#04 原石の片鱗
4月12日。入学式が終わり、自由時間になって新入生が帰っている頃。
「ほらほら、行くよ!」
「なんでお前はそんなテンション高いんだよ…?」
霞に連れられて、演劇部の部室に来ていた。
っていうかなんで一年の霞が部室の場所が正確に知ってんだよ。
「たのもーー!!」
と、霞は思いっきり扉を開けた。
すると、目の前には倒れた人が1人。みたところ、手を頭に当てて、痛がっている。
つまり、霞が開けた扉でぶつけた。
「いったぁ…」
「あ!?大丈夫ですか!?
他の人もその大江先輩に集まってくる。
特に大きな怪我じゃない。そう見てとれた。だが。
「
「あぁ、サンキューな…」
慣れた手つきで氷嚢を作った彼は大江先輩に渡して、僕たちに目を向けてきた。
「それで、君たちは一年生?」
「はい!渚先輩から聞いてませんか?」
「…あ、渚は…」
と、言いかけた時。
【天井】から、渚先輩の上半身が出てきた。
「呼んだかい」
「渚、B級ホラーみたいな登場はやめてくれないか?」
「えー小道具の救出をさせたのは
「はぁ〜…あとは俺がやっとくから、この一年生をどうにかしてくれ」
「お、来たか【
と、彼女、
「っとと、セーフ」
「危ないでしょ」
「怪我してないから危なくない」
「えぇ…」
と、さっきの男の先輩は上に登り、渚先輩はこっちに向き直った。
「ん、改めて。比嘉原霞、橘花葵、演劇部にご招待〜」
「おいおいおいおい!」
と、誰かが言った。が、彼女は止まることを知らないように、話は進んでいく。
「これで3年、2人…は停学か。2年、6人、1年、2人、合計10人になったわけだが…」
「…やるんでしょ?新入生歓迎演劇会」
「えぇ。もちのロン。3万2千。」
「勝手に役満出すな」
と、内輪ノリが回る中、僕はなんとか言葉をパスする。
「えっと…話が急すぎてついていけないんですけど…」
「…君、演劇部、新入生、演劇やる。どぅーゆーあんだすたん?」
「適当…」
でも。
『やってみたい…!』
この熱が冷める気はしない。
「…いいっすよ。理解はしてないですが…把握はしました。」
「そんじゃはい、はい」
と、言った瞬間、天井から降ってきた二年生から台本を渡された。
「これって…!」
「え、」
【アラビアンナイト】の台本だった。
「今から演技の力量を測る。台本は見ながらでいい。相手は私がする。」
絶句。
ただの演劇初心者の演技にあんなほとんど完璧だった渚先輩の演技を当てたら…
【間違いなく気押される】。
霞はいいだろう。中学の時から、渚先輩の背を追い続けてきた身だ。あの夜、言っていた。渚先輩を追ってこの高校に来たと。だったら、ある程度の力はつけられているだろうし。
でも、僕は。今まで演技なんてしたことない。
「よし、霞はこんなものか。じゃ、次、葵だ。やるところは…じゃ、アラジンとランプの魔人が初めて出会うシーンだ。どっちがいい?」
「………先輩はどっちが得意ですか」
「んー、それはランプの魔人かな〜」
「じゃ、僕がランプの魔神で」
「あらら、姑息。ま、いいか」
一呼吸。
『これが!これこそが!僕が求めていた何でも願いが叶う、ランプ!!』
【刹那】
それは変わったのか元がそうだったのかわからないほど、パルス的に切り替わった彼女の声音も気迫も雰囲気も。
全部が【アラジン】だ。
『やっと、やっと!やっと見つけた‼︎…これをこすれば、なんでも願いの叶うランプの…魔人が…!』
アラジンの、渇望。魔法の洞窟に命をかけてきたことが徒労になりたくない間の雰囲気が出ている。
……演劇のキーはバランスだ。凹でも凸でもない、平が理想。
今は僕が凹だ。
ランプの魔人。どう演じればいいのだろうか。そんなことは考えても、考えても思いつかない。
【微細な力】が働いて、脳に作用する。
僕の頭のはこれが残っているのなら。
それが、一番だろう。
その1番を、全力で!
『そう!オイラはランプの魔神さ!ご主人様の願いをなんでも叶えてやるよ!』
それは憧れの【真似】であり、拙いものだった。
*
彼の演技は、私のやった【ランプの魔人】に酷似している。先ほど見たものが影響しているとも思う。が。
たった一回見ただけでこれほどの完成度。
これは私の【
確かめる必要がある……な。
「そうは思わない?翼」
「……」
「おーいー、なに?停学になって不貞腐れてんのかー?」
「……黙れ」
「おお、怖い怖い。ま、久しぶりの部活にくるのは怖いだろうし、ゆっくり来なよ。」
「そうするつもりだよ」
「……もう一人は来させないようにするから。」
「……りょーかい」
それを聞いて、私は翼の家を出た。
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