ちょっと見直したわよ?

『スターストライプ戦闘不能! Mr.Qの勝利!』



 アナウンスが鳴り響き、一拍。



「「「——————ッ!!」」」



 堰を切ったかのように、コロシアムの中に歓声が爆発する。


 Mr.Qとスターストライプの決闘は、それ自体が一つの芸術のようで———『これが頂点の戦いだ』と言わんばかりに、完成されたものであった。



 凄まじいばかりの応酬の末、見事に勝利したMr.Qを称える者。

 自身とあまりにもかけ離れた桁違いの実力に畏怖する者。

 ああなりたい・・・・・・と、志を新たにする者。


 三者三様、十人十色。

 様々な感情が入り混じったその喧騒は、決闘が終わり、両者が引き上げた後もとどまることを知らず。


 そして、皆の心が一致する。

 『あぁ、アネックス・ファンタジアは最高だ』と———



        ♢♢♢♢



「———っ、はぁぁぁぁぁ……」



 喉の奥で詰まっていた息を、ようやく吐き出す。


 いかん、Mr.Qクウのことちょっと舐めてた。

 2人の決闘には、無駄も、隙も一切なかった。それこそ、まるであらかじめ打ち合わせをして用意していた演舞を見ているような……そんな錯覚を覚えるほどの、迷いのなさだった。


 2人はきっと、『こう来たら、こう返す』という手筋の研究を、ずっと続けてきたのだろう。それも、数十や数百なんて数じゃない。


 何万、下手したら何億というパターンを網羅し、有効な手順を検討し、反射的に身体が動くようになるまで練習を積み重ねたのだろう。



 あぁ、だからこそのプロ・・か。きっと……いや、絶対に私にはできない。

 断言できる。


 だからこそ、憧れる。



 ・なんかもう、強いとかより美しい

 ・分かる。なんかこう……すごいよな

 ・俺だった最初の魔法を警戒して矢が刺さって終わり

 ・矢を避けても糸に捕まって終わり

 ・糸を避けても剣が刺さって終わり

 ・剣を避けてもカウンターに突っ込んで終わり

 ・カウンターを回避しても、普通に斬られて終わり

 ・みんな数手で詰んでて草



「……そうよね。対応を間違えたら、その時点で詰みだもの。結局、スターストライプさんみたいな手筋しかなかったわね」



 私もさっき視聴者さんと話してたように、私は糸で剣を操ってくるのを読んでいなかった。多分そこで終わりね……。



「ミカツキちゃん、どうだった?」


「うーん、よく分からなかったけど……なんかすごかったってだけ」


「あはは、そうよね。私も最後までは理解が追い付いてないし、ミカツキちゃんがそういうのも無理はないかも」


「あの人、普段は適当な感じで頼りないのに、ちょっと見直したかな?」


 ・なんだと……?

 ・しれっとミカツキちゃんの好感度まで上げるとか……!

 ・これが敗北の味……!

 ・↑勝利の味を知らんだろお前は



「ミカツキちゃん、それ本人に言ってあげてみ? きっと飛び跳ねて喜ぶから」


「俺がどうしたって?」



 ふいに後ろから声をかけられ、そちらを振り向く。すると、そこには戦いを終えたMr.Qクウが戻ってきていた。



「あ、お疲れ。別に? ミカツキちゃんとまぁまぁやるじゃんって話してただけよ」


「まぁまぁって……これでも頑張ったつもりだったんだけどなぁ」


 ・まぁまぁは草

 ・これでまぁまぁはハードルが……

 ・相変わらずの塩対応で笑う

 ・口ではそう言ってるのに、内心はちゃんと認めてるところが乙女で可愛い



「ところで、Mr.QクウもVIP席に入れたんだ」


「そりゃあだって、俺は《勇者》の称号を持ってるんだぜ? こういう場所じゃ文字通りのVIP待遇よ」


「あ~、そういえば勇者だったわね。忘れてた」


「残念ながらスターは入れなかったみたいだけどね」



 含み笑いをするMr.Qクウは、あまりにも悪い笑顔だ。

 ホント……さっきまでの真剣な表情はどうした?



「お見事でした、Mr.Q様」


「私は何が起こったのか分からなかったのじゃがな」


「ありがとう、ライカンさん、ラ・ティターニア様。王国最強の剣のお眼鏡には叶ったかな?」


「さぁ、どうでしょう? 少なくとも、良い戦いはできますよ」


「それは良かった。カローナちゃん、視聴者の反応はどうかな? 結構いい感じだと思うけど……」


「ちょっと見てみる?」



 そう言ってウィンドウを操作し、コメント欄をMr.Qクウにも見えるようにする。彼はわくわくした様子で、それを覗き込んだ。



 ・おいこらMr.Q、我らがカローナ様と仲よさそうにしやがって

 ・そこ代われ

 ・まぁまぁやんまぁまぁ(笑)

 ・勇者だからVIP待遇って自分で言っちゃうのが鼻につくわ

 ・私は目を奪われましたわ! お見事です!

 ・↑さてはセレスちゃんだな?

 ・エントリーしてないと思ったらずっと見てたのか……



「なんかカローナちゃんの視聴者って俺に当たり強くない!?」


「あー……ほら、彼らって私やミカツキちゃんの狂信者だから……」


「カローナちゃん界隈はカルト集団だった……?」


「誰が教祖様だ」



 ちょっと見直したなと思ったけど、変わらないわねこの人……。ちょっとカッコいいと思ったのは勘違いだったか……。



「ところで、カローナちゃんはまた決闘再開するかい?」


「それなんだけど……あんたのあの決闘の後に私の戦い方だと、ちょっと見劣りする気がして……」


「え~……別にカローナちゃんのスピード無双も結構好きなんだけどな」


「そ、そう……?」


「それに、まだ3戦しかやってないだろ? もうちょっと遊んでみてもいいんじゃない? って、視聴者の皆も思ってると思うけど」


 ・その通り!

 ・今日はカローナちゃんを見に来てんだからよぉ

 ・戦い方がどうこうじゃなくて、戦うカローナ様を見に来てんだよ

 ・できればメイド服かゴールデンアヴィスで戦ってほしい

 ●テングスタン:[¥3,000] もっとお願いします!



「そ、そこまで言うなら……まだまだやるんで、皆さんついてきてくださいね!」













 その後、私は数時間に渡ってPvP配信を続けてみた。

 反応は上々。


 というか、同時接続は過去最高記録を更新するほどだった。まさか10万近く行くとは……【進化の因子エボリューションコード】使ってから、爆発的に増えたんだよね。


 あとなんか、『変身した私に殺されたい』っていう変態が増えた。なんで私のチャンネルは、そういうレベルの高い変態が増えるんだろうか……。



 と言うわけで、満足した気持ちでログアウトした私は、ヘッドギアを外して一休みする。さすがに数時間連続ログインは疲れたわね。


 ん……?

 メール……Mr.Qクウから?

 なんでわざわざログアウトしてから……ゲーム内でさっきまで一緒にいたんだから、その時に言えばいいのに。


 と思ってメールを確認してみると———



『配信お疲れ様、カローナちゃん。いきなりで悪いけど、今度の休み、ちょっとデートに行かないかい? もちろんゲームじゃなくて、現実の方で』



 …………えっ?

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