/// 2.転生したっぽいんだけど

安藤里香(あんどうりか) 14才


学校では常に目立たずボッチで休み時間は大好きなライトノベルをひたすら見続け時間をつぶす。お昼休みも母親の作ったお弁当を本で隠しながらこっそりと食べていた。運動も苦手。勉強はそこそこできた。友達もいない。ライトノベルにはたくさんのワードがあふれていた。難しい言葉や普段目にしない専門知識だってすべて気になってしまい、そのすべてを理解して頭の中で妄想に浸る。小学生のころから変わらない日常・・・家族以外の視線が怖くてどうしても人目を避けて生きてきた。


そんな日常の中のいつもの日曜日。いつものようにベットに寝ころび、平済みしてあるライトノベルを読み漁る。あ~~こんな冒険がしてみたい!魔法をぶっぱなしてドラゴンや魔王を倒すんだ!勇者となって素敵な王子様と結婚して幸せにくらすんだ・・・そんなことを思っていた。もちろんそんなことを思うのはもう過去に何度も繰り返している。その時その時で読んでいるライトノベルに感化され、様々な妄想が脳内を駆け巡る。そんな日常が今も繰り広げられている。




でも・・・その時はいつもと違っていた。




目の前がぼやけて文字がぐるぐる回りだし、やがてその文字もぼやけながらわけのわからない文字に変化して・・・目が回る。くらくらする。ごしごしと目をこすり開いた目線には真っ白な空間にたたずむ美しい女性。なんとなく目を奪われる。この世のものとは思えない美しさに思考がとまる・・・


「良く来ましたね・・・」


ゆっくりとした、とても美しい声色・・・


「清らかなあなたには、あの世界は醜く、穢れ、腐りきっている・・・そのような世界は・・・ダメ!絶対!」


何を言っているのだろう・・・美しい女性から紡ぎだされた突然の暴言・・・


「あなたには別の世界・・・あなたの思い描く剣と魔法のあふれる世界・・・元の世界よりは少しだけですがまだ救いようのある世界・・・送り届けましょう・・・好きに生きていいんですよ・・・」


私はきっと寝落ちしてしまったのだろうな。こんな展開も何度も何度も見る夢の一つ。剣と魔法の世界・・・行ってみたいな。女神様ぁ~私も自由に冒険がしてみたいよ!・・・でも目が覚めるとまた憂鬱でつまらない日常が始まる・・・一人寂しくライトノベルだけがお友達の悲しい世界・・・夢なら冷めないで!このまま妄想にひたって、眠るように死んでしまえたら幸せなのかも!そんなことを考えて自分で自分を抱いていた。悲しみと共につぶった眼から涙がこぼれてくる・・・幸せだけど・・・悲しく残酷な夢・・・




カラダに浮遊感を感じて、涼しげな風を感じたのでゆっくりと目を開ける。




ベットに寝ころんでいたはずなのに・・・目の前には木々に囲まれた石畳の長い道。その先には大きな塀?・・・まだ夢の中???妙にリアルに感じるが先ほどの夢の続きでここは剣と魔法の異世界なのかな???そんなことを思っていると、後ろから大声で怒鳴りつけられる。


「おいそこの女!!!ぼさっとしてないでさっさとどきやがれ!!!踏みつぶされたいのか!!!」


怒鳴り声とともにガタガタと大きな音が近づいてくる。びっくりしながら振り向くと、そこには大きな2頭の馬と黒い馬車、馬車の前に乗っている髭を生やしタキシードのようなものを着た小太りのおじさんがこちらを真っ赤な顔でらみながら怒鳴り散らしている。


「あわわわわわ!!!」


慌てて横に飛びよけると膝を打ち痛みを感じる。


「ううううう・・・」


痛みを感じた膝をみつろうっすらと血が出ていた。おじさんが横目でちらりとこちらを伺いながらも、馬車はそのまま立ち止まらず猛スピードで通り過ぎていく・・・


「ううう~~いたいよ~~なんなのもう!!!」


なんて夢だ・・・泣きたくなる。


「うわーーー!!!」ガタンガガガガガ!!!!


またまたびっくりして大きな音がした場所を見ると、さっき通り過ぎたはずの馬車が石畳を外れ横の横転し、そのそばには先ほどのおじさんがすっころんでいた。


「え・・・死んじゃった???」


そんなことを考えて見ているとむくりと上半身を起こして、手放していなかったムチをぶんぶん振り回し、馬に向かって何やら叫んでいる・・・横転した馬車からは中世貴族のような恰好をしたおじさんがはい出てきた。小太りのおじさんの方は慌ててそばにいってぺこぺこ。そのまま土下座へ移行する・・・何これ面白い!コント?口を押えて笑いをこらえる。


中から出てきた貴族様?は土下座しているおじさんには目もくれず、馬車の側面にのったままその中に手を伸ばすと、ドレスをきた女の子が引き上げられた。娘さんかな?ゆっくりとその二人が馬車から降りると、貴族様?は小太りのおじさんの方に歩いていく。あっ踏みつけた・・・何度か踏みつけたり蹴ったりしてから貴族様?は馬車にもたれかかって休んでいる。


「うわ~~~ひっど・・・」


里香がドン引きしていると、小太りのおじさんが馬車にのぼり中から何やら引っ張り出した。取り出したそれを地面に置くと、貴族っぽい二人はそれにすわっている。そして小太りのおじさんは、塀の方に向かって石畳の上を走りだす・・・


「ぷっ・・・くふっ・・・くふふ・・・うふふふふ・・・」


なんて面白い夢だろう。こんなコミカルな夢をみたのは初めてかも。そんなことを思いながら何気なく擦りむいた膝をみると、いつの間にか傷一つない綺麗な足に戻っていた。痛みもなくなったしやっぱり夢なんだと納得する。せっかくの楽しい夢。私もあの塀の中に行ってみよう!ゆっくりと歩きだし、先ほどの場所の横を通り過ぎる。貴族風の二人はこちらをチラチラみるので、その視線でびくびくしてしまう。夢だってわかってるんだけどね。やっぱり怖い。


普段ならライトノベルなんかで顔を隠して通り過ぎるが、手元にそんなものは持っていない。これは夢だ!夢なんだ!心の中で何度も繰り返し足早に通りすぎる。馬車のところからは少し離れるとホッと胸をなでおろす。


人通りのない石畳をドンドン歩いていくとやっと道が塀のところに空いた大きな門に続いているのがわかる。よく見るとその門の両端には、銀の鎧を着こんだ体格の良い男の人が立っている。二人ともちょっと顔が怖い・・・


「門番?なのかな?」


このまま進んでもいいのだろうか?呼び止められちゃう?身分証明なんかは必要だろうか?そんなことを思っていると、愛読書であれば「しょうがないなギルドで登録するのが一番いいからついて行ってやる!」なんて・・・そんなことを考えていると、門の向こう側から先ほどの小太りのおじさんが乗った馬車がすごいスピードでこちらに向かってきた。


「ひいっ!!!」


今度は距離もまだまだあったし転ばないように落ち着いて横にずれると、一切こちらを見ずにそのまま駆け抜けてった。ふう。と胸をなでおろすと同時に、そのまま通り抜けてもいいのかな?今も特に何もせずに通り抜けていったし・・・と考え勇気をだしてなるべく両端の兵士から離れるように真ん中を歩く。チラチラと横眼で様子をうかがうとこちらを一切見ていないようだ。一体何に対しての警備なのだろうか・・・魔物?野盗?なんて妄想をする。とりあえず通り抜けることができた。そして目の前の街並みに心が奪われた・・・


入口から美しい白い石壁のお店が並ぶ。そして道行く人たちの中には、ふわふわとした耳がついた人や頬が鱗のような模様がある人。そういったおそらく亜人と言われる人たちが多くはないが、チラホラ歩いているのを発見した。活気のある海外の商店街のような通りはしばらく続き、遠くの方では噴水?開けた様子に見える。きょろきょろと周りを見渡しながら、街並みに心を奪われていたが、考えてみると周りにはたくさんの人々。


「うっ・・・」


もう心は普段の私、恐怖感がどんどん増してくる。ううううと声を漏らしながら塀の入り口に戻ろうと思ったが、戻ってどうする?と思い直す。そして考えた挙句に・・・気づけば塀の入り口の近く、商店街の始まりの場所に少し大きめに開いていた通りに逃げ込んだ。恐怖と恥ずかしさにより、運動が得意でないはずの私の人生最速の動きと思えるほど素早く走るとその路地に入り、積み上げられているコンテナボックスのような木箱の陰に隠れた。


「はあはあはあ」


息を整えると、背後から声がかけられビクッと肩をふるわせ、ゆっくりと声のした背後に振り替える。そこには小学生入学前のような小さな女の子がこちらをうかがっていた。


「あっ、お姉ちゃん?どうしたの?」


「あの・・・その・・・わたし・・・急にこの世界に迷い込んじゃって・・・あの・・・人の目が・・・こわくて・・・」


震えながらもなんとか説明をしようと頑張ってみた。実はこの街に入った時には、すでにここは夢の中じゃないかも?と思い始めている。なんせ先ほどから日差しの暑さ、時折吹く強い風がほほをなでる、お店からは美味しそうな匂いの数々・・・夢というにはリアルすぎた。まだ100%とは言えないがこれって本当に異世界に転移してしまったのかも・・・それじゃあ本当にあの綺麗な人は神様???そんなことを思っていた。


目の前の少女は里香を頭のてっぺんから足先までじろじろと眺めていた。その視線に耐えられなくなり目をそらす。


「そうなんだ。何か持ち物はもってないの?お金とか身分を証明するものとか食べ物とか・・・」


「なにも・・・ない・・・です・・・」


意識しないようにしていたが、一旦言葉にすると不安がどんどんあふれてくる。何も持たずにこの世界にひとり。これからどうやって生きていけばいいんだろう・・・涙があふれて止まらない・・・


「もう!泣いててもしょうがないでしょ!こっちきて!!!」


そういうと女の子は里香の手を引き、強引に先ほどの通りにもどりズンズンと進んでいく・・・


「えっ、なに???なんで??何この子・・・力つよっ・・・」


その女の子は小さな体から考えても不思議なぐらい力強く、びっくりして振り払おうとした里香だったがまったく振りほどくことはできなかった。


周りの目線が痛い・・・小さな女の子に引きずられ、商店街をひょこひょことかろうじて歩く。空いている方の手で顔を覆い、誰もいない!見られてない!これは夢!そんなことを小声でぶつぶつと唱えていた。そのまま小さな手に引かれ歩き続ける。きっと周りからは、生まれたての小鹿のようによたよたと引きずられている様子を、好奇な目でみられ嘲笑われているのだろう。


そんなことを考えながらも女の子の「ここだよ!」という強い言葉に恐る恐る顔から手を外しうっすらと目を開ける。目の前にはバカでかい建物の入り口が見え、少女がその建物の扉をバーーーン!と勢いよく押し開かれ・・・びっくりしている私はその少女によってそのまま引きずり込まれた。


「ラビ―――!いるーーー???」


大きな声で女の子が叫ぶとカウンターから出てこちらに駆け寄る一人の女性・・・


「あ・・・うさ耳・・・」


小さな声で感想を漏らす里香は、やっと離された方の手をなでながら、場違いな感想をつぶやきながら惚けていた。


「この子を拾ったの!あとはそっちで色々面倒みてあげて!多分素質はあるわ!」


「エルザ様!またですかぁ?まあいいですけど・・・」


うさぎな人にすべてを任せてそのまま女の子はカウンター後ろの扉に入っていった。ラビと呼ばれたそのウサギな女性は、そのエルザ様と呼ばれた小さな女の子を見送るとくるりと振り返り、一瞬戸惑ったものの、きょろきょろと辺りを見渡しはじめた。そして私と目が合うとにっこりとほほ笑む。


「あのーーちょっとこちらに来てもらっていいですか?」


手招きしているその女性。里香は恥ずかしさをこらえてそちらにゆっくり近づく。


「はじめまして。私は受付のラビといいます。よろしくねお嬢ちゃん♪」


「ひ・・・・ひゃい!」


声が上ずってしまった・・・はずかしい・・・みるみる顔が熱くなる。とはいってもすでに真っ赤になっているので、はた目からみるとかわらないのだが・・・


「緊張しなくてもいいのよ。ここは冒険者ギルド。ここにはお仕事に来たのかな?」


何を言ったら良いのか分からなかった里香は戸惑っていた。


「あっ、さっきの女の子はあー見えても一応ここのギルドマスターなの。ハーフエルフで年齢不詳。年のことは言っちゃだめよ?どっちに見られても怒るから・・・」


ぺろっと小さく舌を出すかわいいラビさんの仕草で少し緊張がほぐれてきた里香はたどたどしく説明を始めた・・・。突然この世界に迷い込み身寄りどころか持ち物も何もなく、頼るあても何もないことを説明していたのだが、知らず知らずのうちに頬に涙が流れてしまう。そんな私を、ラビさんはやさしく抱きしめて頭をなでてくれた。


「ここの二階にね、宿泊施設があってそこに私も住んでるから、しばらく一緒に暮らしましょ。お姉ちゃんがわりに頼って頂戴。まずはここに慣れてから、ね・・・」


抱きしめられてかなりの安心感を得た里香。なんせモフモフである・・・腕が、首筋が、ふわふわと温かく身も心も包んでくれた。不安もあるが、獣人モフモフ異世界万歳!と大きく心のガッツポースをしてしまったのは内緒である。


「しばらくお願いね」


他のスタッフに受付を任せるとラビさんは私の手を引き、二階に続く階段をゆっくりと登っていく。登り切った廊下の突き当りのドアを開けると小さなベットと机がある質素な部屋だった。開けっ放しの窓から吹き込む風が気持ちいい。そんなことを思った私をベットに座り手招きするラビさん。隣に緊張しながら座ると、ラビさんはゆっくりと話をしてくれた。


「あなたは渡り人さんね」


そんな言葉を皮切りに、この世界は良く渡り人という異世界から迷い込んだ人が現れるという。ラビさんはこの世界でも少し珍しい鑑定能力をもっているため、ギルドマスターの信頼を得ているこのギルドの実質ナンバー2なのだとのこと。そして、ラビさんに言われるがままに『ステータス』と口にすると、目の前にはゲームのようなウィンドが出現する。




◇◆◇ ステータス ◇◆◇

アンジェリカ 14才

レベル1 / 力 F / 体 S / 速 C / 知 C / 魔 F / 運 S

ジョブ 聖女

スキル ---

加護 女神ウィローズの加護




本当にゲームみたいだなーと惚けているとラビさんがまたやさしく話しかけてきた。


「渡り人さんはレベルが初期の1なのに能力値が極端に高いものがあるの。さすがにウィローズ様の加護を受けている方は初めてみたけどね」


そういうとラビさんは私の頭をやさしくなでなでしてくれた。この人なら・・・怖くないかも。


「アンジェちゃんは体力がずば抜けてあるし、素早さも中級冒険者並みにあるから、冒険者としてもやっていけると思うの」


冒険者かー。私にできることあるかな?いや魔物と戦うんなんで無理!超無理!色々思うことはあるけど、まずはラビさんの話を聞いてみよう。この人なら安心できるから・・・


「もちろんレベルが上がればさらに上がるし。一番は運が最高値だから、きっと何があっても大丈夫だと思うわ」


もふもふの手で撫でられ続けてこのままとけてしまうかも。・・・と思ったが、ステータスでもそうだけど話の中でとーーーても気になる点が・・・アンジェリカってだれ???


「わ、わたし・・・名前、安藤里香・・・なんでアンジェリカなんて派手な外国人のような名前に・・・似合わないよ・・・」


泣きそうになる。


「そうなの。里香ちゃんね・・・世界を渡るとね・・・名前なんかも変わっちゃったりするのよ・・・そして姿も・・・」


そういうとラビさんは撫でていた手を止め、里香の髪をふわっと私の目の前で止める・・・おぉ~ぅ・・・水色なんですが?????これは誰の髪の毛ですか???うん私ですね。わかり・・・ません!!!ラビさんに目を向けぷるぷると首を振ってみる。違う!違うのよーーー!


「里香ちゃん・・・いえ、アンジェちゃんは元はどうかわからないけど今は水色髪がきらきら輝く絶世の美少女よ。うらやましいほどのね」


微笑んでくれたその笑顔に本当は「いえいえ。ラビさんの笑顔の方が尊いですよ」と言いたかったが、絶世の美少女という誉め言葉に恥ずかしくてうまく言葉が出てこなかった。


「これからについてはゆっくり考えたら良いけど、アンジェちゃんはとっても恥ずかしがりやさんみたいだから、あまり無理しない程度にできることから始めてみましょうね。ギルドのお手伝いでも、ほかのお店のお手伝いでも・・・冒険者でも・・・」


「私は仕事に戻るから夕食まではここに居てね。夕食は・・・ここに持ってくるわね」


里香の頭に置かれていた手を離したラビは、ドアまで歩き出して振り返り、夕食まではゆっくりしてよいことを告げると、ラビさんは一度私の元に戻ってきて頭を軽くポンポン、としてからやさしく微笑み、部屋を出ていった・・・尊い・・・ラビさんがいなくなったので部屋を見回す。部屋の隅には鏡のようなものが立てかけてあったので、さっそくその前に立ち全身を確認する。


元の世界とは違い、はっきりくっきりと映ってはいないが、髪は先ほど確認したとおりの水色で自然でやわらななウェーブがかかっている。元は黒髪ロングだったのに・・・。鏡に映った顔も、元の顔とどことなく共通点はあるものの、どこかでみた人気のハーフ美少女アイドルのように改変されていた。


体系は元々の体形とさしてかわらず、それなりにスタイルの良い体つき。そして部屋着だったはずの服装は、なぜか学校指定のブレザーだった。なぜ???ここまで確認すると、はぁ~とため息をはき、ベットに腰掛けた。これからどうなっちゃうんだろう。何を考えるでもなくそのまま惚けているその時間は、夕食をもって上がってきたラビが来るまで長く続いていた。




◆ 神界


「は~~無事アンジェも送り届けたしこれから楽しみが増えるな~♪」


そういうと送り出したばかりのアンジェを覗き見てだらしない顔を見せる。


「あっ!あのデブゥ!!!アンジェになんてことをーーー!あわわわ・・・アンジェの綺麗な足がーーー!!!てい!!!てーーーい!」


女神ウィローズが手を二回ほど振るうと、アンジェに暴言を吐いて疾走した馬車のおっさんは胸を押さえて気絶する。その際に手綱は無理にひっぱられ、次の瞬間コントロールを失った馬車は路肩にはまり横転する。そしてアンジェのヒザは癒しの光が包み込むとすべて元通りに回復した。


「ふぅ~これは気が抜けないわ!私の加護を与えているから大怪我なんかはしないけど、擦り傷なんかは多少はついちゃうのよね・・・」


地球にいたころから目をつけていた女の子。一目見た瞬間から決めてました!ってぐらいに一目ぼれした女神は、周りの悪意には無関心だけれど視線には敏感な女の子。女神はそんな彼女を甲斐甲斐しく見守っていた。そして心からの異世界転生を願った思いをくみ取り、ため込んでいた神力のほとんど注ぎ込んで、自分の直轄するこの世界に転移させることに成功した。実はもう少し神力を節約して転移させることもできたのだが、高い運と加護、見た目の変更などといった自身の好みにジャストミートなカスタマイズを施した結果・・・神力ぎりぎりを消費してしまったのである。


もちろん神力はまじめに神のお仕事をこなしていけば数か月で回復する程度のものだが・・・


「あ、予想通りエルザの方で保護されそうね。あそこなら穏やかに過ごすこともできそうだわ」


うんうん。とうなずきながらアンジェの今後を思いホッとする。でもぼーっとしてもいられないのである。アンジェが健やかに過ごせる時間の間に、神としての仕事をこなさなくてはいけない。すべてはアンジェを見守る時間を作るため!今日も女神は仕事を懸命にこなすのである!


「夕食ぐらいの時間には何かありそうね!それまで全力でかたずけなきゃ!いっくわよーー!」


白い空間を勢いよく飛びだ・・・いや、一度立ち止まり手櫛で髪の乱れと服装を再確認してから、ゆっくりとその出口と思われる何もない空間からすり抜けるように外に出ていく女神。そしてまた白い空間には誰もいなくなった。はたしてアンジェが夕食を食べる時間に戻ってこれるだろうか!頑張れ女神!アンジェの笑顔を心のメモリーに焼き付けるために!

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