変態なだけなのか……んまいいや。これでまぁ俺の勝ちだな。さぁて、次の相手は誰になるか……その前に、医善に治してもらわないとなぁ、この腕。

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