霧隠れの霊廟リベンジ 4

 【”妖仙流柔術”――山嵐】

 “妖仙”の名を冠する柔術は、妖気を一定量消費しなければ発動できない代わりに、ダメージ計算にSTRだけでなくAGIも用いて算出するという特殊な仕様がある。


 そのため、VITを捨ててSTRとAGIにステータスを振っている私にピッタリなアビリティと言えるだろう。


 さらに、”掴んだ瞬間の自身のスピード”と”動き出した瞬間の自身のスピード”の差が大きければ大きいほど、威力と投げられる重量・・・・・・・が増加する効果を持っているのだ。



 ヘルメスさんの【バニシング・リフレクト】の相殺によってスピードが0になったところからの、次の瞬間には私のトップスピード。


 威力はもちろんのこと、巨躯を持つ堕龍おろちであっても羽根のように軽い!



「うおっ」



 Mr.Qの驚く声が聞こえた。


 落雷と見紛うばかりの勢いで、堕龍おろちが地面へと突き刺さる。地面が揺れ、轟音が響き、直径2mほどの地面は陥没し放射状に広がったひび割れを見ると、いかに凄まじい威力であったのかがわかる。


 爆心地の中心で数秒間地面に突き立った状態で静止していた堕龍おろちは、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。



 ……何か違和感がある。

 私が【山嵐】を練習していた時よりも明らかに威力が出ていたのは、”妖仙流”に特効か何かがあるからだと納得するとして、私が引っかかってるのはそこじゃない。


 余韻がやけに長いというか、プレイヤーの力で地面に叩きつけたところで、ここまで音が響くか? 地面が揺れるか?


 なんというか、建物の上階にいるときに地震にあった時みたいな……そういうことか!



Mr.Qクウ! ヘルメスさん! 多分地下に空間がある!」



 音の響き方だとか揺れ方が、どう考えても下に空間があるとしか思えない。その空間に何らかのギミックがあるのであれば、堕龍おろちにこっちの攻撃がほとんど効いていない仕様にも説明がつく。



「えっ、いや、そういうことか! くそっ! ヘルメス、穴掘れそうか!?」


「【錬成】っ!」



 Mr.Qの声に反応したヘルメスは、地面に両手をついてアビリティの名前を叫ぶ。ヘルメスの両手から赤い電流のようなエフェクトが弾け、ヘルメスが触れている地面がゆっくりと蠢きだす。



「っ! Mr.Qクウ!」


「【センチュリオン】!」



 やはり私の予想が正しかったのか、それまで私やMr.Qに突撃していた堕龍おろちが一斉にヘルメスさんに殺到する。


 突然ターゲットを変えた堕龍おろちに焦りつつも、即座に反応して弾き返したMr.Qはさすがだ。



「っ……異常に硬い地面だな」


「ヘルメス、何分必要だ!?」


「10分くれ。通れるぐらいの穴は開けてやる」


「任せた! さてカローナちゃん、10分間の耐久戦だ!」


「迎撃ならともかく耐久は苦手なんだけど?」


「そこは俺に任せてよ。泥船に乗った気持ちでさ」


「沈むじゃないのよ!」



 そんな私のツッコミも暖簾に腕押しとばかりにカラカラと笑うMr.Qは、アビリティで堕龍おろちを受け流しながらインベントリを操作する。



 私は私で、ポーションでMPを回復しつつ【変転コンバージョン】を継続しつつ、バフをかけ直して堕龍おろちを迎撃する。


 なんとなく気になってMr.Qを視界の端で見ていると……Mr.Qの全身の装備が変わり、どこか私の『冥蟲皇姫の鎧』とどこか似た雰囲気の、白と金を基調とした豪奢な鎧が姿を現した。



 ……色が違うといえど、ペアルックみたいでなんだがもにょっとする。別に嫌って訳じゃないけどさ、絶対あれ狙ってやってるよね。


 というかペアルック?

 ってことは、あの装備にも―――



「ちょっとリスクはあるけど、腹くくるしかないよね。【変転コンバージョン】!」



 やっぱりね!

 ヘルメスさんと懇意にしているMr.Qが、私の装備にも施されている【変転コンバージョン】を整備していないはずがない。



 そしてそれだけに留まらず、Mr.Qが取り出したのは二本のロングソード。片方は漆黒に塗り潰された魔剣。そしてもう一方は、黄金に彩られた宝剣。


 Mr.Qが普段使っている『糸通しニードルスレイダー』とは明らかに異なる、異様な雰囲気を纏うその剣は―――



「たまには使わないと、インベントリの肥やしにしておくのはもったいないしね。”天の鍵よ、我が意に応え道標を示せ”」



 神装武器ミソロジーウェポン———聖剣エクスカリバー・・・・・・・・・起動!

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