ファンとアンチは表裏一体

「ふむ、これはまた厄介な報せじゃのう……」


 チラッ


霊峰・・ともなると、生半可な実力じゃ生きては行けぬし……」


 チラッチラッ


「かといって妾がここを離れるわけにもいかぬしのう……」


 チラチラッ



 あー、はいはい。これ知ってる。私が行くって名乗りでない限り、ずっとああやってチラチラ視線を送ってくるやつだ。


 城に泊めさせてる代わりに、面倒事を片付けろって? 別にいいんだけどさぁ……。


 と言うか、カグラ様ってNPCだよね?

 あまりにも人間味がありすぎるというか……どんなAI積んでるのよ。


 なるほど、これが『アネックス・ファンタジア』が神ゲーたる所以か。


 前に立ち寄った武器屋の店主もそうだったけど、プレイヤーの気持ちを察すること・・・・・ができるAIなんて、いつの間にできたのよ。そんなのニュースでも聞いてないんだけど?



 将棋やチェスで名人がAIに負けるというニュースはよく見るけど、あれはあくまで経験に裏打ちされた最適解を打ち続けることによる勝利であって、相手の内心を読んでいるわけではない。


 その、心を読む・・・・ことが機械にできないからこそ、このAIが普及した時代に学校の教員がいなくならない訳で———



「どこかに心優しい淑女はいないものか……」


 ジ――――――ッ


「あー、はいはい、分かりましたよ! カグラ様、私が代わりに行きましょうか?」


「おぉ! 本当か? 助かるのじゃ!」




 白々しいっ!



「それで、どういった用件ですか?」


「うむ、簡単な仕事じゃ。妾の配下である『梵天丸』を呼び戻して欲しい。修行と称してそこら辺を飛び回ってるかも知れんが、【霊峰クラマ】を拠点にしておるはずじゃ」



 梵天……飛び回る……クラマ……あぁ、鴉天狗・・・か。

 なるほど、ならきっと見れば分かるだろう。



「分かりました。それじゃ準備するんで……」


「少し待て」



 行く気満々だったカローナを制止し、懐を漁るカグラ。小さ……慎ましい胸のはずなのに、乱れた和服からチラリと覗く胸元はやけに扇情的だ。


 胸元を見つめるカローナの様子に気付いているのか、カグラはにんまりと口元を歪める。



「そんなに胸元が気になるか? んん?」


「べっ、べべ別にそんなんじゃないけどっ!?」


「分かりやすいのぅ。ほれ、これを持っていくが良い」


「これは……?」



 カグラが投げて寄越したものをキャッチし確認すると、それは小さな鈴であった。古ぼけた黄土色の鈴で、水面に一滴の水が落ちたような澄んだ音がする。


 表面には何やら文字らしきものが書かれているが、カローナが知る言語のどれにも当てはまらない形だ。



「妾の配下には皆に持たせているものじゃ。梵天丸は人間など相手にしないが、それを持っていれば無視もできんじゃろ」


「なるほどね……分かりました」


「そしてもう一つ、この子を連れていくが良い」


「カァーッ!」



 カグラ様が手を上に上げると、大きな鳴き声と共にどこからともなく一匹のカラスがカグラ様の手に止まった。



「カラス……?」


「この子は八咫烏のカルラ。妾達あやかしと同じ妖気を持つれっきとした妖怪じゃ。お主が霊峰に行く際にも色々と手助けになるじゃろう」



 カグラ様はそう言うと、軽く手を振って私へと八咫烏のカルラを寄越した。カルラはパタパタと羽ばたき、私の肩に止まった。



「ヨロシク」


「喋れるんかい!」


「当たり前じゃ。ただのモンスターと同じと思うでないぞ? きっと助けになるはずじゃ」


「それは……ありがとうございます」


「梵天丸は気の良い奴じゃ。心配する必要は無いぞ。……戦闘になるかもしれんが……」


「……? 何か言いました?」


「何も言っておらん。では梵天丸を頼んだぞ」



        ♢♢♢♢



 とりあえずMr.Qと【霧隠れの霊廟】に挑む約束してるし、それを先にやって……その後【霊峰クラマ】か……あ、レベリングもしないと。結構やることが多いなぁ。



 そんな感じで今日のゲームを始めたわけだけど、カグラ様から借りた八咫烏……カルラが余りにも便利すぎる……。


 カルラは様々な魔法を使うことができるのだけど、その中に【座標転移テレポート】があったのだ。


 どこにでも転移できる訳ではなく、登録した場所限定となるけど、主要な街のほとんどが登録済みのため、所在不明の【鬼幻城】から一瞬で【アーレス】に移動することができた。


 ただし、私が未開放の街には、私を連れて【座標転移テレポート】はできなかった。残念。



 超優秀な移動手段を手に入れた私は、テンションが上がるままに意気揚々と街に繰り出したわけだけど……ここで問題が発生した。



「あの、本物のカローナさんですか? やっべ、マジで会えちゃった」


「今から一緒にクエスト行きませんか!?」


「あ、あのっ、ファンです! 握手してください!」


「あはは……気持ちは嬉しいですけど、今からフレンドとクエストに行くので……」



 一応握手の申し出には応えつつ、その他の誘いをやんわり断る。


 まだアネファンの配信を始めて少ししか経っていないのだけど、ハクヤガミノーダメ耐久からのプライマルクエスト発生のインパクトが物凄かったからか、大勢のプレイヤーに囲まれることになった。


 と言うか、この人たちみんな私の動画を見てくれたのか……。


 ふーん?(すごく嬉しい)



 別にこういう関わりが嫌いな訳じゃない。寧ろ、配信者なんて人気を集めるのが目的みたいなものだから、私としては嬉しい限りだ。


 それはそうなんだけど……



「やっべ、メイド服マジで可愛いね? ちょっとスクショ撮らせてよ」


「折角ならポーズも取ってさ!」


「なぁ良いだろ? 俺らと一緒にクエスト行こうぜ」



「お前ホントにハクヤガミに耐久できるほど強ぇの? チートじゃね?」


「なぁなぁ、俺にもプライマルクエスト分けてくれよ? 配信者なんだし別に良いだろ?」


「おい、今すぐ俺と決闘しろ。俺が勝ったら装備とプライマルクエストの挑戦権を寄越しな」



 ……強引な奴らとか、話が通じなさそうな奴らも大量に湧いてくる。プライマルクエストが超貴重なのは分かったけど、流石にクレクレは鬱陶しい……。



「邪魔だぞお前ら! カローナ様が可愛いのは分かるがプレイを邪魔するのはマナー違反だろ!」


「何気取ってんだよてめーカロ豚か?」


「所詮ゲームなんだし、ちょっとした遊びだよ遊び」


「それが個人のプライベートを潰していい理由にはならんだろ」



 おっと、なんだか一触即発的な雰囲気になってきたぞ?


 強引に撮影しようとして来るプレイヤーとかプライマルクレクレしてくるプレイヤーに業を煮やしたらしい、おそらく私のファンと思われるプレイヤーが苦言を呈したことで、この周辺には只ならぬ空気が漂ってきた。


 あの、私もう行ってもいいですか……?



 言い合っていた二人がついに胸ぐらを掴み合い、すぐにでもバトルが勃発しそうな雰囲気になるその瞬間———



「っ!?」



 【スカッフル】起動!

 突如感じた殺気に本能的に反応するまま、アビリティを使って人ごみの中を掻い潜る。


 直後、野次馬も含めてなかなかの規模になっていた人ごみに、どこかから飛来した攻撃魔法が着弾した。

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