極彩色の女王 6

 喰らう者プレデターがダウンした数秒の隙、私は【アクセルステップ】によるダッシュで女王魔蜂ディアボロヴェスパ・カラリエーヴァの下に辿り着いた。


 既に満身創痍で立てない程に傷つきながらも、その覇気は一切衰えていない。アナウンスが言っていた『深緑の主』と言うのも納得だ。



 ……思うに、女王魔蜂ディアボロヴェスパ・カラリエーヴァも私との戦闘を楽しんでいたんじゃないかな。


 どちらかと言えば、女王魔蜂ディアボロヴェスパ・カラリエーヴァの方が各上だ。それなら適当に私をあしらっておけば良くて、わざわざ私の動きを真似する必要は無いのだから。


 まぁ私が予想以上にしぶとかったってのもあるとは思うけど……。

 未だに闘気が衰えていないのは、変なタイミングで乱入してきたこの男に怒りを覚えているから。私もそうだしね。



 正直やろうと思えば、ここで女王魔蜂ディアボロヴェスパ・カラリエーヴァを討伐することも出来るだろう。


 女王魔蜂ディアボロヴェスパ・カラリエーヴァほどの強者の討伐ともなれば、かなりの経験値を見込めるだろう。



 ———けど、そんな後味悪いことはしない。

 一対一タイマンを邪魔されるのが一番嫌いだし、他人が削ってHPが残りわずかな相手を倒してもつまらないだけだ。



 だから、たとえ不利な状況になったとしても、私は私の矜持に従う。

 お願いだから私に襲いかからないでね? 女王蜂さん・・・・・



 私はインベントリからHPポーションを取り出し、躊躇うことなく女王魔蜂ディアボロヴェスパ・カラリエーヴァへと浴びせかける。私が買った中でも一番高かった割合回復のポーションだから、女王蜂さんのHPも存分に回復しただろう。


 心なしか、女王蜂さんの目が見開かれたような気がした。女王蜂は複眼で瞼なんかないから気のせいなんだけどね。



「あんたもあいつにムカついてるでしょ? 私だけだと火力足りないからちょっと手伝ってくれない?」



 すでにこちらに迫りつつある喰らう者プレデターを正面に捉えつつ、女王蜂には背中を向けて戦う気がないことをアピール。


 正直に言って、女王蜂にはどうでもいい話だろう。

 体力を回復した今なら、喰らう者プレデターなど歯牙にもかけない強さだろうし、私を先に殺してから一対一タイマンで十分勝てる相手だ。



 だから、ここからはもう賭けだ。女王蜂がNPCのような心を持っていることに賭けて、後ろから女王蜂に攻撃されないことを願うのみ。


 けど、あぁ、もう、喰らう者プレデターが目の前に。覚悟を決め———



「!?」



 喰らう者プレデターが振りかぶった拳を放つと思われたその瞬間、私の真横をひゅるりと黄色の風が通り抜ける。



 直後、轟音。



 【神斬舞】のノックバックすら耐えたはずの喰らう者プレデターの身体が冗談のように吹き飛び、木々を薙ぎ倒して砂煙を巻き上げた。


 それを起こしたのは当然———



 ゆったりとした所作で、数分前に私が見せたようなハイキックの体勢を戻す女王蜂の姿に、私は思わず歓喜に手を叩いた。



 ———『アネックス・ファンタジア』において、初めてプレイヤーとモンスターが意志疎通を成し遂げた瞬間であった。

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