その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 29

 カグラ様が開いた不気味な扉から現れた大量の妖怪たち。

 梵天丸さんは見慣れたものだけど、筋骨隆々なデカい鬼だったり、これまたデカい蜘蛛だったり……挙句の果てには骸骨にしか見えない者もいる。


 そんな妖怪たちの姿に若干引きながらも眺めていたのだが……。



「96……97……98……99。あれ、一人足りなくない? カグラ様が参加するってわけじゃないよね?」


「何を言うておる。お主が百人目じゃろう?」


「えっ」


「称号に《名誉妖怪》があるじゃろう。お主はプレイヤーの身でありながら、妾が認めた妖怪の仲間じゃ。そういう意味で名誉・・妖怪じゃて」


 ・悲報 カローナ様、妖怪だった

 ・いつの間に人間やめたん?

 ・でもなんか納得

 ・あのハイスペックはどっちかと言うと確かに妖怪側だろ



 あー、ここであの称号の効果が発揮されるのね。


 現にこの場にいる妖怪たちも、誰も反論しない。それでいいなら……まぁ今だけは妖怪になってあげようじゃない。



十六夜いざよいよ」


「何でしょう?」



 カグラ様に名を呼ばれ返事をしたのは、一番最後に出てきた美人さん。

 艶やかな着物を優雅に纏い、純白の狐耳とふわふわな尻尾が美しくも可愛い。


 しかし、その眼は一転して冷たく透き通っていて、目じりの赤い隈取と合わせて刀の切っ先のように鋭い眼力になっている。私のチャンネルの視聴者なら大喜びしそうだ。



「お主に指揮を任せる。景気付けに一発頼むのじゃ」



 クイッとカグラ様が親指で外を指さすと、その先には空から降ってきた堕龍おろちの小型分体が数体。



「了解です。……“妖仙流抜刀術・・・”———」



 え、抜刀術・・・


 そう呟いた十六夜さんに目を向けると、鞘に納められた短めの刀の柄に手をかけ、瞑目する彼女の姿があった。


 一切の揺れ・・がないその姿に思わず目を奪われる。


 まさに明鏡止水。

 自然体のまま刀に手を掛ける十六夜さんからは何も感じない。

 匂いも、音も、それどころか、生きている気配さえ———



「———【冥邈一㔃めいばくいっせつ】」



 ———次の瞬間、鯉口を切った漆黒の刃が宙を裂く。


 それは、“妖仙”の名の下に顕現せし窮極の【闇】。


 彼女から放たれたそれ・・は、遥か九皐きゅうこうまで染める深闇を一刀の下に斬り裂く一撃。


 『アーカイブ』の拠点から見える範囲に存在する堕龍おろちの分身体を全て・・斬り裂き、霊廟の上に鎮座する堕龍おろちの本体にもはっきりと裂傷を刻んだ。


 数km離れた先にいる堕龍おろちに、だ。



「GyuoooooooooO!?」



 ・えっ

 ・抜刀術!?

 ・えっぐ

 ・距離無視!?

 ・和装狐耳美少女侍ふつくしい……

 ・ちょっと待てなんだその威力



「っ……さすがに硬い」



 十六夜さんが刻んだ裂傷は、致命傷には程遠い。

 せいぜいが表面の鱗を削った程度で、ダメージも僅かなものだ。


 しかし、狼煙・・とするには劇的な一撃だ。


 そんな一撃を放った十六夜さんは、手に残る痺れにほんの少しだけ顔を歪めるもすぐに冷たく美しい表情に戻り、切っ先を堕龍おろちへと向けて声を上げる。



「全員、突撃」


「「「「「オォォォォォォォッ!!」」」」」


「っしゃオラァァァッ!」

「かかってこんかい!!」

「ぶっこんで行くぞオラァッ!!」



 うわぁ……妖怪と言うか、これもうただのチンピラ……。

 口々に雄叫びを上げて我先にと突撃していく妖怪たちを見て、私はドン引きの声を漏らす。



「これで一先ずある程度の戦力は確保したの。あとは……ホーエンハイムよ。首尾はどうかの?」


「問題ない。ドラゴンの復活にそれほどの時間はかからないだろう」


「なら良い。しかし、この建物の周囲にあ奴の分体が増えてきておる。ここは我ら妖怪と、カローナで守り切るのじゃ」


「オッケー! Mr.Qクウも手伝ってね!」


「もちろん協力するけど……なんか『百鬼夜行』のNPC、強すぎねぇ?」


「それは私も思った。梵天丸さんは言わずもがな、十六夜さんが相手だったら勝てる気しないんだけど……」



 いやー、でも【抜刀術】かぁ。

 めっちゃほしい……。

 十六夜さんに頼んだら、梵天丸さんみたいに稽古つけてくれないかな。



「つーかさ、カグラ……様? が来て、こうして色々手助けできるってことは、アーサーもできるんじゃねぇの?」



「呼んだかい?」


「ぅおっ!?」



 突如として背後から聴こえたその声に、Mr.Qは驚いた様子で声を上げた。


 そこにあったのは、銀の鎧に身を包んだ騎士の姿。

 どこか儚げな印象を称えた目が視線を引く、思わず見とれてしまうほどの超絶イケメン!!(カローナ個人の感想です)



 そんな彼は不思議なことに月明かりのような淡い光に包まれており、明らかに尋常ではない、しかし不吉なものではなく神聖なオーラを纏っていた。


 彼こそが『アーサー』と呼ばれる、プライマルクエスト『ラウンドナイツ』を支配するキーマンである。



「久しいの、アーサーよ。お主も来れた・・・のか」


誰かがそれを願った・・・・・・・・・からね。そもそも堕龍おろちを放っておくわけにもいかないし」



 突如として現れたアーサーに、表情一つ変えることなく話しかけるカグラ様。

 やはり、カグラ様とアーサーは知り合いだったようだ。


 これで、『百鬼夜行』のカグラ様、『ラウンドナイツ』のアーサー、『ミクロコスモス』のホーエンハイムが揃った。現在進行中のスペリオルクエストがプライマルクエストと連動しているというのは確実で、それぞれのトップが集まるほど重要なストーリーなのだろう。



「ほれ、ホーエンハイムよ。アーサーの方から来てくれたのじゃ。何か言うことがあるじゃろう?」


「……すまなかった。随分昔のことを今さらだが、私のエゴで君をそうさせた・・・・・ことを詫びよう」


「ん、あぁ、あれ・・のことかな? 別に構わないよ。僕は意外とこの身体を気に入っているんだ。人の想いが消えない限り、僕はこうして生きることができるのだから」


「お主はおしゃべりが過ぎる。他の者が聞いておろう?」


「おっと、ついつい癖でね」


「興味を惹く話ばかりで正直今すぐにでも話を聞きたいところだが、優先順位があるのだろう?」



 ついに痺れを切らしたジョセフさんが、カグラ様たちの会話に割って入った。この輪に中に入れるなんてすごいなぁ。


 あ、色々と配信しちゃってるけど、これ大丈夫かな?



「すまんの、妾が話の腰を折ってしもうた」


「いや、あとで色々と聞かせてくれるのであれば構わないよ」


「ではそちらを先に終わらせよう。ヘルメス、私を連れて行くがいい。最終仕上げと行こう」

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