妖精女王 ようやく到着

『プテラの丼、模熱モヒートの両者戦闘不能! カローナ・ミカツキペアの勝利!』



 勝敗を告げるアナウンスが鳴り響き、『決闘』モードが解除される。が、あまりの出来事にプテラの丼さんと模熱モヒートさんは動けずに呆然としていた。


 そんな沈黙を破ったのは、ミカツキちゃんだった。



「……えっ、終わり?」


 ・至極真っ当な反応

 ・重戦士装備を上から叩き潰すとか威力おかしくないか?

 ・しかも一撃だしな……

 ・超重量を超高速でぶつけたらそうなるか

 ・多少重くても投げられる妖仙流柔術と相性が良すぎる

 ・味方であるミカツキちゃんも理解できてないの草

 ・重戦士が苦手とは?

 ・カローナちゃんに重戦士装備で挑むならあれを受け止める覚悟しないとダメなのか……



「対戦ありがとうございました!」


「ぇっ、あっ……ありがとうございました」


「ありがとうございました……なんだろう、この理不尽な暴力にさらされた気分……」


「ふふふ……すごいでしょ、ヘルメスさんの新作の装備」


「装備もすごいけど、それを扱うカローナさんもヤバいと言うかなんというか……」


「貶してるわけじゃないけど、キモい」


「ちょっ!? なんてひどいことを言うのかしら!?」


 ・キモいは草

 ・キモい(誉め言葉)

 ・まぁ、あれを完璧に扱えるPSは上手いを超えてキモいわな

 ・相手二人とも正直者でえらい

 ・コメントですら誰もカローナ様を擁護してないの面白い



 失礼しちゃうわね、本当!

 私だって初見の装備を最初から完璧に扱うなんて……まぁ、できないことないけど……『ゴールデンアヴィス』シリーズに関しては結構練習したんだから!


 これはもっと配信で乙女らしいところを見せないとダメかしら。



 そんなくだらないことを考えながら、プテラの丼さんと模熱モヒートさんといくつか言葉を交わし、とりあえず闘技場から退散。『ゴールデンアヴィス』では歩きにくいから、一旦メイド服にしておいて……



「お姉さん、私に戦い方を教えてくれるっていうこと忘れてない?」


「えっ? ソ、ソンナコトナイヨ……?」


「そんなことなかったら、『二人とも貰っちゃうわね』とか言わないと思うんだけど」


「うっ……」



 新しい装備を思いっきり使えると思って、テンションが上がってつい……はい、ごめんなさい……。



「やっぱり脳筋じゃん」


「ごめんね! 次はちゃんとやるからぁ」


「え~~? 小学生相手に泣いて許しを乞うとか恥ずかしくないんですかぁ?」


「ご褒美では?」


「えっ、怖い……」


 ・カローナ様、無敵か?

 ・強すぎるww

 ・確かに間違ってないな

 ・ガチで引いてるミカツキたそも尊い

 ・分かってて言ってるだろこれ

 ・なんだこの絵面……



 まぁでも、ミカツキちゃんに色々教えるつもりでPvP始めたのに、私が1人でやったら意味ないわね。反省反省……。


 よし、反省終了!



 次の対戦相手も決まったようだし、次に行きましょうか!



        ♢♢♢♢



 カローナとミカツキが第2戦を終えた頃、観客席には別のざわめきが広がっていた。



「ライカン! お非~リア! お主らがちんたらしておるから、やつの戦いに間に合わなかったではないか!」


「すみません、ラ・ティターニア様」



 そう、プレイヤーたちが賑わう中に現れたのは、王国を束ねる女王であるラ・ティターニアであった。


 妖精女王がプレイヤーの前に姿を現すこと自体が、滅多にないことである。それが一人のプレイヤーを見にわざわざ足を運ぶなど、前代未聞。周囲のプレイヤーが注目してしまうのも仕方がないことであった。



「もう少し早く来ておれば、戦っている場面が見られたというのに」


「あなたが勝手に城を抜け出そうとするからでしょう」


「わ、私のせいだというのか!」


「はい。正規の手順を踏めば、もっと早く到着できていたでしょうに」


「うぅ……」


「しかし、この雰囲気を見る限り、カローナ様が勝利したようですね」


「当然じゃ! 私が専属秘書に選んだ者じゃぞ? そこらのプレイヤーに負ける用では逆に困るのじゃ」


「私は直接剣を交えましたから、彼女の強さは身に染みています」


「む、ちょうど次の相手が決まったようじゃな」



 ティターニアとライカンがそう話をしている間に、カローナともう一人の少女が闘技場に姿を現した。



「カローナ様とペアを組んでいるあの少女……なかなか悪くないですね」


「……ライカン、さすがに幼すぎるのじゃ」


「そういうつもりで言ったわけではありません。私が言いたいのは彼女の立ち居振る舞いです」



 ティターニアの揶揄いにも表情を変えず、そう呟くライカン。

 彼の視線の先には弓を構えて佇むミカツキの姿があった。



「弓を構える姿勢に、ほとんどブレがない……まだまだ粗削りではありますが、素晴らしい弓術師の素質です」


「お主、そういう目でしか相手を見ておらんのか」


「私は武人ですからね」


「随分長いこと一緒に居るが……いまだにお主の浮ついた話は聞かんのう……」


「あなたの世話で手一杯だからですよ、ラ・ティターニア様」


「私のせいだと言うのか!?」


「…………」


「お非~リア? あなたも彼女が気になりますか?」


「イエスロリータ……コホンッ……いえ、私はカローナ様達ではなく、それを見ているあの方が気になりまして」


「あの男ですか? ふむ……」


「あの男、どこかで……なんにせよ、嫌な予感がします」

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