足掻け 森羅万象よ、無限なる空へ

まえがき


やっと……やっとここまで来た……!


─────────────────────


 地下に降りた私たちの眼前に広がるのは、4体のドラゴンの石像が置かれた、祭壇のような場所であった。



「これ、どう思う?」


「はは、言葉が出ないね」



 何やら厳かな雰囲気でそこに鎮座していたのは、今にも動き出しそうなほど精巧な作りのドラゴンの石像だ。というか、めちゃくちゃ精巧すぎて本物のドラゴンにしか見えないんだけど……。


 いや本物のドラゴンってなんだ?


 高さは10mはありそうな巨体、ずんぐりした体格のものやシュッと細いものなど、その見た目は様々だ。



「今までスルーしてたけどさ、このゲームでドラゴンらしいドラゴン見たの初めてじゃない?」


「確かに……」



 ドラゴンなんて、ファンタジーの世界では超テンプレモンスターだと思うんだけど、確かにアネファンの中では見たことなかったわね。


 ここにフラグが用意されてたから、ドラゴンがいなかったのも仕様だった?

 だとしたら、この石像が【霧隠れの霊廟】攻略の鍵になるのでは?



 思考に浸ろうとしたその時、ズンッ―――っと霊廟全体が揺れ、パラパラと岩の破片が降ってきた。



「っと、何?」


「あー……、ねえカローナちゃん、例えば寝るときに蚊がいたとしてさ」


「急に何? 蚊?」


「あぁ、いざ寝ようと思って布団に入ったら蚊が3匹寄ってきてさ、何度追い払ってもいつまでも寄ってきたらどうする?」


「どうって……何としても叩き潰す?」


「やっぱそうだよね。えっと、その蚊が俺ら3人だとしたらどうかな?」


「うーん、まさか、堕龍おろちが全力で私たちを叩き潰しに来る?」



 ―――ズンッ!!



「そのまさかだよね! いよいよ向こうも本気だっていうことだ!」


「Mr.Q! 駄弁ってないで調査しろ! ここからはタイムアタックだぞ!」


「OK! カローナちゃんはドランゴンの石像を、俺とヘルメスは祭壇をとりあえずスクショしまくる!」



 ―――ズズズズズッ!



「ヒェ……」



 まるで地震のように霊廟が揺れ、私はこけそうになりながらもドラゴンの石像まで足を運ぶ。


 うーん、確かに完全に石なんだけど、近くで見ても人が作れるものとは思えないほどの精巧さ。やっぱり本物のドラゴンかなぁ。


 ―――ズンッッ! ビキビキビキッ!



「ちょっ」



 なんかやばい音が聞こえたんだけど、ここ崩れたりしない!?


 とにかく石像の調査を開始。

 おさまらない地震に足を取られつつ、石像に凭れ掛かりながら指で輪っかを作り鑑定すると……



 《アイテム名:残されし希望》



 『残されし希望』……?

 何という意味ありげな名前……しかし、希望か。

 これもあれだ。『匂わせるだけ匂わせといて詳しく語らない』という、アネファン特有のいつものやつだ。


 ―――ズズズッ、ゴゴゴゴゴゴッ!!



 ややややばいわね!?

 なんか色々破壊されてる音が聞こえるし、天井からバレーボールぐらいの大きさの岩が落ちてくるし!


 とにかく少しでも何か情報を……って言ってもアイテム名しか分からないじゃん!

 あれ、アイテム・・・・名?


 これオブジェクトじゃなくてアイテムだ!

 ということはインベントリに収納も……できちゃったよ……。



Mr.Qクウ! ヘルメスさん! このドラゴンの石像、収納できる!」


「マジで!?」


「それを持って帰れってことか?」



 全部を私一人で収納出来たら良かったんだけど、そうはいかなかった。

 とりあえずMr.Qクウとヘルメスさんにもドラゴンの石像を収納してもらったんだけど、もうまともに立ってられないほどの地震が―――


 ―――ビシッ! ゴバァッ!!



 あっ、やば。

 【レム・ビジョン】、【アストロスコ―プ】起動!

 遠視力強化と動体視力強化のアビリティを起動し、崩壊を始める天井を見上げる。



「いや、無理でしょこれ」



 私の視界に入ったのは、崩れ落ちる霊廟そのものと、その隙間から無数に迫る堕龍おろち


 如何にスピードがあっても、雨粒のように隙間すらなく降り注ぐ瓦礫と堕龍おろちを避けきれるはずがない。



 ギリギリでドラゴンの石像は回収できたし、幸か不幸か、私は殺され慣れてる・・・・・・・から早々に諦めることができた。


 それはクウやヘルメスさんも一緒なのか、潰される直前に見えた彼らの表情は、いっそ清々しいものであった。












 …………おかしい。

 すでにHPは0なのに、アバターが消滅しない。

 身体は動かないが、視界の暗転もせず周囲を見渡せる状態だ。


 バグ……なんてことは、アネファンに限ってないだろう。

 つまりあれだ。



『イベントシーンだから黙って見ていろ』



 ということだ。



「GyuooooooooooooO!!」



 空を覆うのは、霊廟そのものが動き出したように見紛うほどの巨体。

 色々な生物の身体をぐちゃぐちゃに引きちぎって繋ぎ合わせたかのような異形の4枚の翼を打ち、空を裂くような咆哮が響く。


 ついにプレイヤーの目に晒されたその歪な化け物は、天の声ゲームアナウンスと共に世界へと知れ渡る。










『遠き日に眠りについた厄災は、今一度世界を破壊せんと脈動する―――』


『アネックス・ファンタジアをプレイする全てのプレイヤーにお知らせします』


『プレイヤー名: Mr.Q、カローナ、ヘルメスにより、霧隠れの霊廟が踏破されました!』


『――大いなる厄災が再び目覚める――』


『レイドモンスター: 堕龍おろち が出現!』


『奪われしものを求め、堕龍おろちがその身を別つ――』


『レイドモンスター: 堕龍・タイタン型 が出現!』


『レイドモンスター: 堕龍・オルトロス型 が出現!』


『レイドモンスター: 堕龍・ウンディーネ型 が出現!』


『レイドモンスター: 堕龍・ワイバーン型 が出現!』







『現時刻を持ちまして、スペリオルクエスト・・・・・・・・・: その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを が開始されます』



『皆様どうか……どうかこの空を、解放してください』




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