推しのピンチに駆け付けるファンの鏡
私の背後で轟音と共に魔法が炸裂し、辺りには悲鳴が木霊する。
狂気的なまでにリアルを追求したアネファンのシステムは、背後から襲い掛かる熱波どころか飛び散る破片の一つ一つまでに当たり判定が発生し、それが当たってちょっと痛い。
「逃げたぞ! 追えっ!」
「誰だよ絶対に当たるって言った奴。当たんねぇじゃねぇか」
「くそ、PP上がりすぎてそろそろやべぇな」
混乱に陥る喧騒の中で、所々からそんな声が聞こえてきた。これ、多分PKの仕業よね。
前に返り討ちにしたやつの報復か、それとも私を捕まえてプライマルクエストについて吐かせるつもりか……。
とりあえず、すごくめんどくさい。
【スカッフル】の効果でAGIとステップの小回りにバフが付いている状態だ。とにかく人ごみを縫ってこの場から離れ……たかった。
「おらぁっ!」
「ふっ……!」
この混乱の中で迷いなく私に迫り容赦なく横薙ぎに振られた短剣を、瞬時に身体を沈めて避ける。
と同時、スカートの内側———太股に装備していたアクセサリーであるホルダーから余っていた『ゴブリンナイフ』を抜き、立ち上がる勢いのまま攻撃をしてきた男の胸に突き刺した。
「ぐっ! クソがっ!」
ダメージエフェクトの量は決して少なくないものの、まだHPは健在のようで、胸にナイフを生やしたまま男が再び短剣を振り被る———
前に、私の前蹴りが男の身体を突き飛ばした。
「なんで私を狙ってくるのよ!?」
「はんっ、うちのボスからの命令だ」
「プライマルクエストを確保しろってな」
「プライマルクエストの情報を渡すか、吐きたくなるまでリスキルされるか選びなぁっ!」
私の前に立ちはだかように、さらに二人のプレイヤーが増えた。
やっぱりそうだよねぇ。
完全なマグレだとは言え、プライマスクエスト発生の瞬間を大々的に配信してしまった影響力は物凄いらしい。
あの時、同接数が数万いってたし、その動画は昨日の今日で再生数100万を超えて今なお爆増中である。
世の中が如何にアネファンに関心があるかが分かるわねぇ。
っと、そんなこと考えてる場合じゃなかった。しかしなぁ、こっちは雑踏が邪魔で機動力が激減、相手は既にPKという罪を犯した者達だから、周りを巻き込むとか関係なく大技を放てる。
圧倒的に私が不利だ。
いつ何処から別のPKが襲ってくるかも分からない状況、とにかく今はこの包囲網を抜けなきゃ。
「っ!?」
「ふはっ! 隙ありっ!」
不意に発生した後ろからの衝撃にバランスを崩す。
これ、逃げようとした野次馬の一人が私にぶつかったのか。
ちょ、まず———
「【シールドバッシュ】!」
「何ッ!?」
バランスを崩した私に迫るPKの男の攻撃が、突然割り込んできた何者かによって防がれる。ノックバック効果までついてるのか、攻撃を加えたPKerの男はたたらを踏んで後ずさりした。
「カローナ様、ここは私達にお任せを。親衛隊集合!」
「「「おうっ!」」」
騎士風の装備に身を包んだ男が声を張り上げる。すると、その声によって位置を把握したと思わしき数人の男……全員装備を統一していることから、おそらく同じクランのプレイヤー達が集合してきた。
「あ、あなた達はっ———! ……誰?」
私の反応に彼らはガクッとずっこけそうになった気がするけど、キリッとした表情を崩さないまま口を開く。
「名乗るほどでもありません。我らはただ、カローナ様を守る者」
「ご安心を。カローナ様には誰であろうと指一本触れさせはしない」
「我らが道を切り開きます。その隙にカローナ様は退避を!」
援軍は凄く助かるけど、くさい台詞を連発……この人たち、ロールプレイに酔ってるパターンか?
と言うか、なんでこのタイミングに都合よく表れて、私を助けるような動きを?
色々と疑問は尽きないけど、味方になってくれるプレイヤーをないがしろにするわけにもいかない。
せめて名前だけでもと、アバターの頭上に表示されたプレイヤーネームに視線を移す———
《Name:オルゾ・イツモ》
《Name:ロッケン》
《Name:チョロリスト》
《Name:テングスタン》
「いや常連さんかよっ!!」
「「「っ!?!?」」」
この人達毎日のようにスパチャ飛ばしてくる、私のチャンネルの常連さんじゃん!
よく見る名前だから忘れる訳がない。
もうね、全部頭の中で繋がったよ!
押しがピンチともなれば、そりゃどこからでも駆けつけて守りたくなるわ!
私だってそうするもん。
多分、私が街にいる時からどこかで見てたんだろうね。
あとお前ら! 『てへへ、ばれちゃった』みたいな反応してるけどな、嬉しそうなのがモロ分かりなんだよ!
でも脇目も振らずに駆けつけてくれるあんたらのことが、大好きだよ!
ハァッ……ハァッ……なんか変に疲れた……。
なんか自称親衛隊が気持ち悪いにやけ顔になってるけど……あれ? 声に出てた?
…………ははっ。
とりあえず、この自称親衛隊のお蔭でPKer達の奇襲が失敗し、野次馬たちは距離を置き、遠巻きにサークルを描くように並んで様子を見ている。
バトルフィールドと言うよりは、コスプレ撮影会みたいな感じだ。その中心には私と自称親衛隊4人、そしてPKerが10人ほど残っていた。
取りあえずMr.Qに救援送ってと……10人かぁ。
ちょっとまずいか?
こちらは私を含めても5人、2倍の差があるうえ、自称親衛隊の彼らはおそらく、ディフェンダー系の上位
守りに関してはピカ一だろうけど、どうしてもアタッカーが足りない。
そして、その守りすらも、人数の差で覆される可能性がある。
もう一つ、逆転の芽となる何かがあれば……。
睨みあうカローナ達とPKer達の姿を
「ふふふ……ようやく見つけましたわ、カローナ様」
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