猜疑に満ちた仮面舞踏会 3

「お疲れじゃ、カローナよ。『仮面舞踏会ラ・クンパルシータ』はどうじゃった?」



 ティターニアちゃんの王宮へと帰ってきた私は、待機していたティターニアちゃんやセレスさんに出迎えられた。


 会場にて私を監視する何者かの存在に気付いた後、少しだけ捜索して帰ることにしたのだ。


 帰りも特別な魔法陣を利用することで、来た場所と同じ場所に帰ることができる。そんなわけで私は、会場からサクッと帰ってくることができた。



「うーん……ほとんど収穫はないわよ? 私を監視してる人がいるのが分かったぐらいね」


「ふむ、やはりそうか……」


「ティターニアちゃんは何か知ってるの?」


「いや……そもそも『仮面舞踏会ラ・クンパルシータ』とは、何十代も前の王が始めた娯楽の集まりじゃった」



 『王』である限り、いつ、何処にいても、『王族である』というと肩書きは付いて回る。


 それも王族の責務ではあるが、肩の荷を下ろしたいタイミングもあるだろう。しかし、他の者はそう扱ってはくれない。


 だからこそ、仮面で顔を隠し、ただの一人の人として、楽しめる場を作った、


 それが、『仮面舞踏会ラ・クンパルシータ』の始まりであった。



「誰もがただの一般人として、楽しめる一時……それが『仮面舞踏会ラ・クンパルシータ』こ本来の目的だったのじゃが……」


「今は違うって?」


「うむ。個人情報が秘匿される故、『仮面舞踏会ラ・クンパルシータ』の場を情報収集の場として利用する者が増えたのじゃ」


「あー……」



 確かに、それは自然な流れだろう。色々な情報を流しても、個人が特定されないから咎めることもできない。


 情報収集の場としてはかなり有用だ。



「しかし、監視までしているとなると……その裏には何らかの組織が絡んでいそうじゃな」


「普通に考えれば、その組織っていうのが、ウェルブラート辺境伯と繋がっている何者か……っていうところね」


「おそらく。……残念じゃが、私も把握できておらん。そのまま潜入を続けてもらうしかないのう……」


「オッケー」



 ……とは言ったものの、どうしたものか……。とりあえず、次で監視者の特定と、できたら牽制入れるぐらいはしたいかしら。



「ティターニアちゃん、『仮面舞踏会ラ・クンパルシータ』はあと何回あるの?」


「近いもので、あと3回じゃな。それを逃すと、次はいつになるか分からないのじゃ」


「あと3回の間に決着を付けるってことね……」


「できそうかの?」


「分からないけど、やってみるわ! ってことで、新しい注文していい?」


「注文? 良い、申してみよ」


「私が使ってたドレス、素材を少し替えてほしいの」



        ♢♢♢♢



『エリアボス: ダイハード・メガランチュラ の討伐に成功!』



「ふぅ……うん、楽勝ね!」


 ・速攻すぎた

 ・久々の配信かと思ったら、ダイハード・メガランチュラを狩ってる謎

 ・3分かかってないんだよなぁ

 ・【恋人】が強すぎるんだよ!

 ・開始直後にメガランチュラに催眠入って、動かないまま触手でボッコボコだもんなぁ

 ・またなんで素材集め? いや、まったり配信見るのも好きだけど



 今回私は、素材集めのためにダイハード・メガランチュラの討伐に来たのだ。


 特に欲しいのは、ダイハード・メガランチュラの。ドレスに糸を仕込んでおいて、『仮面舞踏会ラ・クンパルシータ』の会場で使おうかなって……。


 レベルキャップまで開放した今の私にとっては、ダイハード・メガランチュラなんて余裕だ。視聴者さんも言っているように【恋人ザ・ラバーズ】もあるし、一戦を終えるのに3分かからなかった。



「今ちょっと、新しいユニーククエストをやっていまして……それがあまりにも難しくてさ」


 ・新しいユニーククエスト……?

 ・この前スペリオルやったばっかなのに、また新しいクエストやってんの?

 ・そんなにポンポン見つかるものだっけ?



「あれよ、ティターニアちゃん関係のやつ。あなた達もティターニアちゃんの専属・・の称号を獲得できれば、また新しいユニーククエスト見つかるかもしれないわよ?」


 ・それができたら苦労しないんだよなぁ

 ・ユニークどころかエクストラすら発生できないワイ、涙目

 ・まぁ、そういうのを逃さずにモノにできるのから、こうして配信でも成功してるんだよな

 ・おじさんはカローナ様が楽しそうにしてるだけで満足やで

 ・ちなみにどんなクエスト?



「どんなクエストかって言われると……あんまり詳しいことは、ティターニアちゃんに止められてるのね? しいて言うなら、潜入捜査的な……」


 ・NPCに口止めされるとか、そんなのあるんだ……

 ・潜入捜査?

 ・スパイかな?

 ・カローナ様だと、すぐに相手を殴りそう……



「……それ、ティターニアちゃんにもセレスちゃんにも言われた私の気持ち分かる?」


 ・さすがに草

 ・セレスちゃんどころかティターニアちゃんにまで言われてるのかww

 ・NPCにまで広まることってあるんだなぁ

 ・本性バレてるじゃん



「うるさいわね! 私はちゃんと淑女ですぅっ!」



 相変わらず、私の扱いを分かっている視聴者さん達とやり取りをしながら、もう少しだけ素材集めを続行。


 まぁ、あんまり暴れ回るのは止めておくけど……万が一『女王蜂』に出会いでもしたら、私の方が素材にされかねないからね!

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