その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 38

『旋嵐龍ボレアバラムの力の一部が、プレイヤー名: カローナ へと譲渡される———』

『称号: 《翡翠の憑坐よりまし》 を獲得!』


『スペリオルクエスト限定特殊強化エンチャント: 旋嵐龍装 状態に変異します』



「っ!」



 ボレアさんから魔力のような力の奔流が私へと流れ込み、同時にそんなアナウンスが流れる。


 変化は劇的だった。

 元々『鴉天狗』により黒翼を纏っている私に、さらに翡翠の風がまとわりつく。

 ほんのりと輝きを放つ髪はミカツキちゃんと同じようにまるで風にあおられるように靡き、私が武器として最もよく使う脚には、荒ぶる暴風が解放されるのを心待ちにしている。


 そして何より。

 私を中心に荒ぶる乱流が私の左肩に集まり———なんだか不思議な感じのオーラが固まり、淡い翡翠色の光を放つ左腕が生えてきた。



「……ははっ、ヤバすぎ」


「我が力を与えてやるのだ。人間、役に立って見せるが良い」


「人間、人間って……私も『カローナ』って名前があるんだけど?」


「貴様も我の名をちゃんと呼ばんだろうが」


「仕方ないなぁ、じゃあ私は『ボレちゃん』って呼ぶから、あなたも私のことを『カロっち』って呼んでいいわよ」


「阿保か!」



 ボレちゃんの威圧するような語気も、今は心地よい。

 それほど今の私は上機嫌だし、テンションも高いのだ。


 その原因はもちろん、ボレちゃんとの共闘が実現したことや左腕が復活したことがある。

 けど、それだけじゃない。



「くふふっ」



 思わず笑いが零れる。

 はしたないと分かっていても、こればっかりは仕方がない。

 暇がないからチラッとしか確認できてないけど、『特殊強化:旋嵐龍装』の効果……もしこれが本当だったら———



Mr.Q1位にだって余裕で勝てる」


「なにを気持ちが悪い笑い方をしておる。我の役に立ってみろと言っておるだろう」


「可愛い微笑と言いなさい。それじゃ、ちょっと突撃してくるわ」


「ふん……カローナ・・・・、行ってこい!」


「っ!」



 ボレちゃんに無造作に掴まれた私は、その言葉を最後にボレちゃんにぶん投げられた。


 せっかく名前を呼んでくれたと思ったのに、この扱いは酷すぎるんじゃないかしらっ!? 

 あとでしっかり叱ってやらなきゃ。


 けど、いいや。

 初速は十分、【レム・ビジョン】と【アストロスコープ】があるから堕龍おろちの姿もはっきり見えている。



「GyuooooooO!」


「ふっ……」



 正面から堕龍おろちの触手が、牙を剥きながら私に襲い掛かる。

 空中に投げ出された私が隙だらけに見えたか?


 バカめ。

 今の私の空中機動力は過去一・・・だ!



 翡翠色の光を放つ脚で空中を踏みしめ・・・・・・・、クルリと身体を翻す。

 黒紫のオーラに翡翠を混ぜた『魔皇蜂之薙刀』が鱗を穿ち、触手の横っ面へと突き刺さった。


 そのまま触手を大名卸ろしにしながら空中を駆け抜ける・・・・・

 視線はすでに次の触手だ。



「ほいっと」



 横から迫った触手をスウェーバックで躱し、そのまま宙返り。

 回転のまま下から上に向かって斬り上げた薙刀がその触手の頭を斬り落とす。



「“妖仙流柔術”———【山嵐】!」



 一歩踏み込んだ・・・・・私は、斬り落とした触手の頭を復活した左手に掴み、投げ上げるように次の触手へと投擲。


 触手と触手が激突して凄まじい音を立てる中、隙だらけの触手を前に、私はさらに加速する!

 まるでスケートリンクを滑るように、滑らかに触手の元へと到達した私が握るのは、アビリティエフェクトを纏う薙刀。



「【兜割かち】!」



 居合斬りのように薙刀を振り抜き、触手を両断。

 確かな手ごたえ。

 地上へ落下する触手の頭を横目に再び上空へと昇った私は、下から殺到する無数の触手を睥睨する。



「今のが刀だったらもうちょっと絵になるんだけどね……」


 ・何が起こったし

 ・はっ?

 ・速すぎるww

 ・待って、何回空中ジャンプしてんの?



 それだけの触手を前に、私は軽口を叩くだけの余裕があった。

 それはもちろん、『特殊強化:旋嵐龍装』があるからだ。


 『特殊強化:旋嵐龍装』の効果は、堕龍おろちへの攻撃が通るようになることの他に、無限空中ジャンプ・・・・・・・・を備えている。



 正直言って、ぶっ壊れにもほどがある。

 皆が地上を平面にしか動けないところを、私は一人だけ立体的に動けるのだ。

 アビリティと組み合わせれば、宙返りだろうがバックだろうが、なんなら真横にスライドなんて動きも可能。


 飛行機やヘリコプターどころか、昆虫のトンボ並みの空中機動力だ。

 たとえMr.Qクウが相手でも、圧勝できる自信しかない。



 っと、そんな考えは一旦おいてこう。

 私を取り囲む触手は5本。それらの触手は牙を剥き、私を逃がさないとばかりに全方位を覆って私へと殺到する。


 その中心で薙刀を構えた私は、力いっぱい空中を踏みしめる。



「【旋舞打擲】!」



 翡翠を纏う薙刀が幾重もの軌跡を描き、空中を彩る花となる。

 直後、舞い散ったのは花弁ではなく触手の肉片だ。


 バラバラと肉片となって触手が落下してく中、無傷の私は今一度空中を跳ね———たまたま近くにいた地裂龍『テーラベレト』の背中、ヘルメスさんの近くへと着地した。



「っ!? ……カローナか。なんだその姿」


「あ、ヘルメスさんやっほー。これ? ボレちゃんに貰った龍装状態」


「あぁ……かなり人間離れしてきたな」


「ボレちゃん……ボレアバラムか? あいつ、なんだかんだと言いながら人間を認めているではないか」


「あっ、ごめんねドラゴンさん! 勝手に背中に乗っちゃった」


「構わん。我はボレアバラムのように人間を嫌ってはいない。むしろ好いている方だ。我のことも『テーラベレト』と呼ぶと良い」



 威厳のある重低音の声を響かせてそう言うのは、ヘルメスさんと行動を共にするドラゴン、『テーラベレト』だった。


 身体の表面を覆う鱗はゴツゴツしていてかなり硬いが、その分重く動きは遅そうである。

 まぁ縦にも横にも大きい体格を見れば、そういうタイプ・・・・・・・のドラゴンなのはなんとなく分かるけど。



「ヘルメスさんもちゃんと戦えてる?」


「問題ない。こうすれば生産職でも十分に戦える……【錬成】!」



 ヘルメスの手からアビリティエフェクトが放たれ、テーラベレトの周囲に浮く岩へと吸い込まれていく。ビキビキと音を立てて岩が形を変え、あっという間に私の身長を超える大きさの破城槍へと変貌した。



「行け」



 テーラベレトの一言により、その破城槍は放たれる。

 流星のように宙を翔けるその槍は、向かってくる無数の触手を軽々と粉砕し、堕龍おろち本体へと突き刺さってダメージエフェクトを弾けさせた。



「あー、なるほどね。それは頭いいわ」


「俺の職業的に彼が一番合うと思ったからな。ほとんど予定調和だが」



 たとえ生産職でも、素材を無限に手に入れられるとなれば強くもなるか。

 うーん、私が風、ミカツキちゃんが炎、ヘルメスさんが土となると、Mr.Qクウは水かな?



「っと、メッセージ? セレスさんから?」



 突如として響いた通知音に、私はUIを開いてメッセージを確認する。差出人はセレスさんだ。



「なになに……ヘルメスさん!」


「ゴッドセレスからか? 何があった」


「セレスさんが今から隕石を一発落とすから、堕龍おろちに効くようにしてほしいって」


「なるほど……じゃない。何を言っているんだ?」



 ヘルメスさんが疑問を呈するよりも早く、魔法陣が現れる。

 その魔法陣から徐々に姿を現す巨岩は、堕龍おろちと比べれば小さいものだがダメージを期待してもよさそうな大きさだ。



「考えるだけ無駄だな……!」



 魔法陣から放たれる直前ヘルメスが施した【錬成】により槍のような形に変化したそれは、次の瞬間に弾丸のように発射される。



「っ!?」



 まさに『瞬く間』と表現すべきだろう。

 下を見下ろせば、視界に映るのは赤いダメージエフェクト。発生源はもちろん堕龍おろち……その翼の付け根あたりだ。


 『崩欲杖イシュタム』によって何十倍にも強化され、龍装状態のヘルメスさんによって堕龍おろち特攻を与えられた、魔法職における最上位プレイヤーが放つその魔法は、一瞬にして地面へと突き刺さり、堕龍おろちへと確かなダメージを与えたことを示していた。



 感心した表情でその様子を見下ろしていたカローナ達は知らない。

 咆哮を上げる堕龍おろちの足元で響く、白銀の悪魔の高笑いを。

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