カローナ、迷走中

 桔梗さんとの仕合は、結局私の自滅で終わってしまった。


 単純に妖気を【雷】にすればいいというわけではなく、自分の身体の耐久力も重要だったとは……VITにほとんど振ってない私にはキツい技だ。



 けど、掴んだ感覚は悪くはない。

 さすがに【妖仙流柔術】を習得できた経験は大きいようだ。


 あと必要なのはVIT……つまりレベル。今日中にレベル99カンストまで持っていくつもりだ。



「というわけで、今回は【アドラステア原生林】に来ました」


 ・何が『というわけで』なのか

 ・モラクス火山じゃないのか

 ・カニにリベンジかと思ってた



「いや~……一旦レベル上げかな? と思って……。皆さんごめんね? 色々と手を出しておいて、結局どれも中途半端になっちゃって」



 堕龍おろち戦で活躍した私は大量の経験値が入って、現在のレベルは83まで来ている。上限まであと16。


 数が多くてある程度倒しやすくて、経験値が入りやすいモンスターが現れる場所がないかと考えると……【アドラステア原生林】の『アンガーエイプ』を思い出したのだ。


 勝手に仲間を連れてきてくれるし、クリティカルで一撃。しかも意外と経験値が入る。今の私にとって最高の場所だ。ついでに、私はまだ未踏破のエリアだからちょうどいい。



「ひとまず、目標はレベル99到達。ついでにエリアの踏破! 長丁場になる可能性もあるから、皆さんついてきてくれますか?」


 ・当然!

 ・『ついてきなさい』とご命令ください!

 ・かく在れかし、とご覧にいれましょう

 ・視聴者のキャラまで濃いな



「オッケー、じゃあついてきなさい!」



 というわけで始まった【アドラステア原生林】の攻略。まさか、こんな波乱の展開になろうとは……この時は思いもしなかった。












 【アドラステア原生林】に踏み込み、早速現れた『メガブルモス』を難なく斬り倒して、私は奥へと足を踏み入れる。


 堕龍おろち戦前の時点で、アビリティ無しで討伐できた相手だ。今さら苦戦する要因なんてない。


 何より今は効率重視だからね!



「お……?」



 ガサガサと草木が揺れ動き、飛び出てきたのは赤色のトサカ。

 パッと見恐竜のようにも見える強靭な脚で地面を踏みしめ、鋭い目がこちらを睨みつける。


 名は『ディニクス・バリオリウス』。

 私と同じぐらいの体高がある、ヒクイドリのような見た目のモンスターだ。

 どんな能力があるのかは分からないけど、あの太い脚だ。間違いなく蹴ってくるだろうし、あれで蹴られたら私はひとたまりもない。



「いいじゃん、こういう相手待ってた!」


「ピョ—————————ッ!」


「っ!?」



 声可愛いっ!?

 しまった、声に気を取られて反応が遅れた……!


 いきなり放ってきた前蹴りをバックステップで躱し、十分に距離を空けて【変転コンバージョン】を発動。


 本当は蹴りに合わせて距離を詰めたかったけど、仕方がない!

 【マキシーフォード】、【レム・ビジョン】起動!



「ピョッ———」


「ここっ! 【千手夢奏】!」



 ヒクイドリが私に向かって駆け出し、蹴りを繰り出そうとした瞬間———【グリッサード・プレシピテ】で突っ込んだ私の【千手夢奏】が、軸足を斬り刻む。


 極太なうえ、硬い鱗で覆われた脚だ。

 【千手夢奏】だけで切断とまではいかなかったけど……こっちの『魔皇蜂之薙刀』も普通の武器ではない。


 血のようなダメージエフェクトと共に、ヒクイドリの鱗が剥がれ落ちる。



 一気に攻め込む!


 【無重力機動アグラビティ・マニューバ】を起動し、脚を振り上げる。【グリッサード・プレシピテ】の直線移動の方向が上へと変更され、ヒクイドリが振り返った時には、すでに私の身体は上空にある。



 【グラン・ジュテ】による空中ジャンプで、落下速度に初速を乗せ、そのまま———



「【兜割かち】!」


「ピョッ!?」



 ヒクイドリの首へと、高速の薙刀が吸い込まれる。

 宙を滑るように放たれた斬撃は寸分たがわず首に食い込み———クリティカル発生。


 薙刀から伝わる抵抗はさほどなくとも、確かに感じる会心の手ごたえ。

 ダメージエフェクトを噴き上げるヒクイドリは、もう二度と鳴き声をあげることなく、ポリゴンとなって消えていった。



「っ~~~~! やっぱりクリティカル一撃は気持ちい———っ!?」


 ・おっ?

 ・何かきた?



 僅かな音を拾った私は、反射的にスウェーバック。

 直後、寸前まで私の頭があった場所を通り抜けた何かが、横の樹に激突して音を響かせた。



「そこでしょっ!」


「キュエェェェッ!」



 瞬時にインベントリを操作して取り出した『ブリリアンドール・ナイフ』を、攻撃の発生源と思われる名所へと投擲する。


 何もいないように見えるその場所にナイフが刺さると同時、耳を劈く叫び声と共に空間が揺らぎ、そのモンスターが姿を現した。



『レアモンスター: ランパード・カメレオン が出現!』


「おっ、レアモンスター?」


 ・カメレオンでた~

 ・こいつのステルス性能高いからめんどくさいんだよな……

 ・カローナ様よく初手避けたよね



 ダメージを受けて一瞬本来の色を取り戻したそのモンスターは、色鮮やかなカメレオンだ。大きさは1mは超えていそうな、カメレオンとしては大きすぎる。


 カメレオンとしては意外なほどの身軽さで樹からジャンプしたカメレオンは、再び変色し、空気に溶けるように姿を消した。



 【アドラステア原生林】は、【極彩色の大樹海】と同じように大自然にあふれたエリアだ。隠れる場所なんていくらでもあるし、たくさんのが保護色となって生物を隠してしまう。


 カメレオンが潜むには、絶好のフィールドだ。



 けど、姿が見えなくなっただけで、消えたわけではない。私には、目で見えなくても見えている・・・・・



 カグラ様から貰った鈴を鳴らし、その音に耳を傾ける。

 この原生林の中でも遠くまで響く鈴の音は、擬態するカメレオンの姿をはっきりと私に伝えてくれた。



「ふっ……!」


「キュエェッ!」



 カメレオンを発見した私は、【グラン・カブリオール】と大ジャンプと【グラン・ジュテ】の空中ジャンプを駆使してカメレオンに接近、最高速度のままカメレオンを踏みつける!



 グニィッ! とした感触と共に、赤いダメージエフェクトが弾ける。

 『冥蟲皇姫の脚鎧インゼクトレーヌ・レガース』のヒールって結構尖ってるから、踏みつけると痛いんだよね。


 なんてことを思いながら、動きを止めたカメレオンに向けて『魔皇蜂之薙刀』を引き絞り———



「【グラン・ペネト……っ!」


「キュエェェェッ!」



 カメレオンの口から飛び出した舌が、ギュルッと私に向かって曲がってきた。

 頭の後ろにまで回ってくるとは思ってなかった私は、咄嗟に『魔皇蜂之薙刀』を盾にして舌を受ける。


 『魔皇蜂之薙刀』に巻き付いたカメレオンの舌は、尋常ではない力で私の手から武器を奪おうとする。



「意外と力が強いわね、簡単には外れない……なら!」



 咄嗟の判断だ。

 『魔皇蜂之薙刀』を手放した私は、カメレオンの頭を足場にジャンプ。空中で体勢を整えつつ、装備を『フルール』シリーズに変更し、『蟹剛金箍』を取り出す。



 『魔皇蜂之薙刀』はというと、引き戻される舌に捕まったまま、カメレオンの口の中へ———



「食べちゃっていいの? それ、猛毒だけど」


「ギュエェェエ゛エ゛エ゛!」



 カメレオンが、口から黒紫の瘴気を漏らしながら悲鳴を上げる。

 私のMP供給がないから、薙刀に残っていた毒はそれほど多くない。

 それでも、ディアボロヴェスパの毒は致死性だ。少量でも十分すぎる効果を発揮してくれる。



 樹に掴まる力もなくなったのだろう、落下していくカメレオン目掛け、私は『蟹剛金箍』を振り上げる。



「【戦舞打擲せんぶちょうちゃく】!」


「ッ——————!」



 無数に分裂したかのように見えるほどの速度で『蟹剛金箍』が振り回され、そのすべてがカメレオンの身体を打ち据える。


 いくら鱗に覆われていると言っても、その強度は金剛・・に遥かに劣る。

 次第に鱗は砕け、弾け飛び、もはや変色でも誤魔化せないほどに赤いダメージエフェクトに包まれる。


 しかし、ディアボロヴェスパの神経毒に侵されたカメレオンは、逃げ出すこともできず……



 この時点で、すでに勝敗はついていた。



『レアモンスター: ランパード・カメレオン の討伐に成功!』

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