その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 43(終)

「あー、もう……マジで疲れた」


「お疲れさまですわ、カローナ様!」


 ・お疲れさま!

 ・ついにスペリオルクエストクリア!

 ・5時間ぐらいぶっ続けで戦ってた?



 私がボレちゃんに乗って地上に降りると、セレスさんが出迎えてくれた……という生易しいものではなく、凄い勢いで駆け寄ってきて抱きつかれた。



「んむっ! ちょっ、溺れっ……」


「ナイスファイトですわ! カローナ様最強ですわ! 神ですわ!」


「んぅぅぅぅっ!」


 ・百合展開来た!

 ・エッッッッッ

 ・もうこれだけで見る価値ある

 ・間に挟んでくれ……

 ・↑ギルティ



 いや、マジで息できなっ……



「セレ……さ……」


「ん~~……もう少しこのままでお願いしますわぁ♡」


「いや……死っ……」


「あら、これは失礼しましたわ!」


「ぷはっ!」



 マジで死ぬかと思った!

 いや、冗談抜きで。

 セレスさんが巨乳過ぎて、『窒息』判定出てHP減り始めてたし!


 ホントにもう、大きいし暖かいし良い匂いだし……他の人に取られないように……じゃなかった、他の人が犠牲にならないようにしておかないと。



「そんなに熱い視線を向けられると恥ずかしいですわ♡」


「いや、ドスケベすぎるなぁって」


「ドストレートですわね」


 ・真顔で何言ってるのカローナちゃん

 ・いやまぁ実際そう

 ・見てる全員がそう思ってる



カローナ・・・・


「ん? ボレちゃんどうしたの?」



 私とセレスさんがイチャイチャ……じゃなくて仲良く話していると、『なんだこいつら』みたいな目で見てたボレちゃんが声をかけてきた。



「貴様との共闘もここまでだな」


「……なんか今世の別れみたいな言い方じゃん? ボレちゃんらしくないよ?」


あの・・堕龍おろちを倒せたのだから、これ以上貴様と群れる必要もなかろう」


「寂しいじゃん。ボレちゃんも私のクランに入ったりしない?」


「阿呆が! ……我は故郷へと戻る。分かるだろう?」


「あー……」



 ボレちゃんの視線の先には、紫色の禍々しい空と、そこに浮かぶ大小様々な浮き島。そして、島々の間を飛び交う、無数の堕龍おろちの姿があった。


 以前にカグラ様が言った、『鳥籠の中に堕龍おろちは一体だけ』という台詞。その意味は———偽物の空が崩れたその外には、まだまだ無数の堕龍おろちが存在しているということだ。



「あの空の向こうに、我らドラゴンの故郷がある。……竜王の亡骸はそこに埋葬するとしよう」



 大きな翼を打ち、宙へと浮くボレちゃんの視線は、迷うことなくまっすぐに空を向いている。

 すると、私が纏っていた翡翠色のオーラは次第に薄くなり、形作っていた左腕も消えていく。


 ありゃ、龍装状態もこれで終わりかぁ。

 めちゃくちゃ強かったからこのまま使えたら良かったんだけど……。



「あぁそうだ、カローナ」


「ん? どしたの?」



 飛び去る直前、一度だけ振り返ったボレちゃんが、その瞳に私を捉える。


「貴様と共に飛んだ空は、まぁ悪くはなかった。……貴様が持つ我の尻尾はそのまま貴様にくれてやろう」


「あ、あれ? マジで? 私にくれるの?」


「おい、さっきまでの落ち込んだ雰囲気はどうした」


「だって超貴重なアイテムをくれるんでしょ? そりゃ嬉しいって」


「ふん……」


「でも、もちろんボレちゃんと一緒に飛んだ空は最高だったわよ!」


「……なら良い。見ていろ、我ら龍族の覇天の輝きを」



 その言葉を最後に、翡翠色の輝きは空へと飛び立つ。そしてそれに続いて真紅の、紺碧の、くろつちの輝きが後を追う。


 あっという間に天高く昇ったその輝きは、ほんのわずかな迷いもなく、禍々しい空へと消えていった。



「ボレちゃん達行っちゃったかぁ……短い間だけど、寂しくなるなぁ」


「またすぐに会えるといいですわね」


「そうね……」


「さて、一度落ち着ける場所に戻りませんこと? 『アーカイブ』の拠点が半壊しましたし、『パレードリア』の拠点へ招待いたしますわ。カローナ様も、その左腕では不便でしょうし……それに、そろそろ服装もなんとかしませんこと?」


「あ、そうだったわね」



 とりあえず、久々に『ヴィクトリアン』シリーズに変更しておいて……『部位欠損メイド』というかなりニッチな存在になっちゃったけど。


 場所移動して情報まとめて、軽く打ち上げして終わりかな?


 あー、疲れた!



        ♢♢♢♢



 そこは神秘的で神聖な場所であった。

 堕龍おろちの『鳥籠』によって隔絶された大陸の外側、プレイヤーはもちろんのこと極一部を除いたNPCですら知らないその場所に、一人の少女が訪れる。


 彼女の名は八千桜やちばな 神楽かぐら。"妖仙"を名乗る『鬼』である。



 そんな彼女を出迎えたのは6枚もの純白の翼を持つ女性であった。

 穢れなど一切無いと言わんばかりに輝く白の衣を纏い、白銀の髪を靡かせてカグラの前に現れた彼女は、儚げな笑顔を浮かべてカグラへと近寄る。



「久しいの、アイリーンよ」


「えぇ、えぇ……まさかこうして再会できる日が来るとは思っておりませんでしたわ、カグラ様」


「『様』は要らんじゃろ。そんなもの気にする仲でも———何をしておるんじゃ……?」


「再会の祝福を———」


「んぅっ!?」



 挨拶もそこそこに、カグラの頬を両手で包み込んだアイリーンは、そのままカグラの唇に自分の唇を重ねた。



「ぷはっ! いきなり何をするんじゃーっ!」


「私からの祝福でございます」


「たわけ。女神・・が容易く祝福など与えるでないわ。お主は自分の立場を弁えるのじゃ」


「あら、私は人間ですわよ? 貴女と同じで……」


「……ふん」


「素直じゃありませんね……。しかし、本当に再会できるとは思いませんでした。いったいどうやって……?」


堕龍おろちが討伐されたのじゃよ。妾の弟子と、プレイヤーの手によってな」


「あらあら……」



 カグラに促されるようにアイリーンは建物の窓際へと移動し、遥か下・・・に存在する小さな大陸へと目をやった。



「まあ、本当に鳥籠がなくなっていますのね。……これで彼らは世界の本当の姿を見たのでしょうか」


「うむ……早いところ弟子も育てなければならぬし、お主も悠長にしておれんじゃろ?」


「……お弟子さんを随分気に入っていますのね」


「少なくとも妾は"妖仙"の座を譲っても良いと思っておるぞ」


「ふふ、それはそれは……。堕龍おろちの討伐でも活躍したのでしょう? 私から祝福を与えた方が良いのでしょうか」


「……弟子は女子じゃぞ?」


「むしろ望むところですが?」


「たわけ。カローナはお主には渡さんわ」


「カローナ様……ふふ。まぁ私が地上に降りて祝福を与えると混乱が起こるのは分かります。ですが、もしカローナ様がここに至ることがあればその時は、ね?」


「カローナから来たのであれば好きにするが良い」


「ふふ、楽しみですわ。"嗚呼、愛しい我が子らに祝福があらんことを"———」






─────────────────────

あとがき


やっっっっっっっっっっっっっっとスペリオルクエストが終わりました! 長いことお付き合いいただきありがとうございます!


とはいえ、スペリオルクエストは一つクリアしただけ……前話で増えたものも含め、合計8個のスペリオルクエストを考えていますので、まだまだ続きます。


改めて、アネックス・ファンタジアを引き続き読んでいただけると嬉しいです(_ _)



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