頂上決戦 後編

まえがき


Mr.Qさん渾身、23手詰めの詰め将棋


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「ごめんね、皆さん。実況が追い付かない」


 ・これはしゃーない

 ・考える時間すらなくない?

 ・ってことは、貫通攻撃同士の相殺まで読んだうえで動いてたんじゃね

 ・俺だったら最初の矢に刺さってる



「私も……Mr.Qクウの【アヴィス・アラーネア】は避けられたとしても、その後に飛んでくる剣への対応がキツかったかも」



 今の一連のやり取りに、対応を考える時間が一切無かったから、対応が遅れた時点でもう後手に回されるだろう。そうなったらもう、一気に詰み・・まで持っていかれる。


 ただそれはスターストライプさんも同じだったようで、今回は相殺で終わったというわけだ。



 『どう対応すべきか』という話題がコメントで盛り上がる中、一拍置いたMr.Qクウとスターストライプさんは再び動き出す。



 再び先手はMr.Qクウ

 そして、それは最初と同じ魔法の発動だった。


 ただ一つ異なる点……それは、2人の間合いが、開始時点よりも近いという点だ。



「ふんっ」


「おっ……」



 魔法陣によってMr.Qクウの身体が隠れた直後、スターストライプさんは距離を詰めるわけでもなく、その場で手刀を横に振り抜く。


 ビチィッ! っと音を立てて切れたのは、Mr.Qクウが持っていた糸だった。


 客席からの視点だからこそ分かったけど、Mr.Qクウは魔法陣に隠れたその裏で、『ネグロ・ラーグルフ』に括りつけた糸を引いて、スターストライプさんを背後から狙っていたようだ。



 ……いやらしい戦法だ。

 開幕直後に魔法陣の裏から矢を放つ一手を見せているから、嫌でも魔法陣の向こうを警戒する。


 その瞬間に、さっき避けたはずの剣が後ろから襲ってくるのだ。

 これは……私だったら一撃貰ってたなぁ……。



 ただ、それすら読んでいたスターストライプさんは、その糸を切ったのだ。カランッと、剣が地面に落ちる音が響く。



「”天の鍵よ、我が意に応え道標を示せ”———神装武器ミソロジー・ウェポン『エクスカリバー』」


There's no other way仕方がないね



 魔法陣が消えた頃には、Mr.Qクウはバックステップで距離を空けており、『糸通しニードルスレイダー』から持ち替えた『エクスカリバー』が輝きを放つ。


 ここから先、私も息をするのすら忘れるほどの怒涛の展開だった。








 Mr.Qクウの三手目、絶妙な距離からの範囲攻撃アビリティ、【白刃一閃】のモーション。


 対するスターストライプさんの四手目は、一歩下がって『範囲外へ逃げる』を選択。


 五手目、【白刃一閃】をキャンセルし、より攻撃範囲が前方へ長い【グラン・ペネトレイション】の準備。


 六手目、スターストライプさんは弧を描くように走り出し、ポイントをずらしながらMr.Qクウへ接近。【グラン・ペネトレイション】は突き・・ゆえ、横へ動く対象へは当てにくい。


 七手目、【グラン・ペネトレイション】もキャンセルし、カウンターの【ラディエル・カウンター】を見せる。


 八手目、急ブレーキをかけてカウンターの範囲外で停止、そのまま範囲攻撃の【気功波撃】をチャージ。


 九手目、【ラディエル・カウンター】をキャンセルし、そのまま斬りかかる。


 十手目、【気功波撃】を即キャンセルしていたスターストライプさんの拳がMr.Qクウの剣を捉え、互いに弾き合う。



 再び相殺が起こったようで、互いにダメージは0だ。



 十一手目、スターストライプさんの接近を嫌ったMr.Qクウが、一瞬だけ【アヴィス・アラーネア】を見せる。


 十二手目、それを目聡く見抜いたスターストライプさんが、拍子をずらした貫き手で糸を握る手を狙う。


 通常、『前に出て』、『前足で止まり』、『パンチを繰り出す』という三段階で行われる攻撃を、『前に出て』、『パンチを繰り出す』という二段階に省略した上、拳ではなく貫き手だ。


 コンマ数秒と言うタイミングのずれと、数センチの間合いの変化が、大きな影響を及ぼす。



 ただ、Mr.Qクウがそれを見せたのも一瞬の事、スターストライプさんが貫き手を放つと同時……十三手目、【アクセルダイブ】の移動攻撃を横に・・向け、再び距離を取る。



 十四手目、横に逃げたMr.Qクウを追うように身体を反転しつつ、範囲攻撃の【気功波撃】をチャージ。


 十五手目、盾を前面に構えつつ、【バタリング・チャージ】を発動。ダメージ覚悟で範囲攻撃の衝撃波をかき分け、攻撃を叩き込む作戦だ。


 そんな選択をしたMr.Qクウに少し驚きつつ、スターストライプさんは【気功波撃】をキャンセルし……十六手目、カウンターアビリティ、【諸手木砲撃もろてもくほううち】を構える。



 十七手目、カウンターの範囲ギリギリでブレーキをかけて停止、即座に糸を展開して【アヴィス・アラーネア】で捕えにかかる。


 十八手目、『それはさっき見た』とばかりに貫き手を突き出し、【アヴィス・アラーネア】を阻止する。


 十九手目、【アヴィス・アラーネア】をキャンセルしたMr.Qクウは、スターストライプさんの拳に合わせて剣を振る……でもなく、【グラン・ペネトレイション】の準備を始めた。



「……shit」



 スターストライプさんが、そう小さく声を漏らす。自身が悪手を選んだことに、手遅れになってようやく気付く。


 『さっき見た』と、反射的に同じ対応・・・・をしてしまっていたことに。



 それこそが、Mr.Qが仕掛けた罠。何度か同じ展開を見せることで、その対応を相手に刷り込み、同じ対応を強制する・・・・・・・・・


 突如手を変えたMr.Qを認識しつつも、すでに攻撃は繰り出してしまっていたのだ。もう、後戻りはできない。



「くっ……オォォッ!」


「グゥッ!」



 二十手目、スターストライプさんの攻撃がMr.Qクウにヒットする。いくらエクスカリバーの自傷でHPが減っていると言っても、アビリティでも何でもない攻撃では、HPを削り切れない。


 いや、耳にVIT強化のアクセサリを二つも着けている。最初から、Mr.Qクウは攻撃を受けるつもりだったのだ。


 HPを調整する・・・・ために。



 二十一手目、Mr.Qクウの【グラン・ペネトレイション】がスターストライプさんの身体を貫く。


 アビリティを使っていないスターストライプさんには硬直はないけど、攻撃を受けてHPがギリギリになったMr.Qクウは、『エクスカリバー』の効果によってアビリティ発動前後の隙が極端に短くなっている。


 結果、回避も迎撃も間に合わなかったのだ。



 二十二手目、ダウンを喫したスターストライプさんは行動できず。


 二十三手目、Mr.Qクウの大上段が、ダウン中のスターストライプさんを切り裂いた。







 僅かな間すらなく、ノンストップで二十手以上続く応酬の末、打ち勝ったのはMr.Q。1位vs2位の頂上決戦、下剋上は叶わなかったようだ。



『スターストライプ戦闘不能! Mr.Qの勝利!』


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あとがき


この二人が異質・・であることが伝われ……!

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