桔梗さんとの修行開始!
「“黒く、
噴き出る妖気が私の身体を包み、黒翼が怪しく彩る。
視線の先の桔梗さんは、私の姿を見てニィッと口角を上げた。
私と桔梗さんが居るのは、もはやお馴染みとなった鬼幻城にある闘技場。
カグラ様の支配下にあるこの場所には妖気が満ちており、どれだけ時間が経っても妖気ゲージが減ることがない。
つまり、今から始まるのは“妖仙流”同士のぶつかり合い。
とりあえず【妖仙流剛術】をたっぷり見せてもらわないとね!
装備を『
そしてインベントリから取り出したのは、金剛蟹のハサミを加工してヘルメスさんの手によって作成された最新武器、『
ダイハード・メガランチュラの爪脚を繊維状にしたものを金剛蟹の甲殻でコーティングし、それを何本も撚り合わせて作られた棒である。
特殊な能力はないけど、とにかく超耐久力で超強度。どれだけ雑に扱っても壊れない最強の棒の完成だ。
「鴉天狗の姿がなかなか堂に入っているようだな、梵天丸と対峙しているように感じる」
「かなり慣れてきたからね。そういう桔梗さんは、なんていう妖怪なのかしら」
「……
「っ!」
動き出したのは同時。
真っすぐに飛び込んできた桔梗さんに向け『
っ!?
めちゃくちゃ早いっ!
まさに『瞬く間』と表現すべき、鋭く迷いがない踏み込みだ。
だけど、単純なスピードなら私の方が早い!
「ふっ……!」
「むっ!」
紫電を纏った桔梗さんの拳は、私を捉えられず空を裂く。
【マキシーフォード】でAGIにバフを掛け、『鴉天狗』の加速力によって一気に横へと飛びのいた私は、空中を踏みしめて再び接近。
そのまま———
「はぁぁっ!」
『
桔梗さんの頭に容赦なく振り下ろした私の『
金属同士をぶつけたようなけたたましい音を響かせ、攻撃したはずの私の手が痺れてしまう。
硬すぎっ……何でできてるのこの人!?
「確かに速い。速いが……軽いっ!」
「軽くて当然!」
「むっ」
桔梗さんにぶつけた『
「私の狙いは最初から殴り合いよっ!」
「面白いっ!」
【レム・ビジョン】起動!
挨拶代わりの左ジャブ。
空気を裂く私のジャブに対し、桔梗さんは身体を沈めて踏み込み、空いた私の左脇腹に迫る。
残念、それは読み筋よ!
ジャブはフェイク。
左腕を途中で止め、ボディブローを放たんとしている桔梗さんへ右の打ち下ろしでカウンターを合わせる!
下から放たれる桔梗さんの拳が私の身体に届くよりも早く、私の拳が桔梗さんのこめかみへ———
「“妖仙流剛術”———【紫電】」
「ゴフッ!?」
脚に力が入らず、その場に崩れ落ちる。
今の一瞬で2割を切ったHPバーを見つつ、私の頭の中は混乱の極みにあった。
何が起こった!?
私のカウンターは、桔梗さんより早く当たっていたはず。左から迫っていたはずなのに、直後に右側に受けたのも分からない。
これが、『百鬼夜行』4位の実力っ……!
「お前、思ったより脆いな」
「あんまりVITに振ってないからね……」
それ以上に、桔梗さんの火力が異常すぎるんだけどね。
でも【妖仙流剛術】を2回受けて、なんとなくその正体が分かってきた。
「【妖仙流剛術】はただの打撃じゃなくて、インパクトの瞬間の
「もうそこまで掴んでいるとは、驚きだぞ」
前回は一瞬で消し飛ばされたから確信は持てなかったけど、今回は一撃耐えたから確信したのだ。
当たった瞬間の、迸る電光。
幾重にも重なって響く破裂音。
何より、何段階にも分割して減っていくHPを見れば、なんとなく【妖仙流剛術】のシステムにも気が付く。
妖気を雷に変換して、ただ相手にぶつけるだけではない。
収束と解放、それこそが【妖仙流剛術】に必要なファクターだ。
「……習得できそうか?」
「できるわよ。伊達に【嵐】を習得してないからね」
仰向けに倒れたまま、私は上に向かって手を伸ばす。
……体内に溢れる妖気を、雷に変換。
要は、デンキウナギと一緒だ。小さな小さな生体電場を、妖気を使って大きく増幅する。
伸ばした手を握ると同時、パチッ———と小さな音と共に静電気のような光が走る。
「その調子だぞ」
「任せて」
私の腕が、徐々に電気を帯び始める。
それは次第に大きくなっていき———
「っ!?」
「あっ」
———バチィッ!
と激しい音と共に、抑えきれずに暴発した雷が、私の腕を消し飛ばす。
流石にグロい表現にはならないけど、激しいダメージエフェクトと共に私の右腕はポリゴンとなって消えてしまった。
あっ……これ、まず私の身体の強化が必要だな?
ていうか、もしかして……これ
私の視線の先にあるのは、0になった自身のHPバー。
桔梗さんの攻撃を受けて僅かに残っていたHPは、雷の暴発によって持っていかれてしまったようだ。
桔梗さんが呆れた表情を浮かべて、私の顔を覗き込んでいる。
「お前、抜けてるところもあるな……意識が戻ったらまたあたいのところに来い。今度はしっかり教えてやる」
その言葉を最後に、私の意識は暗転し、身体はポリゴンとなって消えていった。
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