その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 4

 ワイバーンのブレスを炎属性と見抜き、水属性の魔法をぶつけて相殺。

 無数に迫る触手を白銀の杖で弾き返しつつ、弾き返しきれないものは魔法をぶつけて逸らす。

 その合間を縫って呪文を詠唱し、ダメージ狙いの強力な魔法を叩き込む。


 ワイバーンと戦闘を開始しておよそ10分程、そんな戦いを続けたゴッドセレスは思わず声を上げた。



「本っっっ当! キッツいですわぁっ!!」


「いやマジで! これ俺らだけで対応する相手じゃないって!」


「本当にこれHP減ってますの!? 調整ミスってますわよ運営さん! さっさと直してくださいまし!」


「セレスさん! 口じゃなくて手を動かしてください!」


「やってますわ! これは癖ですのよ! あー、もうっ! 広範囲ブレスきますわよ!」


「「「ひぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」」



 コントのような会話を繰り広げつつ、血眼になってチャンスを見極める。


 今この場にいるのは、ゴッドセレス率いるクラン『パレードリア』の面々、合計30名。配信にも稀に登場するサブの演者も含め、全員がゴッドセレスのチャンネルのサポートメンバーである。


 サポートメンバーと言えどもアネファン最古参勢の面々である。ランキング5位のゴッドセレスは言わずもがな、全員が高いPSプレイヤースキルと連携を発揮し、ワイバーンを足止めすることに成功していた。



 だが逆に言えば、トップランカーを含めた計30人が集まって足止めがやっと・・・・・・・という、とんでもない相手ということでもある。



「というか【アポカリプティック・サウンド】の即死効かないの辛すぎるんですけどーっ!」


「二回目ぶつけたら効くとかないんですかぁ!?」


「『終末の予兆』を抵抗レジストされたのだから無理ですわ! あっ、ちょっ、【イモータル・ハンズ】!」


「Karororororororo!」



 ワイバーンが首を水平に振り、瞳に灯る怪しい光が空中に軌跡を描く。直後、身体を独楽のように回転させて放たれた尻尾の薙ぎ払いを、【イモータル・ハンズ】による黒紫の腕が受け止める。



「んぐっ!? 重っ……過ぎですわ!」



 【イモータル・ハンズ】と繋がっているゴッドセレスの右手が、ダメージエフェクトを散らしながら徐々に押し込まれる。このままでは押し切られると察した彼女は、空いている左手を下から上へ、掌を天に掲げるように振り抜く。



「【詠唱省略クイックスペル】、【マグナ・グレイブ】!」


「Karororo!」



 地面から突き出た巨石の柱がワイバーンの尻尾を突き上げ、その方向をずらす。頭上を通り抜けていったワイバーンの尻尾の風圧に顔を歪めつつ、がら空きの背中へと魔法を打ち込むべく詠唱を開始し———


 ワイバーンの背中から生えた二つ目の首・・・・・・・・・・・・と目が合った。大きく開いた口にヤバそうな光が輝いてるのを見るに、ブレスのチャージは完了しているらしい。



「Karorororoooooooooooo!」


「ちょっ、首が増えるとか聞いてないですわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


「「「セレスさんっ!」」」



 放たれるのは、範囲を絞ることで速度と射程を上昇させたレーザーのようなブレス。赤黒く燃えるそれが、ゴッドセレスの姿もろとも樹海を遥か後方まで貫いた。



        ♢♢♢♢



 激しい閃光に視界がホワイトアウトし、続いて暗転。

 全身の感覚が失われ、アバターがポリゴンと化して消えていく……はずであった。



「あら? どうして消えないんですの?」


「ギリギリ間に合ったわね……ゴッドセレスさん、無事?」


「ひゅっ」



 私の腕の中で目を開けたセレスさんと目が合った瞬間、発作でも起こしたかのように口から変な音を漏らし、セレスさんが固まった。



 【アン・ナヴァン】、【アントルシャ】、【パドル・ロール】といったAGI上昇バフの重ね掛けに【変転コンバージョン】によるバフ、妖気解放状態のえげつない加速に【パ・ドゥ・シュヴァル】の前方移動でセレスさんをインターセプトした訳だけど……堕龍おろちの攻撃当たってないよね?



 勢い余ってお姫様抱っこになっちゃったけど……あ、それが原因か!

 セレスさんって狂っ……じゃなくて、熱狂的な私のファンな訳だし、推しにお姫様抱っこなんて十分尊死案件か。


 私だって乙女だし、お姫様抱っこってちょっと憧れるよね……って、なんでMr.Qクウの顔が浮かんでくるのよ! 違う、違うからぁ!



「とりあえずセレスさん、再起動して! 早く早くっ、ハリーアップ!」



 ブツブツと小さく「やっぱり私死にましたの?」とか「天国ですの?」とか呟いているセレスさんの頬をペチペチと叩き、目を覚まさせる。



「はっ! カローナ様? 本物?」


「本物も何も、何度も顔を合わせてるじゃない」


「ピンチの時に颯爽と現れて救い出してくれるなんて……これはもう合意なのでは?」


「そういうのいいから」



 子供のように駄々をこねるセレスさんを半ば無理矢理立たせ、堕龍おろち、いや堕龍ワイバーンへと視線を向ける。


 そこには、自称親衛隊……じゃなくて『銀龍聖騎士団』のメンバーたちが大盾を振るってワイバーンを抑え込んでいる光景が広がっていた。



 『銀龍聖騎士団』の面々は、私と一緒にワイバーンの対処に来たのだ。

 というか驚いたんだけど、私のファンの彼ら……PKerが襲ってきたときにも味方してくれた彼らも『銀龍聖騎士団』に所属してるんだって。


 どおりでPSプレイヤースキルが高いわけだよ。

 ただの狂信者じゃなかったんだね……。



「セレスさん、今どんな状況です?」


「簡単に言うと、人数が足りなさすぎますわ。30人で10分以上殴り続けて、HPが減ってるかすら確認できませんもの」


「うーん、やっぱそのあたりは本体と同じよねぇ」


「……神妙なカローナ様の横顔も恰好良いですわ……」


「……セレスさん、人を集める方法があるとしたら、乗ってくれます?」


「もっちろんですわ! わたくしがカローナ様の提案を断る訳がありませんわ!」


「よーし、じゃあ……今から『カローナ×かけるゴッドセレスのスペリオルクエスト電撃コラボ配信』、やりませんか?」

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