第一章 ~彼岸の際にて再臨を願う~
見極めよ 嗚呼遥かなる、幽世の扉
その日の夜、『アネックス・ファンタジア』の配信をしながら、
「——ってことがあってね、ついカッとなっちゃったけど、まぁ発破はかけられたかなって。あっ……またゴブリンかぁ」
・これ狙ってやってるだろ
・落ちたな
・その男子絶対カローナ様のこと好きになったぞ。ワイも惚れてるし
・メルト!
「恋に落ちる音がしたって? いや……あれで? 結構キツいこと言った気がするけど……。うーん、相変わらずドロップ渋いなぁ」
・カローナ様意外と鈍感?
・男心が分かってなさすぎる
・いや惚れるやろ
・俺もカローナ様に叱られてぇ……
・カローナ様の叱責とかご褒美
・おい変態が増えたぞ
・罵ってくださいカローナ様!
・わ、私も叱ってくださいまし……
「えぇ……いい歳してバーチャル配信者見てないで、彼女の一人でも作ったらどうですか?」
・そういう心に刺さる系じゃなくて……
・これはいいカウンター入りましたわ
・変態をあしらうカローナ様強い
・3次元じゃ満足できない身体にされちまってよぉ
・こちとらカローナ様に命かけてんだ
●オジサン(生食用):[¥10,000] 罵ってください
・強者現るww
・変態貴族ww
「うわぁ……年下の女の子にお金まで出して罵ってくださいなんてバカなの? おじさん変態なんですか?」
・おっこれは
・ぶひぃっ!!
・ぬっ……! ふぅ……
●キューバリ:[¥5,000] 私めにも! 私めにも!
●カローナ様のブーツ:[¥7,000] 嫌そうな顔でお願いします!
●ロリコンストリクター:[¥5,000] ハァハァ……
・大ww量ww発ww生ww
「ちょっ待っ、怖い怖い怖いっ! 一旦落ち着いて! あなた達冷静じゃないのよ!」
『 オーク が出現!』
「あーっ、ほらもうっ、モンスターが来ちゃったじゃない!」
・これは草
・よりにもよってオークかよww
・コメ欄の豚が具現化したww
・ぶひっ? あっ、兄さん……?
・くっそwwお茶返せww
「ん゛っ!? あんまり邪魔になるようならコメ欄ウィンドゥ切るからね!」
【アクションステップ】起動。
分かりやすいモーションで振り下ろしてきた棍棒を軽々と避ける。そんなバレバレな動きでは避けてくださいと言っているようなものだ、むしろ当たる方が難しい。
【アクションステップ】の効果によりSTRにバフを乗せ、そのパワーでもってオークの軸足を蹴り抜く。
前のめりに倒れかけたオークを顎に下から振り抜くように【燈火・打】を打ち込んで仰向けに倒し、その首元を踏みつけながらカメラに視線を向けて一言。
「こういうのが欲しかったんでしょう? 豚野郎ども、いい声で鳴きなさい?」
・あーっ……もう、あーっ
・ありがとうございます!ありがとうございます!
・カローナ様もノリノリなのが捗る
・このオークになりたい
・兄さんそこ代われよっ!
●チョロリスト:[¥5,000] すまない……もう(普通の性癖に)戻れそうにない……
●カローナ様のブーツ:[¥5,000] 僭越ながら、その……そのまま無言でグリグリしていただけませんか?
「……何で豚が人間の言葉を喋ってるのかしら?」
・ぶひぃっ!
・ぶひっ!ぶひひっ!
・フゴッ!
・おい人間がいなくなったぞ
・カローナ様やけくそになってない?
・自らを追い込むタイプの女王様
「えぇそうよ! やけくそよっ! 【ピアースレイド】!」
脚を掴もうとしたオークの手をかわしてSTRをさらに上げ、攻撃アビリティ【ピアースレイド】を発動する。
【ピアースレイド】はガード貫通効果を持ち、さらにクリティカル時にダメージ補正がつく強力なアビリティだ。
仰向けに倒れる相手にクリティカルを外す訳もなく……赤黒い閃光がオークの喉を貫き、残りのHPを消し飛ばした。
「プギィィィィィィィッ!」
『仲間の声を聞きつけたオークが現れた!』
「「「ブギィィッ!!」」」
「一気に3体も!? 何でいきなり大量発生するのよっ!?」
・草
・草
・これは神回の予感ww
・コメ欄でもゲーム内でもブヒブヒ言ってるのズルいだろww
・これは自業自得ですわ
「あんた達他人事だと思ってぇ! あぁもうっ、まとめて相手してあげるからかかってきなさい!」
♢♢♢♢
無いわぁ……さすがに無いわぁ!
あ~~っ!
何で勢いに任せてあんなことしちゃうかなぁ!?
オークの群れを処理したあと我に返った私は、先ほどまでの『女王様ムーブ』を思い出して四つん這いで項垂れていた。
頭を掻きむしりたい気分だが、そんなことをしても気分が晴れることはなく、せっかくセットした髪が乱れるだけだ。何も変わらないのは分かってる、分かってるけど……
・カローナ様、自業自得って言葉知ってる?
・視聴者的には黒字も黒字
・項垂れるカローナ様prpr
・カメラはもうちょいローアングルから……
・正面から映すと胸元ちょっと覗けるのがグッと来るよね
……配信開始から倍以上に増えた同接数とコメントは無視だ。見てたらむしろもっと腹立ちそうだし。
・えっ?
・あっ
・おっ?
・マジ?
・カローナ様、前! 前見て前!
・気付いてぇ!
それにしても、本当にコメント増えたわね……さっきから通知の音がうるさ———
・はよはよ!
・神回確定
・届けこの思い!
・項垂れるカローナ様をもっと眺めたい気もするけどそれどころじゃない
「———本当にめっちゃコメント来るわね!? 何? 前? えっ……何あれ」
コメントの指示に従って顔を上げると、遠くにぼんやり青い光が現れたのが見えた。ふわふわと宙に浮くその青い光は、鼓動するように強くなったり弱くなったりしており、人魂とかの類いのように見える。
ん? 逃げた?
私が距離を詰めると、青い光は離れていく。まるで、私をどこかへ誘うように。
ふぅん、そういうことなら……【アクセルステップ】発動!
【アクセルステップ】
30秒間、AGIを50%アップ。効果時間中に回避に成功するたびに+5%(最大で合計75%まで)
ドンッ! と踏み込みが強くなり、身体に感じる空気抵抗が明らかに変化する。月明かりに照らされた景色が後ろへと流れていき、青い光は徐々に大きく見えてきた。
【アクセルステップ】はレベルアップで獲得した『ダンサー』系列のアビリティだ。私のように回避に重きを置いた自己完結型アタッカーにはうってつけのアビリティと言える。
AGIが1.5倍とは言え、まだ距離はそこそこ。30秒で追いつけるか……
「グギャギャッ!」
「「ギャギャウッ!」」
っ! ラッキー!
疾走する私に立ちはだかる様に現れたのは、三体のゴブリンであった。もう流石に、何十と討伐してるから、『またお前か』という感じだが、今この瞬間に限りナイスタイミングだ。
真っ先に向かってくる最初の一体を、一瞬右にフェイントを入れて左に抜ける。続いて二体目が振ってきた棍棒をスライディングで下に潜り、三体目の目の前で檜の棒を使い、棒高跳びの要領で上を飛び越える。これで三回回避成功のため、【アクセルステップ】の効果でAGI+15%だ。
「「「ギャッ!?」」」
「ゴブリンさんありがとー、
ゴブリンは名残惜しそうに声を上げるが、今はここで振り向くわけにはいかないのだ……。
でもゴブリンさんの思い、受け取ったよ!(大嘘)
青い光を追って森の中に突入し、【アクセルステップ】の効果時間の30秒が終わるギリギリでようやく追いついた。およそ2mぐらい先でふわふわと漂う青い光は、逃げることを諦めたのか動く気配はない。
誘われるように魅入ること、たっぷり十秒ほど。
まるで心臓の鼓動のように一度だけ強く瞬いた青い光は、徐々に大きく膨張しその形を変えていく。
最初に見えたのは、頑強な四本足。ナイフかと思えるほど大きく、鋭い爪が並び、それだけで明らかな
見上げるほどに大きな体躯と九本の尻尾、青く鋭い瞳に私の姿を映し、白銀の体毛に包まれたその姿は———
「クォ————————————ンッ!」
『———
『ユニークモンスター: ハクヤガミ に遭遇!』
私はこの時、『アネックス・ファンタジア』の深淵に触れてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます