極彩色の女王 4

「くはははっ、ラッキー! まさかユニークモンスターとオリジナル装備を持ったプレイヤーに同時に遭遇できるなんて! こりゃ普段の行いのおかげかぁ?」



 突然乱入してきた攻撃に少なくないダメージを受けながらも、声がした方向へと目を向ける。


 そこには、一貫していない装備を身につけた一人のプレイヤーの姿が……そして、名前の横にはPkプレイヤーキラーを表すドクロマーク。


 こいつ、偶然ではなくわざと乱入して報酬を横取りするつもりか。

 何が普段の行いよ。



 チラリと女王蜂に目をやると、女王蜂は立ち上がれないほどのダメージを受けているようだ。私がかなり削っていたとはいえ、女王蜂にダメージを与えるとはなかなかやるようだ。


 しかしそれも……自身で培ったものではなく、プレイヤーキルによって奪った装備によるものだと思うと無性に腹が立つ。



 別に私が正義漢って訳じゃないけど……横入りで報酬を掠め取ろうとするクソみたいな魂胆はムカつくし、何より一対一タイマンを邪魔されるのが一番嫌いなのよ!



「あんたさ、正気?」


「あ? どういう意味だ」


「横入りはダメだよってママに教わらなかったんでちゅか~?」


「てめぇバカにしてんのか!?」


「バカにしてんのよ。私はあんたみたいな他人の物を奪うことでしかイキれない低能サル野郎が一番嫌いなの」


「てめぇぶっ殺す!」



 ———よし、とりあえず女王蜂から注意を逸らすことはできた。あとはこいつの対処なんだけど……


 あぁ、残念。

 私は対人専門・・・・だ。如何にPkerだろうと、対人は私の土俵。


 何より、こいつのムカつく言動で、完全にスイッチ・・・・が入った。例のプロゲーマーに散々相手にさせられた私の対人戦術を見せてやる。



 見た限り、相手はおそらくスタンダードな戦士系ジョブ。魔法攻撃はあるかもしれないけど、搦め手を多用するタイプではないだろう。


 なら……



 初手、【ワイドスラッシュⅡ】をチャージ。


 戦士系ジョブならカウンターアビリティもあるだろうけど、範囲攻撃である【ワイドスラッシュⅡ】はカウンターできないアビリティだ。


 当然、相手は対応を迫られる。


 相手の対応は———ガードを選択。

 格下の私のアビリティなんて受けても大丈夫だと思ったのか……どちらにせよ、日和ったな?



 【ワイドスラッシュⅡ】をキャンセルし、【ピアースレイドⅡ】に切り替える。【ピアースレイドⅡ】はガード貫通だ。


 さて、どうする?



 【ピアースレイドⅡ】は突く動作のアビリティゆえ、軌道は真っ直ぐにしかならない。それを知っているからか、相手は弧を描くように間合いを詰めて射線を外し、移動しながら【ワイドスラッシュ】をチャージし始めた。



 なら、こうしてみようか。

 【ピアースレイドⅡ】をキャンセルして【パ・ドゥ・シュヴァル】起動。相手の範囲攻撃にド正面から突っ込む。



「バカめっ、死ににきたかぁ!?」


「はっ、どっちが!」



 そんな分かりやすいテレフォンパンチ、当たるわけ無いでしょ!


 【パ・ドゥ・シュヴァル】の加速をそのままに【パ・ドゥ・ポアソン】へと繋げ、横薙ぎに放たれた相手のアビリティを前方宙返りで避ける。


 【ワイドスラッシュ】は範囲攻撃とはいえ、横薙ぎの軌道ゆえ上は安地なのだ。



「なっ」


「戦い方が雑なのよ!」


「ぐぅっ!」



 宙返りの勢いをそのままに、モップで叩きつけるように【伐断】を発動。『アネックス・ファンタジア』は物理エンジンもかなりしっかりしていて、同じアビリティでも速度が速ければ速いほどその威力は高くなる。


 【パ・ドゥ・シュヴァル】の加速と宙返りの遠心力を乗せた【伐断】はなかなかの威力だったらしく、私よりレベルが高い相手が弾かれるほどのノックバックを受けている。



 まだまだぁ! 【クイックスカッフル】起動!


 着地直後、私の足が黄色い稲妻のようなエフェクトを纏う。ノックバックを受けた相手以上のスピードで間合いを詰め、【魔纏】により火属性を纏った【燈火・払】———



「ふんっ!」



 おっと、まさかそれ、【鳴雷なるかみ】?

 【鳴雷なるかみ】はたしか、系ジョブで入手できるカウンターアビリティだ。なるほど、サブジョブの正体は侍っぽいな。


 カウンターアビリティに攻撃を仕掛ければ、手痛い反撃を受けることになるけど……残念ながらこれも読み筋だ。


 【魔纏】が乗った攻撃をガードで防ぎきれない以上、このタイミングでカウンターを切ってくるのは分かっていた。


 だから対応できる。



「なんっ……!?」



 カウンターの有効範囲ギリギリを空振り・・・した私は、その勢いのままに背中を見せるほど身体を捻る。


 この体勢が【ワイドスラッシュⅡ】のチャージと同じモーションであると、相手も気付くだろう。故に、この至近距離で範囲攻撃を食らうまいと、通常攻撃を繰り出すしかない。


 たとえそれすら罠だとしても。



 ギャリンッ! と音を立てて、私のナイフによって逸らされた相手の剣が空を斬る。背を向けて【ワイドスラッシュⅡ】をチャージしていると見せかけて、モップをインベントリに仕舞ってナイフを取り出していたのだ。



 高速で振られる剣をナイフで迎撃なんて普通は難しいが、来るタイミングが分かっていれば何とかなるものだ。


 空振りによって明らかな隙を晒している相手の胴体へ———



「【シークエンスエッジ】!」


「ぐぉあっ!」



 オラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!

 ここがチャンス、一発でも多くっ……ぅおっと!


 チッ、さすがに素直に受け続けてくれないか……。



 めちゃくちゃに振り回された剣を避けると、その隙に間合いを取られた。本当は追撃を狙いたいところだけど、【シークエンスエッジ】はSPスタミナの消費が激しいため今回は断念だ。



「やってくれたな、てめぇ……」


「ねぇ今どんな気持ち? 格下だと思ってた相手に一方的にボコボコにされるってどんな気持ち? ねぇねぇ!」


「っ!!」



 顔を真っ赤にしてぶちギレるPKの男。

 これじゃあどっちが悪者か分かったものじゃないわね。

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