その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 6

 あの、なんだか首がめっちゃ増えてません……?


 最初からあった堕龍ワイバーンの頭は現時点で最もダメージを与えているセレスさんにヘイトを向けているものの、首から枝分かれして増えた頭に背中から生えた頭など、5つの頭がこちらを向いているのだ。


 しかもヤマタノオロチみたいに首がきれいに枝分かれしている訳じゃなく、翼や肩から首が生え、どこぞのオカルト人形みたいな歪な姿となっている。



 というか、なんかおかしくない?

 こちらに向けてブレスを放とうとしている頭はそれぞれ、見た目が違うのだ。


 個性があるという話ではなく、獣のように鼻や耳がある頭や、鳥のようにくちばしがある頭など……どう考えてもドラゴンとは程遠い見た目の頭が、一つの身体から生えている。


 どう考えても、ドラゴンじゃないモンスターも混ざってるよね?


 これ、堕龍ワイバーン攻略のヒントになったり……あ、ヤバッ。



 気づけば堕龍ワイバーンのブレスが発射寸前。

 広範囲3に収束2かぁ、いけるかな?


 ここまで育て上げた機動力を全開にし、いざスタートを切る———その直前。



「「「バタリング・チャージ!!」」」


「Karorororororo!?」


「えっ?」



 どこからか現れた十人ほどのプレイヤーが、大盾を構えて堕龍ワイバーンと激突した。

 十人分の突進アビリティが横っ腹に突き刺さった堕龍ワイバーンはバランスを崩し―――そこへ無数の魔法、弓矢系アビリティなどの遠距離攻撃が雨のように降り注ぐ。



「お、マジでセレスちゃんもカローナちゃんもいるじゃん!」


「くっそ硬ぇ!」


「いやでも効いてる! 押せ押せ押せぇ!」


「誰だおい、今タンクを後ろから撃ったやつ!?」



 堕龍ワイバーンを囲む戦場が、一気に喧騒に包まれる。

 私とセレスさんの呼びかけのおかげか、それともスペリオルクエストでヒーローになろうという目論見か。


 とにかく大勢のプレイヤーが戦場になだれ込んできた。



 しかしまぁ、これだけのプレイヤーが集まると事故も起こるわけで。

 魔法攻撃のフレンドリーファイアを受けて声を荒げる一部のプレイヤーが、堕龍ワイバーンの尻尾の薙ぎ払いを受けて派手に宙を舞った。



「いやでも、悪いけどラッキー」



 堕龍ワイバーンにぶっ飛ばされるプレイヤーのおかげで私からヘイトが外れたその隙に、私は一旦セレスさんのところに戻る。



「お疲れ様ですわ、カローナ様!」


「いやいや、まだ始まったばかりだからね?」


「確かにそうですわね! 皆さん聞いてくださいまし! 堕龍ワイバーン討伐の指揮はわたくし、ゴッドセレスが取らせていただきますわ! クランリーダーがいらっしゃいましたら一度集まってくださいまし!」



 さすがは配信者というべきか。この喧騒の中でもよく通る声で、セレスさんが呼びかける。ほとんどのプレイヤーが我関せずと堕龍ワイバーンへと吶喊する中、セレスさんの声を聞きつけた数人のプレイヤーが集まってきた。



「おー、すごい。本物のセレスちゃんとカローナちゃんだ……あ、えっと、『カメラマン』リーダーの4Fです」


「あ、どうも。クラン『ジュエラーボックス』リーダーのダイヤモンドです。アーカイブの爺さんに派遣されましてね、こっちに行けと」


「『銀龍聖騎士団』のお非~リアです、お待たせしました。『ディー・コンセンテス』のMr.Qはいないんですね?」


「ご機嫌よう、皆様。助かりますわ! Mr.Q様はタイタン型のところへ行っているようですので、わたくし達で堕龍ワイバーンを何とかしますわよ!」


「で、作戦は?」


「ひとまず人海戦術で削りますわ」


「結局そうなるのね……」


「おかげさまでかなり人が増えましたし、それが一番効率が良いかと。防御に長けた『銀龍聖騎士団』の皆様と、オールラウンダーな『ジュエラーボックス』の皆様で協力して前衛をお願いしますわ。『カメラマン』の皆様は補助アビリティでその援護を。わたくし『パレードリア』は魔法攻撃で削っていきますわ!」


「姫様のためならば、何者も通さぬ盾となりましょう」


「オッケー。みんな、『銀龍聖騎士団』の人とチームを組め! 準備でき次第堕龍ワイバーンに挑むぜ!」


「セレスちゃん? この戦い、写真撮っていいですよね?」


「お好きになさってくださいまし」


「ありがとうございます! こんなに盛り上がりそうなクエストですから、ばっちりカメラに収めてあげるわよ!」



 即席の同盟を組んだ各クランのリーダーが指示を出し、大勢のメンバーが一斉に動き出す。

 すでに百人規模にまで膨れ上がった戦場に統制された一団が参戦したことにより、戦い方がようやく洗練され始める。



「それで、私は?」


「カローナ様は頭を使ってくださいまし」


「えっ、あの、気分を害したのなら謝るけど……」


「あっ、そ、そういう意味で言ったわけではありませんわ!? カローナ様には堕龍ワイバーンの攻略法を考えてほしいと思って言ったのです! ほ、ほら、プライマルクエストの発生者なのですから、わたくしが知っている以上の情報を持っているのではと思いまして!」


「あー、そういうことね」


「そうなのですわ!」



 ビックリしたぁ……こんなに気品にあふれたセレスさんに『自分で考えろバカが』なんて言われたら、この場でログアウトして独り泣き明かすところだったわ。



「まあでもそれで言うのなら……なんとなく検討はついてるわ」


「マジですの?」


「マジマジ、ほらだってあの堕龍ワイバーンの頭って、どこかで見たことない?」


「そうい言われますと、ワイバーンには見えない……というよりは、他のモンスターが混ざっていますわね?」



 そう、堕龍ワイバーンから歪に生えている頭は、ワイルド・パンサーにフォレスト・ウルフ、ストーム・ファルコンなど、この辺りに生息している多くのモンスターのものだ。


 つまり堕龍ワイバーンは、すでにほかのモンスターを大量に捕食しており、かなりのリソースをため込んでいると見ていいだろう。



「私に対して頭を5つも増やしたところから推測するに……一番有効なのは打撃でも斬撃でも魔法でもなくて、高機動とかデバフとかでひたすら嫌がらせをしまくってリソースを削りきること、かしらね」

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