その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 42

 【崩天】———


 それは、龍王が命を賭した最後の攻撃。

 襲いかかるは、そのもの。


 『生きろ』と、『乗り越えて見せろ』と、龍王は叫ぶ。



 さすれば世界は、開かれる・・・・のだと———



        ♢♢♢♢



 あまりに現実離れした光景に、プレイヤー達はただ逃げ惑う。

 空が落ちてきているから、どこにも逃げ場はないというのに。


 そんな堕龍おろちの攻撃に対し、表情一つ変えずに見上げるプレイヤーが一人。

 銀の鎧に身を包んだそのプレイヤーは、『銀龍聖騎士団』のクランリーダー、『お非~リア』であった。



「お非~リア様」


「白銀の姫よ、お任せあれ」



 重厚な鎧を身に纏った『神域重騎士イージス・パラディン』は、逃げ場のない即死級のダメージ必至の攻撃に対して表情一つ変えることはない。


 現在『アネックス・ファンタジア』内で最強の防御力を誇る、『最大防御ランキング1位』を独走する彼に、敵の攻撃を恐れる理由は微塵もないのだ。



 お非~リアは静かに瞑目し、両手を合わせてアビリティの名を口ずさむ。



「【ブレイザブリク】」



 落ちてくる夜の空を塗り潰さんばかりの、眩い光が辺りに満ちる。

 それはこの場にいる全員を包み込み、まるで聖域のような光景を作り出す。


 そして、と白の聖域はぶつかり———



        ♢♢♢♢



 こんなの耐えられるわけないでしょうよ。

 エクスカリバー使って逆境状態のMr.Qクウですら対応しきれずに飲み込まれてたし。


 かといって空が落ちてくるわけだから、どこにも逃げ場はない。



 だから私は、最初から避けるのは諦めて『アーカイブ』に提供されていた大量のHPポーションを取り出したのだ。


 ふははは、例え攻撃を受けても、即回復すれば問題無かろう。

 そんなわけで私は、何分あったか分からないけど短い時間のうちに100以上のHPポーションを全て使いきって耐え凌いだのだ。


 でも残念ながら、ポーションでは装備の耐久値を回復できない。『冥蟲皇姫インゼクトレーヌ』シリーズの全損で済んだだけでも僥倖……ということにしておこう。



 というか今私埋まってるのよね。

 誰か助けてぇっ!



「お、居た居た……カローナちゃん。良かった……生きてたんだね」



 ガラガラと何かが崩れる音と共に、私の視界に赤っぽい光が差し込む。と同時に聴こえたのはMr.Qクウの声であった。



「ありがとう、Mr.Qクウ。助かったわ」


「無事とは言い難い酷い格好だけどね。ソシャゲのダメージ差分みたいな……」


「じろじろ見るな変態」


「くっ殺感あって好きだよ俺は。いや、そんなことはどうでもいいんだよ……外がとんでもないことになった」


「え、それってどういう……」



 空が崩れた瓦礫から抜け出し、立ち上がった私は、すぐにMr.Qクウが言わんとしていることを理解できた。



 空だ。

 空が、紫色・・になっている。

 そしてその不気味な空には、これまた不気味な、赤く大きな『月』が浮かんでいた。



 赤い月明かりに照らされた周囲では、堕龍おろちの【崩天】を耐えきったプレイヤー達が、呆然とこの景色を眺めている。



「ホーエンハイムの言ってたことが分かったな」


「あー……」



 この赤い月こそが、ホーエンハイムが言っていた『侵略的悪性新生物』なのだと言いたいのだろう。













 いったいいつからだろうか。

 我々プレイヤーはずっと、勘違いしていたのだ。

 今見ている空が本物だと、信じて疑わなかった。


 実際は、小さな部屋の中で、天井に描かれた絵を・・・・・・眺めていただけだというのに。


 我々プレイヤーは、偽物の月を眺めて、『綺麗だ』と騙されていたにすぎないのだ———













『アネックス・ファンタジアをプレイする全てのプレイヤーにお知らせします』


『現時刻をもちまして、 堕龍おろち が討伐されました。MVPはプレイヤー名: カローナ 、ラストアタックはプレイヤー名: Mr.Q です』


『全てのプレイヤーに、 堕龍おろちの龍王鱗 が与えられます』

『全てのプレイヤーが称号: 《覇龍を背に、真実を胸に》 を獲得します』


『アネックス・ファンタジアが真の姿を現す———』


『プレイヤーの皆様、空を見上げなさい』

『これが、この世界の真の姿です』

『心を折られてはなりません。あなた達は、世界を攻略せんとする、大いなる翼を持っています』

『そして、龍の血族と協力し、堕龍おろちを打ち倒すことに成功したのです』


『その翼に、誇りを持ちなさい』


『鳥籠は壊れ、大いなる翼は自由を取り戻す———』

『あなた達が見上げる空には、さらなる世界が広がっています』

『その瞳に、覇天の輝きが宿ることを願っています』







『現時刻をもちまして、スペリオルクエスト: その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを がクリアされました』

鳥籠・・の破壊と共に、アネックス・ファンタジアのマップが拡張されます』


『——全てはたった一人の愛のために——』

『プライマルクエスト: ミクロコスモス、彼岸の際にて再臨を願う が終了し、スペリオルクエスト: 新世界の支配者ルーラー・オブ・ザ・ニューワールド が開始されます』


『——4人の賢者は、再臨を望みて現世うつせに降り立つ——』


『プライマルクエスト: 百鬼夜行、彼岸の際にて再臨を願う が終了し、スペリオルクエスト: 人成ら不る者、人を忘るる事勿れ が開始されます』


『プライマルクエスト: ラウンドナイツ、彼岸の際にて再臨を願う が終了し、スペリオルクエスト: 秩序の騎士団ナイツ・オブ・オーダー が開始されます』


『プライマルクエスト:閉ざされし深緑クローザー・フォレスト、彼岸の際にて再臨を願う が終了し、スペリオルクエスト: 胎動する世界樹ユグドラシル が開始されます』


『スペリオルクエスト: 遥か天空より、愛を込めて が開始されます』



『———願わくば、の悲願を達成するための、礎にならんことを———』






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